BIN'S ROOM

菅原敏の詩の世界をご紹介

2020.03.24

『4月のふたり』

今夜はここ、台東区の谷中銀座商店街から。

JR日暮里駅から、夕焼けだんだんと呼ばれる階段を降りると、どこか懐かしい昭和な風情を残した商店街が続いています。
ここからは、その名の通り、美しい夕焼けが見える。
私たちはこの商店街から少し横道にそれた薬膳カレー屋さんによく足を運んだ。
快活なマスターの対応はいつも気持ちよく、カレーも、デザートのリンゴの
ワイン煮も、美味しかった。
だけど、ある日の帰り道、私は毛糸の手袋の片方をなくしてしまった。
今もなくしたままの私は、この街に来るたびに、手袋の片割れを探し続けている。

今夜、谷中銀座商店街に注ぐ一編の詩を。

『4月のふたり』菅原敏


アスファルト上の片手袋を拾い上げると爆発する冬が終わって、
動物たちが巣穴で目覚めるころ。
やさしい光のなかでも私たちは少しだけ壊れている必要があった。
ほぼ毎日彼女が家にいるので、通帳なのか未来の姿なのか、
私は何かを見ないようにと驚くほどに毎日眠る。
オムレツリンゴヨーグルト、朝飯を食い終わると午後三時。
彼女の肌も荒れてきた。幸せな暮らしと正しい暮らし。
睡眠薬とビタミン剤。それぞれのちがいを交換したら洗濯機、
私は彼女の下着を洗う。

ARCHIVE