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映画監督の吉田大八さん②

各界のトップランナーに、
これまでの経験から得た
“学び”をシェアしていただきます。

今週は、映画監督の吉田大八さん

CMディレクターを経て、
2007年に
「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」で
長編映画監督デビュー。

2012年公開の
「桐島、部活やめるってよ」では
第36回日本アカデミー賞
最優秀作品賞および最優秀監督賞を獲得!

現在、長塚京三さん主演の
最新作「敵」が絶賛公開中!

今日のテーマは、
「人生に影響を与えた作品」

***
私の人生に影響を与えた作品は、
ヒップホップグループ「ビブラストーン」の
1991年の楽曲「調子悪くてあたりまえ」です。

これは、近田春夫さんっていう方がなさっていた
バンドなんですけれども、僕は高校生ぐらいのときから
近田さんのファンで、近田さんがいろいろ歌謡曲について話したりとか、ドラマに出たりとか、70年代から80年代にかけて、
ちょっとカルトなカルチャー界のスターだったんですよね。

近田春夫さんは、いろんな音楽活動の変遷を経て、
1991年にビブラストーンっていうバンドを始めます。
当時、もうパブリックエネミーとか、
ヒップホップが始まってたんですけど、ターンテーブルとかを使わずに
バンドで、人力ヒップホップって当時言ってたんですけど、
バンドでヒップホップを演奏するっていう。

そこで、近田さんともう1人のMCがラップをするっていう
バンドがありまして、当時から好きでライブによく行ってたんですけど、それがメジャーなレコード会社からレコードを出すという
ニュースがあって、しばらくしてから都内のいろんな場所に
「調子悪くてあたりまえ」っていう白地に黒い文字でゴシックで
「調子が悪くてあたりまえ」っていう言葉が
都内のいろんなところに突然ある日出現したというか、
車で走ってもふっと目線を上げると、ビルの上に大きな看板で、
ただ「調子悪くてあたりまえ」って書いてあるんですよね。

なんだろうあの言葉って、下をよく見ると、
ビブラストーンの新しいアルバムの中の曲だったことが
わかるようになってるんですけど、
その「調子悪くてあたりまえ」っていう言葉が、あまりにも、
そのなんですね、世の中への出方と、
言葉自体のインパクトと合わさって、忘れられないというか、
強烈な印象を残して。

実はその近田さんは数年前に自伝を出されて、
その自伝のタイトルもこの「調子悪くてあたりまえ」ってい
う言葉だったんですけど、やっぱりそのご本人にとっても、
世の中に対してこうクリティカルヒットっていうか、
何かこう刺さった言葉だなっていう手応えはおありなんだろうなと
思いますけど、それから30年ぐらい経つわけですよね。

30年ぐらいの間にどんどん世の中が本当に調子悪くなっていって、
実際に自分も年を取っていくけど、その中でやっぱり
「調子悪くてあたりまえ」っていう言葉が時々ふっとこう頭をよぎると、なんかその時に、魔法の呪文みたいにふっと気が楽になるんですよね。

別に調子良くなきゃいけないっていうプレッシャーで、
ますます調子悪くなることがあるので、
調子悪くて当たり前だっていうふうに、
そこからまあ1日を始めるっていうのが、
なんかすごく今の時代に合ってる姿勢なんじゃないかなって
思うこともありますね。
***

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