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2025.11.30
「見えない世界を可視化する技術」

11月30日の放送では、医療、セキュリティ、インフラ──日常のあちこちに生かされている、「見えない世界を可視化する技術」に注目。
応用物理学者の木村建次郎さんにお話を伺いました。

Q: 木村さんはどうして数学や物理に興味を持ったのですか?

元々は画家やピアニストになりたかったのですが、テレビでNASAのロケット打ち上げを見て「かっこいい」と思いました。父親が学者だったため相談すると、「もっと勉強しなさい」と言われ、勉強を始めました。当初は宇宙工学に進むつもりでしたが、父親の助言で「世の中の役に立つ数学」をやろうと考え、工学部で数学を活かす方向に進みました。

Q: 物理学や応用物理学に進んだきっかけは?

大学で原子が見える顕微鏡を作っている研究室を見て憧れたことがきっかけです。
鉛筆の芯を顕微鏡の台に置き、ボタンを押すと炭素原子が並んで見える様子に興奮し、物理学を活かして「見えないものを可視化する」応用物理学の道に進みました。

Q: 株式会社IGSとはどんな会社ですか?

大学で教員をしていた頃、学生たちと「見えないものを見たい」という思いを共有し、集まったメンバーで作った会社です。光や波を使って、人間の目では見えないものを観測する機械を開発しています。

Q: 「波動散乱の逆問題」とは何ですか?

波を物体に当て、その跳ね返りを測定して、物体の形や性質を計算で導き出す問題です。
大学生の時にこの問題に出会い、10年かけて解決しました。

例: お風呂で水面に波を起こし、中にあるアヒルに当たった波の広がりからアヒルの位置を特定するイメージです。

Q: この数式はどのように実生活に応用されていますか?

医療分野では、従来の乳がん検査のマンモグラフィーは痛みがあり、X線では一部の胸のタイプでは癌を見つけにくい問題がありました。
波動散乱の逆問題を応用したレーダー式乳がん検査では、胸を挟む必要がなく、痛みがない上に発見率も高い技術が開発中で、治験の最終段階です。

また、リチウムイオン電池の危険な個体を事前に検出し、市場に出さない技術。購入時点での危険も見極められます。

他にも、水道管の劣化や漏水を高精度で検出可能です。厚みが10ミリ弱の管が9ミリになるだけで信号が反応するほど精密です。

Q: 波動散乱の逆問題を解く過程はどんな感じだったのですか?

高校生や中学生が難問に取り組むのと同じで、ひたすら試行錯誤し続けました。父親の教えで、「分からなくても答えを見ず、答えが出るまで悩み続ける」という習慣を持っていたため、10年間向き合い続けられたそうです。解けたときは「曇っていた空が晴れたような」感覚だったと語っています。

Q: 木村さんの研究チームについて教えてください。

神戸大学や京都大学などで学んだ天才的な若手研究者たちが集まるチームです。数学・物理の計算力だけでなく、ハードウェア(レーダーやセンサー)も世界トップレベルの性能を持ち、理論と実機の融合で革新的な技術を開発しています。

Q: 日常生活や子育てではどんなことをしていますか?

六甲山の自然の中で5人の子どもたちと生活しています。火を起こしたり、手作りドローンを作ったりして遊びながら学ぶ環境を提供しています。逆問題の簡単な実験も子どもたちと楽しんでいます。

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