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2024/01/10

みちのく いとしい仏たち

岩手と京都をまわって、現在東京ステーションギャラリーで開催中の「みちのく いとしい仏たち」。企画・監修をされたのは、仏教美術史がご専門の弘前大学名誉教授・須藤弘敏さん。須藤先生が日本各地の寺院を調査する中で、本堂の片隅にあるユニークで素朴なお像を目にする機会が多くあり、そういった「民間仏」と呼ばれるお像を研究されてきたそう。今回はその中から、青森・岩手・秋田の、民間仏を集めて紹介しています。この民間仏とは、プロの仏師さんではない、大工さんのような人たちが彫ったもの。江戸時代以降に本山末寺という制度が浸透し宗派ごとに大きなお寺とそれに属する小さな寺院というものが整備されていき、どのこお寺でも京都や江戸などでプロの仏師さんたちが彫った立派なお像をご本尊に祀るようになりました。一方、小さな村々ではそういった立派なお像ではなく、もっと身近にある素材で自分たちの信仰として何か拝む対象が欲しいということで、半分素人のような人にお願いして素朴なお像を作ってもらったそう。今回、北東北から集められた約130点の民間仏のほとんどは木像で、一般的な仏像とは違った簡素で自由な造形。ゆるく親しみやすいお像を面白い解説とともに紹介しています。

岩手県の兄川山神社に祀られている「山神像」は林業に携わる地元の人々に、今も信仰されている山神様。三頭身の頭にちょこんとした目鼻で、控えめな合掌のポーズ。青森県の本格寺にある「多聞天像」は、今別町の漁師たちに大切にされてきたもので、多聞天でありながら、竜神を背負い、閻魔王の帽子をかぶり、お腹には大黒天の印をつけたハイブリッドな出で立ち。漁師たちの願いを一身に背負う、珍しいつくりに。また、秋田県の湯沢市に三途川集落という場所があるんですが、北東北には、地獄にまつわる民間仏も多く残されているそうで、地獄に行くかどうかの裁きを行う閻魔様を代表とした十王像も、北東北では、ほのぼのとした顔やユーモラスなものに。

今回展示されている、青森・岩手・秋田の民間仏の多くは山村や漁村で祀られてきたもので、お堂や小さな祠、民家の神棚でひっそりと人々の祈りに耳を傾けてきました。こうした民間仏の作者が分かるのは稀なケースだそうですが、青森県の十和田市には、右衛門四良という大工による木像が100体ほど残されています。高い技術を持つ仏師ではない人たちが作った民間仏は、親しみの湧くものばかり。特に北東北に微笑んでいるお像が多い理由について担当学芸員の柚花文さんは最後にこんな風におっしゃっていました。「北東北は気候の厳しいところで、今回のお像はほぼ9割ぐらい江戸時代に作られたものなんですが、江戸時代には飢饉や飢餓、疫病があったり、皆さんとても厳しい環境の中で暮らしていらして、そういった時に無表情や怖い顔した仏像よりも笑ってらっしゃるお像の方がありがたく、みんな心が休まったんじゃないかなと思われるんですね。だから展覧会全体を通してニコっと口角が上がって目尻がなんとなく優しいお像が多いんです。」


「みちのく いとしい仏たち」は
東京ステーションギャラリーで2月12日までの開催。
定休日:月曜日 ※2月5日と2月12日は開館
HP:https://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/202312_michinoku.html

画像:《地蔵菩薩立像》 右衛門四良作 江戸時代(18世紀後半) 青岩寺/青森県七戸町

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