奈良県五條市に、ちょっとユニークな会社があります。「柿の専門いしい」。その名の通り、柿だけに特化した商品づくりを行っている企業で、全国的にも珍しく、柿の加工食品だけを専門に扱う会社として知られています。運営しているのは石井物産株式会社。専務の石井美奈子さんによると、社内には柿に関する研究開発を行う施設もあり、「柿のことをとことん追求する」という姿勢で事業を行っているそうです。
事業の始まりは、「捨てられてしまう柿をなんとか活かせないか」という思いからだったといいます。奈良・吉野エリアは柿の名産地で、寒暖差の大きい気候や水はけの良い土壌に恵まれ、特に富有柿の産地として全国的にも広く知られています。しかし、形が不揃いだったり傷がついたりした柿は、味が良くても市場に出せず廃棄されてきました。そうした柿を無駄にせず、加工品として新たな価値を生み出すことから、同社の挑戦は始まったとされています。
「柿の専門いしい」の定番商品であり、長年愛され続けているのが「柿最中」。最中というと小豆や白餡を思い浮かべますが、この最中に使われているのは、柿だけで作られた特製の柿餡です。角切りの柿を混ぜ込むなど食感や香りにも工夫がされており、「柿そのものの甘さや風味がしっかり味わえる」と評判です。発売から年月が経っているにもかかわらず、今でも売り上げが伸びているというのも特徴で、リピーターが多い商品のひとつとなっています。さらに、トースターで軽く温めると一層風味が引き立つという楽しみ方も、消費者の間で広がっているそうです。
最近、人気が急上昇しているのが「柿の葉ミルクジャム」。柿の“葉っぱ”を使うという意外性から注目を集めています。柿農家の減少に伴い放置された畑を引き継ぎ、柿の実ではなく葉だけを育てる農園を整備。オーガニックJAS認証も取得し、その葉を原料にした加工品のひとつがこのジャムです。材料は柿の葉、マスカルポーネ、ミルクというシンプルな構成で、ほのかに柿の香りが漂うやさしい味わいが人気を集めています。
奈良といえば柿の葉寿司が有名ですが、石井さんによると、柿の葉には実以上の栄養が含まれていることが分かってきたそうです。そうした背景から、「食べる柿の葉」という新たな視点での商品づくりが始まり、さまざまなアイデアへとつながっているとのことです。
同社では、「柿の魅力を日本中へ、さらに世界へ届けたい」という思いのもと、地域の生産者と協力しながら商品開発を続けています。廃棄されていた柿や葉を活用し、新しい価値を生み出す姿勢は、地域資源を未来につなぐ取り組みとしても注目されています。柿という身近な果物に、ここまで情熱を注いでいる会社があるという事実は、改めて柿の奥深さを感じさせてくれます。
