BIN'S ROOM

菅原敏の詩の世界をご紹介

2020.03.30

『裏窓』

今夜は乃木坂駅のほど近く、東京ミッドタウン裏手の檜町公園から。
かつては長州藩・毛利家の屋敷と庭園であったこの場所。
明治期には軍の駐屯地となり、戦後は一時、米軍の接収を受けたこともありました。
今は高層ビルの目の前にありながら、
なだらかな丘からはひらけた空を眺めることができます。
かつて、私はこのビルの27階に勤めていました。
よくこの公園で昼寝をしたり、ぼーっと空を眺めながら、
さてそろそろ会社を辞めて詩で暮らしてみようかと見切り発車で
決めたのも、この公園でした。
最後の日には芝生の上、裸足で青いラベルのビールを飲んだことを
よく覚えています。
今では、ひとり、自分の部屋の窓辺でお酒を飲んだりもしますが
あの日の心地よい足の裏の感触を、今も時々思い出すのです。

では今夜、ご紹介する一編の詩はこちら。

「裏窓」菅原敏

すべての窓を開け放ち
仕事するかと机にむかい
とりあえずビールを1本
夕暮れ遠い空はみずいろ
カーテンがゆらゆら揺れる
このカーテンのかたちが
いまの俺の幸せのかたち
かもしれないかもしれない
たかだか風を感じるだけの
このささやかな幸せを
忘れないようにしないとな

ひとりで生きる気楽さと
少しの不安をつまみつつ
えんぴつころがし
いつものビールをもう1本

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