BIN'S ROOM

菅原敏の詩の世界をご紹介

2020.04.29

『森の生活』

今夜はここ、六本木から。
六本木の森は今日もすこしずつ木々を増やし続けていて
緑あふれるこの場所には、いくつもの美術館
ギャラリーやライブハウス、たくさんの書店もあります。
つまりここは芸術の森でもあり、その木々の一本一本は私たち自身でもあります。

わからないものを、わからないままに受け取れる力を養うこと
まだ名前のない感情を受け入れる勇気を持つこと。それが芸術であり、
どんなに困難な状況にあろうとも、われわれ人を、人たらしめるものです。
そしてそれは音楽にも、詩にも通じる物だと思います。

未知なものへと枝葉を伸ばし、大地に根を張り
アート、音楽、そして言葉たち
その一枚一枚の葉が、枯れ落ちることのないように。
文化の森のラジオ局から
今夜はお届けする一編はこちら。

『森の生活』菅原敏

見えない何かが世間に満ちて
呼吸ひとつに夢中になって
僕らはときどきやさしさを
どこかに忘れてきてしまう
彼らのきめごとは
電子レンジで解凍しただけのもので
あまり食えたもんじゃなかった
みんなみんな
かつてなりたくなかった大人に
なってしまっていることに
さっぱり気付いておらず
この街は酸素がうすくなっているので
僕らが森の深くへ分け入っていくのは
何かを諦めるわけではなく
深く息を吸い込むために
緑の葉っぱを口にあて
やさしいことばを いまもう一度

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