WORLD CONNECTION
世界の今と繋がろう。
昨日公開となった、
ドイツと日本のコラボレーションから生まれたドキュメンタリー映画『蒸発』に注目!
アンドレアス・ハートマン監督・森あらた監督にお話を伺いました。
小川:今日は、昨日公開された映画『蒸発』に注目します。
チラシを最初に見たとき、タイトルの「蒸発」という言葉に思わず惹かれました。
コピーには「日本では毎年約8万人が失踪し、そのうち数千人が完全に消える」と書かれています。
日本における“蒸発”の実態に迫ったドキュメンタリー映画です。
今日はスタジオに、監督のお二人をお迎えしています。
アンドレアス・ハートマンさん、そして森あらたさんです。よろしくお願いします。
森:よろしくお願いします。
ハートマン:よろしくお願いします。
小川:そして通訳は植田悠さんです。よろしくお願いします。
では早速ですが、お二人はどこで出会ったのでしょうか。
ハートマンさんはドイツ・ベルリンを拠点にされていて、
森さんはベルリンと東京を行き来されていると伺っています。
森:最初はベルリンです。僕はベルリンに住んでいるのですが、
映画祭でアンドレアス・ハートマンの前作『自由人』を観たんです。
その上映後に本人に話しかけたことがきっかけで、交流が始まりました。
小川:ベルリンで開催されている映画祭だったんですね。
森:はい。その映画は、京都・鴨川で暮らす若いホームレスの青年を追ったドキュメンタリーでした。
海外の映像作家が日本を舞台にした映画を撮っていることに興味を持って、とても面白かったので話しかけたんです。
小川:ハートマンさんは、以前から日本を舞台にした作品を撮られていたんですね。
ハートマン:約10年前、京都で若いホームレスの青年を追った映画を撮りました。
その制作の過程で、大阪の西成や釜ヶ崎といった日雇い労働者の街を知ることになりました。
そのとき気づいたのは、映画の主人公だけが「消える」ことを選んだわけではないということでした。
日本には、自分の人生から姿を消すことを選ぶ人が思った以上に多くいる。
その事実に強い関心を持ったのです。
そして、このテーマで映画を作りたいと考え、森さんと一緒に制作することになりました。
小川:今回の映画にも西成や釜ヶ崎が登場しますよね。
では、「蒸発」というテーマ自体はハートマンさんのアイデアだったのでしょうか。
森:最初に蒸発をテーマにした映画を作りたいと言い出したのはアンドレアスでした。
僕はその話を受けて、一緒にリサーチから参加することになりました。
僕にとっては、日本を離れて18年になりますが、この映画を通して、これまで知らなかった“もう一つの日本”を見ることができたように感じています。
映画を観た人は最初、「他人の話」として受け取ることが多いんですが、
見終わる頃には「自分の話のように感じた」と言う方が多いんです。
実は僕自身もそうでした。
制作を始めた頃は、自分とは関係のない人たちの話だと思っていました。
でも僕も18年前、誰にも告げずに日本を離れた人間です。
そう考えると、自分もある意味で“蒸発者”の一人なのではないか、と感じたんです。
小川:蒸発する人たちは、人知れず姿を消すわけですから、社会の中では見えない存在ですよね。
そういう人たちに取材するのはとても大変だったのではないでしょうか。
ハートマン:リサーチでは、さまざまな方法を試しました。
まず「夜逃げ屋」と呼ばれる引っ越し業者に連絡を取りました。
東京のある夜逃げ屋の方がとても協力的で、自分たちの仕事の現場を見せてくださったんです。
また、蒸発した人だけでなく、残された人たちの視点も描きたいと思いました。
そこで私立探偵と協力し、彼の依頼者を紹介してもらいました。
ただ、信頼関係を築くには非常に長い時間がかかりました。
夜逃げ屋という存在
小川:映画にも夜逃げ屋が登場しますよね。
普通に生活していると、なかなか出会う職業ではないと思います。
森:僕自身も、この映画を作るまで夜逃げ屋という職業が実在することを知りませんでした。
実際に話を聞いてみると、意外と普通の人たちなんです。
中には、好奇心やスリルを求めてこの仕事を始めた人もいました。
小川:蒸発した本人、探している家族、そして蒸発を手助けする人。
さまざまな立場からこの現象を描いていますが、取材で心がけたことは何ですか。
森:想像される通り、非常に困難な撮影でした。
まずは少しずつ心理的な壁を取り除き、信頼関係を築くところから始めました。
この映画は完成までに約6年かかっています。
その間、出演者の方々と何度も会い、少しずつ信頼を得ていきました。
その積み重ねがあったからこそ、ここまで深い内容の映画になったと思います。
小川:映画では出演者の顔や声がAIで加工されています。
特定されないようにするためだと思いますが、かなり斬新な使い方でした。
森:この映画はもともと海外上映を前提に制作していました。
海外版では顔を出しているんですが、日本公開ではどうしても匿名性を守る必要がありました。
ただ、モザイクやぼかしだと表情が見えなくなってしまいます。
そこでAI技術を使い、感情の表現を残したまま匿名性を守る方法を選びました。
小川:いわゆるディープフェイク技術ですよね。
使い方のバランスはどのように決めたのでしょうか。
ハートマン:この効果を多用しすぎることは避けたかったんです。
そこで、特に感情的に重要なシーンだけで使用しました。
映画の最初は顔をぼかし、物語が進んで感情が強く表れる場面で初めて顔が現れるようにしています。
小川:国際映画祭でも上映されていますが、海外ではどんな反応がありましたか。
ハートマン:世界中でとても大きな反響がありました。多くの映画祭で満員上映になりました。
現代社会はとてもつながりが強い社会です。
匿名で生きたり、社会から姿を消したりすることはますます難しくなっています。
だからこそ、人々は「どこかで人生をやり直したい」という幻想を抱くのかもしれません。
その感覚が世界中の観客に共通していたのだと思います。
小川:ハートマンさんの住むベルリンでも、蒸発に近い現象はありますか。
ハートマン:人が姿を消すこと自体は世界中で起きています。
ただ、日本特有なのは「夜逃げ屋」という存在です。
これはドイツにも、他の国にもほとんど存在しない仕組みだと思います。
小川::森さん自身も海外に移住された経験がありますよね。
拠点を変えることで人生が前に進んだと感じましたか。
森:僕は以前、日本で精神的にかなり落ち込んでいて、半分引きこもりのような状態でした。
でも、引きこもりの人でも、全く違う環境に移ると回復するケースが多いんです。
一度自分のアイデンティティを捨てて、「何者でもない人」になる。
そうすることで、自分を見つめ直し、新しい人生を始めるきっかけになると思います。
僕もヨーロッパに移ったことで、まったく違う自分になりました。
そして映像の力で今まで生きてこられたと思っています。
小川:最後に、これから映画を観る方へメッセージをお願いします。
ハートマン:ぜひ多くの方にこの映画を観ていただきたいです。
そして、この映画をきっかけに自分自身の人生を振り返ってほしいと思います。
誰もが人生のどこかで、大切な人を失ったり、消えてしまいたいと思ったりした経験があるのではないでしょうか。
その感情について考えるきっかけになれば嬉しいです。
森:ぜひ劇場に足を運んでいただきたいです。
公開初日から満員上映が続いています。
渋谷のユーロスペースでは、夜逃げ屋の方や探偵の方を招いたトークイベントも予定しています。
映画と合わせて楽しんでいただけたら嬉しいです。

