青森県黒石市、八甲田山の南麓。標高750メートルの高原地帯に、化学肥料や化学農薬を使わずに野菜を育てる農場「サニタスガーデン」があります。すぐ近くには豪雪で知られる酸ヶ湯温泉。取材時も積雪は2メートルを超えていたそうです。そんな厳しい自然環境のなかで、山田広治さんは四季に寄り添う農業を続けています。
夏はレタスやキャベツ、白菜などの高原野菜を生産。一方、雪に閉ざされる冬は規模を縮小しながらも、この土地だからこそできる野菜づくりに挑戦しています。その代表格が「雪室じゃがいも」と「黒千石もやし」です。黒千石もやしは、通常のもやしの約2倍ほどの長さがある希少な品種。冬の食卓に力強い存在感を放っています。
山田さんは神奈川県藤沢市出身。もともと農業とは無縁の生活を送っていました。転機は大学時代、海外で農産業に触れたこと。国際協力を学ぶなかで「農業という技術を身につけ、青年海外協力隊として活動したい」と志し、卒業後は茨城や沖縄で研修を重ねました。その後、アフリカ南部のボツワナ共和国へ赴任。帰国後、群馬の農業法人で再び学び、青森での独立に至ります。
「おいしいと言ってもらえることが何よりの喜び」。その言葉どおり、山田さんの原動力はとてもシンプルです。
なかでも印象的なのが、冬限定の雪室じゃがいも。秋に収穫したじゃがいもをすぐには出荷せず、雪が積もるのを待ちます。そして小さな貯蔵室を雪で覆い、約2カ月間じっくり熟成。雪の中はおよそ0度に保たれ、外気がマイナス10度以下になっても凍りません。この安定した低温環境で、でんぷんが糖に変わり、ぐっと甘みが増すのです。冷蔵技術のない時代に生まれた先人の知恵が、いまも生きています。
現在扱う品種は3種類。いちばんのおすすめは「アンデスレッド」。赤い皮に黄色い果肉、雪室で熟成させることで甘みとコクが際立ちます。「キタアカリ」はじゃがいも本来の風味が豊かで、王道のじゃがバターにぴったり。「はるか」は粉質でクリーミーな食感が特徴、コロッケや煮物に向いています。
まずはシンプルに、素材の味を感じられる調理法で。フライドポテトにすれば甘さが引き立ち、食卓の主役になるはずです。雪が引き出す個性豊かな味わいは、秋の新じゃがとはまた違う魅力を教えてくれます。
販売は3月末ごろまでを予定していますが、不作の年は早めに終了することもあるそう。豪雪地帯の恵みと人の工夫が生み出す、冬だけのごちそう。サニタスガーデンの畑には、自然と向き合う農業の奥深さが詰まっています。
