
「食にまつわる言葉」をいただく5分間
『TABLESIDE STORY』
今週は、高野ユタさんの
レーズンにまつわる書き下ろしストーリーをお届けします。
<チーズスフレの宝石>
チーズスフレを頬張ると、しゅわりとした軽さのなかに、クニュ、と不思議な食感があった。瑞々しい甘さが広がり、頬の奥がきゅんとする。
レーズンだ。けれど、あれ、と思った。材料にレーズンはなかったはずなのに。
配られたレシピを見返す私に、お菓子教室の先生はウィンクした。
「とびきり美味しく焼けたときには、レーズンの方からきちゃうのよ」
先生の遊び心だろうか。いつのまに敷いたのかは不思議だったけれど、隠し味みたいでうきうきする。その日から、チーズスフレにはレーズンを入れるのが定番になった。
ある日、娘にせがまれて、おやつにチーズスフレを作った。けれどレーズンはストックしておらず、仕方なく、レーズン抜きのスフレを焼いた。
「あれ? ママ、ちゃんと入ってるよ」
「え?」
驚いてガラス皿を下から覗くと、スフレの底には、隠された宝石みたいなレーズンが艶々と輝いていた。