ポッドキャストが今、注目される理由とは? 「マーケティング×音声」の今とこれからをプロが語る

ポッドキャストが今、注目される理由とは? 「マーケティング×音声」の今とこれからをプロが語る

J-WAVE社員もゲストスピーカーとして登壇した、デジタルマーケティング専門企業・D2C R主宰のウェブセミナー「企業と生活者をつなぐ!ポッドキャストマーケティング~音マーケティング2022~」が3月24日に行われた。

本ウェビナーは、音声コンテンツをインターネット上で気軽に楽しめる手段として注目を集める「ポッドキャスト」の魅力や活用法、音を利用したマーケティングの未来について、D2C R取締役・貴志和也氏によるハンドリングのもと、D2C R統合プランニング本部の郡茜氏、スポティファイジャパン広告事業統括の藤井哲尚氏、J-WAVEデジタル戦略局局長兼J-WAVE i 代表取締役社長の小向国靖が解説したものだ。

コロナ禍で高まるポッドキャストの需要

様々なカテゴリーから自分好みの音声コンテンツを選んで聴けるポッドキャスト。そもそも同サービスが誕生したのは2005年のことであり、決して真新しいサービスというわけではない。そんなポットキャストが今、なぜ改めて注目されているのか。D2C Rの郡氏は「二つの理由が考えられる」と説く。

理由の一つは新型コロナウイルス感染拡大だ。ポッドキャストのシーン別聴取状況に関する調査「Cheat Sheet: Nielsen studies show 'light' listeners make up nearly half of podcast audience」によると、移動中に聴く人の割合が、2018年41%→2021年35%と減少傾向だったのに対し、自宅で聴く人の割合は2018年40%→2021年50%と増加傾向にあることがわかった。この結果から、リモートワークなどの影響を受け、自宅でポッドキャストを選択する生活者が増えたと推察される。

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また、2020年12月実施された「ポッドキャスト国内利用実態調査2020」の結果によれば、ポッドキャストを1年以内に聴き始めた人の割合は47.1%となった。他方、2021年4月に行われた「定額音楽配信サービスの利用に関するアンケート調査」では、41.7%のポッドキャストユーザーが利用歴2年未満であることが明らかになった。コロナ禍となったこの2年あまりの期間で、ユーザー数が増加していることが見て取れる。

二つ目の要因に挙げられるのが、大手プラットフォームの新規参入ラッシュ。近年、Apple Podcast、Spotify、Amazon Music、Google Podcastなど、世界的知名度を誇る大手プラットフォームが相次いでポッドキャストに関連したサービスを開始している。「ポッドキャスト国内利用実態調査2020」によると、ポッドキャストを聴き始めたきっかけは、「SpotifyやAmazon Musicで聴けるようになったから」との回答が全回答中二番目に多い22.5%をマークしている。ポッドキャストと出会う"入り口"の増加が、同サービスの追い風になったことは間違いないだろう。

人はなぜ、ポッドキャストに"沼る"のか?

こうした理由から需要を高めていると考えられるポッドキャストだが、生活者にとってどんな価値・影響をもたらすメディアなのだろうか。郡氏は以下のように様々なデータを用いて解き明かす。

メディア環境研究所が行った調査「今、ポッドキャストに先進的な生活者が集まるワケ」によれば、ポッドキャストの魅力は1位が「好きな時にどこでも自分のペースで聴ける」(56.3%)で、以下、2位「ながら聴きで、効率良く情報を得られる」(37.9%)、3位「家事や運動など生活をはかどらせてくれる」(31.3%)と続いた。つまり、"ながら聴き"で効率よく情報収集できるメディアとして親しまれていると推察できる。
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【データ参照】今、ポッドキャストに先端的な生活者が集まるワケ ~ユーザー像とマインドを読み解く~ @メ環研の部屋

さらに同調査ではポッドキャストの利用目的についても調べており、こちらの結果がなかなかユニークなものとなっている。まず特筆すべきが、10~20代ユーザーの23.7%が「目を休めるため」と回答していること。テレビにPC、スマホなど様々なメディアから日々流れてくる映像コンテンツのせいで、目が疲れてしまったという事情があるのだろうか。このほか、30~40代の男性は「暇つぶしのため」、30~40代の女性は「気分転換のため」に聴く人が多いことも判明。こうしたことから、ポッドキャストは生活者の余っている時間、いわゆる「可処分時間」を奪いやすいサービスであることがわかる。

加えて「ポッドキャスト国内利用実態調査2020」によると、ポッドキャストを聴いたあとの行動として情報の検索経験がある人は66.7%、商品やサービスの購入経験がある人は35.8%となった。この結果から、ポッドキャストが購買を促す力が強く、マーケティング手法として有効であると言える。
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【参照】ポッドキャスト国内利⽤実態調査2020(pdf)

もう一つ重要な調査結果が「Cheat Sheet: Nielsen studies show 'light' listeners make up nearly half of podcast audience」におけるポッドキャストリスナーの比率を示すデータだ。本データでは、ライトリスナーの割合が49%と最多である一方、ヘビーリスナーも29%と高い数値を記録(ミドルリスナーの割合は22%)。ライトリスナーはもちろん全員ではないものの、そのうち何%かがいずれヘビーリスナーへ成長する可能性を秘めている。

以上を整理すると、生活者にとってのポッドキャストは、SpotifyやAmazon Musicといった大手プラットフォームで出会い、暇つぶしや気分転換目的の気軽な"ながら聴き"で楽しんでいくうちに情報の検索やサービス・商品の購買といったアクションのきっかけになりつつ、最終的にはコアなファンになるかもしれないメディアというわけだ。浅いところから徐々に深みへ嵌っていくことから、郡氏は「沼ってしまう」ことこそが、ポッドキャストの特性であるとしていた。

J-WAVEによる8つの活用事例

ポッドキャストをマーケティングツールとして考えた場合、どのような利用方法が考えられるのか。そこで、J-WAVEの小向は、当社がこれまで取り組んできた8つの活用事例をケーススタディとして紹介した。

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1つ目は「自社オウンドメディアのコンテンツ強化を図りたい」というニーズを持つ自動車メーカー。この課題に対しては、オウンドメディアのおすすめ記事をJ-WAVEナビゲーターが音声化=ポッドキャスト化することで、Spotifyをはじめとした音声プラットフォームからのリーチを可能とし、移動中にもコンテンツを楽しめるように仕立てた。

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2つ目はまた別の自動車メーカー。同社はネットワーク上における3D仮想空間「メタバース」の過疎化を防ぎ、情報発信力を強化したいと考えていた。そこで、メタバース上にラジオ局を設置。ポッドキャストを通じ、メタバース外でもイベント告知ができるようにした。この施策には、デジタル感が強いメタバース内に音声コンテンツを実装することで、温かみのあるコミュニケーションを生じさせようという意図もあった。

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3つ目が私立大学。「受験生獲得に向けて大学の研究をわかりやすく伝えたい」という課題に対し、同私大のOBをナビゲーターとして派遣。大学教授へのインタビューで研究内容を話してもらうことにより、テキスト情報だけでは得られない有益な音声情報を発信することを狙いとし、ユーザーから好評を得た。

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4つ目は高速道路会社。高速道路会社及び道路事業に無機質なイメージを持つ人は多いだろう。そこで、裏側にあるスタッフの思いや努力を伝え、企業に対して親しみを持ってもらうことを目的とし、ナビゲーターが現場取材レポートを敢行。その取材音声を、メールマガジンのコンテンツとしてポッドキャスト及びブログで発信した。

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5つ目はソフトウェアメーカー。「自社製品の活用事例をわかりやすく伝えたい」というニーズを叶えるべく、同社のソフトウェアを導入して好結果が得られた会社を対象に、テック関連の知識豊富なナビゲーターが取材を実施。ポッドキャストで収録音声を配信するとともに、J-WAVEのオウンドメディア「J-WAVE NEWS」に写真入りのテキスト記事を掲載し、視覚的にも訴求した。

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6つ目は文具メーカー。「製品の魅力を伝えてファンベース醸成したい」という課題に対応するため、文具に精通したナビゲーターが社員にインタビューするかたちで、最新文具を紹介してもらった。こちらも音声コンテンツを配信するとともに、ブログから写真&テキストでも情報を伝えた。

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7つ目は、「観光地の魅力を今までとは異なる施策でわかりやすく訴求したい」という観光局。特設Webサイトの地図上に点在するそれぞれの観光地に、画像とともにポッドキャストの音声を再生できるボタンを配備。クリックすると、その観光地と所縁の深い写真家やジャーナリストなどのゲスト×ナビゲーターによる対談形式で各エリアの魅力を音声として伝える仕様となっている。

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8つ目はNRI 野村総合研究所。課題は「NRIグループの多彩な専門家の知見を発信してソリューションを提供したい」というものだった。そこで、野村総研にいる経営、経済、金融、産業、社会、技術、雇用、働き方、生活など各分野のプロフェッショナルを招き、ナビゲーターによるインタビュー形式でリスナーにとって有効な知見・アドバイスをわかりやすく解説してもらうという音声コンテンツを製作・発信した。

このほかJ-WAVEでは、音声ドラマ、ドキュメンタリー、コメディ、ニュースをデジタル音声コンテンツとして届けるサービス「SPINEAR (スピナー) 」において、企業とともにオリジナルのブランデッドポッドキャストを制作し、配信するというビジネスを展開している。

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マーケティングに信頼が求められる時代に高まる「音」の存在感

最後のテーマは「マーケティングにおける『音』のこれから」。スポティファイジャパンの藤井氏は、次のように唱える。

Spotify上で、マーケティング×音のBtoB施策として可能なのが、音声広告とポッドキャストにまつわるパートナーシップやブランデッドポッドキャストの制作になる。音声広告もポッドキャストも、つまるところ、見込み顧客との間でいかに信頼関係を構築するかを追求するコミュニケーション手段だ。音声コンテンツはパーソナルな環境で聴く。そして、耳から取り入れた情報は、聞き手の感情および情緒に強く訴えかける。そのため、企業が真摯に声で情報を届けさえすれば、映像のように作り込みをせずとも、リスナーにブランド・商品・サービスへの信頼を感じてもらいやすい。現在、ポッドキャストは数十分で、音声広告は30秒ほど。つまり間がない。その間を埋めるような数分単位の音声コンテンツが今後、次々と生まれてくるのかもしれない。

「信頼」を軸にしたマーケティングは今後もトレンドであり続け、その傾向は今まで以上に強くなると思われる。そんな潮流の真ん中に、音声コンテンツはこれからも位置し続けるのではないだろうか。

(構成:小島浩平)
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