BIN'S ROOM

菅原敏の詩の世界をご紹介

2020.04.08

『街の素顔』

今夜は中央区、日本橋から。
ここ、日本橋のたもとからは神田川、隅田川を巡る船が出ています。
かつて、江戸の時代には交通の要であった水路。
現在、多くの場所は高速道路の高架下に隠れていますが
船で巡ると、家紋が彫られた江戸城の石垣や当時の船着場など、
かつての痕跡が川沿いのいたるところに残されています。
普段見せることのない東京のかつての姿をかいま見る、
水辺の小さなクルーズの旅。
では今夜、この街の今と昔に注ぐ一編を。

「街の素顔」菅原敏

小さな船にゆられ
その流れをさかのぼれば
あたりの風景は
ゆっくり溶け出して
僕らは時間をさかのぼる
自動販売機 コンクリート
電信柱に 街灯 くるま
街の信号 アスファルト
すべてを洗い流して
化粧を落とした東京が
昔の顔でまぶたをひらく
太陽の光と起きて
月がでればおやすみを
いまでは失われてしまった
本当の夜の静けさに
深くもぐって 眠っていた
かつての彼らはどんな夢
見ていたのかと
船に揺られて 東京が
いつもの顔でまぶたをとじる
川の流れを優しく頬に

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