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2026.04.05
“言語オタク”の視点から日本語の奥深さ、政治の世界で飛び交う独特な言葉を深掘り!

4月5日の放送では、
カナダ人翻訳家、イアン・アーシーさんを迎えて、
“言語オタク”の視点から、日本語の奥深さ、
そして政治の世界で飛び交う独特な言葉を読み解きました。

小川:世界中では日々さまざまなことが起こっていますが、
皆さんはその情報を「言葉」を通して受け取っていると思います。
今回は、私たちが日々接している日本語を、外の視点も含めて改めてフォーカスしていきたいと思います。
スタジオには、カナダ人翻訳家で日本語研究家のイアン・アーシーさんをお迎えしました。
よろしくお願いします。

アーシー:よろしくお願いします。おはようございます。

小川: アーシーさんは経歴がとても面白いですよね。
1984年から3年間、日本の中学校で英会話教師を務めていらっしゃった。

アーシー:そうです。

小川:そこから日本語を独学で勉強されたんですか?

アーシー:実は、その前にカナダの大学で日本語の初級講座は取っていました。
ただ、本当に「思いつき」で勉強し始めたんです。
大学では古代ギリシャ語とラテン語を専攻していたのですが、
卒業要件として「自分の専門以外の単位」を取得しなければならず、何にしようかなと思って。

小川:ギリシャ語やラテン語もハードルが高いですが、そこで日本語を選んだと。

アーシー:僕はちょっと変わった学生で、いわゆる「言語オタク」だったんです(笑)。
ちょうど40年以上前、当時の日本は経済が非常に成長していて、
技術の国として注目されていたこともありました。
それで興味を持って日本語を始めたのですが、まさか日本に来て本を出すことになるとは
夢にも思わなかった。あの講座を取ったおかげで、人生が全く違う道に進むことになりました。

小川:何がそこまでアーシーさんを掴んだのでしょうか?

アーシー:日本語は、僕にとって完全に「別世界」でした。
文法的な話をすると、例えば「この映画は面白い」「昨日見た映画は面白かった」と言いますよね。
この「面白い(現在)」「面白かった(過去)」という風に、形容詞自体に時制がある。
これはヨーロッパの言葉とは全然違う体系で、非常に魅了されました。
「こんな表現があるんだ!」と毎日発見があって、40年経ってもまだ抜け出せていません。

小川: アーシーさんは『日本政界語読本』など、政治家の言葉を研究されていますよね。
この「政界語」という言葉はどうして生まれたのですか?

アーシー:日本に来て日本語がわかるようになってくると、「日本の政治家って随分面白いことを言うな」と思ったんです。そこで、彼らの言葉を表す名前として「政界語」と名付けました。
この本では、不思議な政治家の言葉を、一つの文法が備わった文体として見立てて、
語学書のように面白おかしく分析しています。

小川:アーシーさんのユーモアと皮肉が効いていて、単語帳のような感覚で読めて面白いです。
カナダなど海外の政治家の言葉とはやはり違いますか?

アーシー:カナダの政治家の言葉は、もっと日常的な言葉に近い気がします。
日本の政治家の言葉は「お役所言葉」がベースになっていて、日常から離れた非常に堅苦しい言い回しが多い。一言で済みそうなことをわざわざややこしくするのは、
「責任逃れをしたい」「言質を取られたくない」という心理が働いているからではないでしょうか。

小川:よく聞いていたら「結局、何も言ってないよね」ということもありますよね。

アーシー:そうですね。例えば「総合的」という便利な言葉。
記者会見で理由を問われた大臣が「総合的に判断して決断した」と答える。
でも、その「総合的」の中に一体何が含まれているのかは全く分かりません。
最近はこれに加えて「俯瞰的」もよく使われますが、一体どこから何を俯瞰しているのか……。
こうした言葉を使うことで、はっきりと答えることを回避しようとする心理が見え隠れしています。

小川:アーシーさんが今気になっている「政界語」を3つ挙げていただきました。

1. 答弁回避形:「答えを差し控える」

アーシー:僕は、政治家が答弁を回避するための構文を「答弁回避形」と呼んでいます。
基本形は「何々についてお答えを差し控える」です。
今の総理大臣の高市さんも好んで使っていますね。
例えば2026年度(令和8年度)の予算審議が遅れている理由について、
衆議院解散の影響を問われた際、彼女は「国会の運営は国会でお決めいただくこと。首相の立場から答えるのは困難です」とこの構文を行使しました。
国会は議論の場なのに、なぜ困難なのか。永遠に答えてくれないことが問題だと思います。

2. ぼかし言葉「イラン情勢」

アーシー:最近の時事問題でよく聞く言葉ですが、これは「情勢」どころか、
明らかにミサイルが飛んでいる「戦争」の状態です。
できるだけ生々しい言葉を避けて、漠然とした言葉を使おうとする「政界語」の特徴がマスコミにも影響を与えています。海外でははっきりと「War(戦争)」と呼ぶのが一般的ですが、
日本では「イラン情勢」と繰り返されています。

3. 正界語の枕詞:「ルールを守らない外国人」

アーシー:和歌に「枕詞」があるように、正界語にも特定のセットがあります。
最近流行っているのが「ルールを守らない」ときたら「外国人」という組み合わせです。
僕も日本に住む一人として心が痛みます。
ごく一部の人のせいで、十把一絡げに「外国人はルールを守らない」と言われてしまう。
実際は、ルールを守らない日本人だっていますし、人種は関係ありません。もしこの枕詞を使うなら、
「ルールを守らない裏金議員」とした方がよっぽどしっくりくるのではないでしょうか。

小川:日本語の見方が変わるお話でした。ちなみに、アーシーさんが好きな日本語はありますか?

アーシー:たくさんありますが、日常でよく使う「お疲れ様」と「ありがとう」が好きです。
この2つを使えば、日本での物事は大体うまくいきますよ。

小川:それは日本人にとっても大切なことですね。今日は本当にありがとうございました。

アーシー:ありがとうございました。

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