ラジオとポッドキャストの「伝わり方」はどう違うか? サッシャに聞いた

ラジオとポッドキャストの「伝わり方」はどう違うか? サッシャに聞いた

音声コミュニケーションのプロであるJ-WAVEナビゲーターに、ラジオの魅力や声での情報発信のこだわりをインタビュー。

音声コンテンツをマーケティングに活かす企業が増えている。ラジオとポッドキャストでは、伝わり方にどんな違いがあるのか? J-WAVEナビゲーターとして20年以上のキャリアを持つサッシャに、番組を届ける際の意識や、音声メディアで挑戦してみたいことを聞いた。

「手術中に聞いています」医者の言葉で感じたこと

――『STEP ONE』は、「今日を頑張る、働くあなたに」がテーマの番組です。サッシャさんは、日々どのような思いで番組を届けていますか。

ラジオの長所は生活に密着しているところ。とくに『STEP ONE』の9時〜13時はみんな何かしら活動している時間帯なので、ながら聞きが多いですよね。勉強や家事を含めて、いろんな定義で"働く"人たちの力となりながらも、それぞれの活動の邪魔にならないような放送を心がけています。ちょっと短い話で、へぇと思ったり、クスッと笑ったり。そしてまた「ながら聞き」に戻ってもらう、みたいなバランスを意識しています。

──コロナ以降、自宅でラジオを聞きながら仕事をする方も増えましたもんね。

オフィスではラジオが流れていなかったけど、在宅勤務に以降して聞く習慣ができた人もいるのかな。数字にも表れていて、『STEP ONE』の時間帯が1日の中で一番聞かれるようになったそうで。活発な時間帯にリスナーのみなさんに寄り添えるのは嬉しいですね。

昨年は「こんな人も聞いてくれているんだ!」と感じる出来事もあったんです。自分が入院したときに、お医者さんが「手術中に聞いています」と言いに来てくださったんですよ。手術中の音楽は患者さんが選べるけれど、指定がなければ『STEP ONE』を流してくれているそうなんです。自身のキャリアのなかで、すごく大きな転換点となる出来事でした。

それまでは、自分の仕事が生死に関わるものだと意識したことはあまりなかったんです。でも、人の命を救っている方々の力になれたら、間接的に自分も人々の命を救えるのではないかと思って。あらためてこの仕事をやる意義を考え直させられたし、番組への向き合い方も変化しました。

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ラジオは"広く"、ポッドキャストは"深く"

――サッシャさんは、ラジオだけでなくポッドキャストの番組にも出演されています。情報の伝え方には、どんな違いがありますか?

『STEP ONE』は放送時間が4時間と長いので、圧倒的にリアルタイムで聞いている人が多いんですよね。だから、「月曜日だからこの話題」「この天気だからこの曲」というような即時性が最重要だと思っていて。プラスして、幅広い層が楽しめる工夫も大切。たくさんしゃべってほしい、音楽を多めにしてほしいなど、いろんな意見を持つ人がいるけど、みんな最大限楽しめるように、一番いいバランスを探している感覚です。

一方、ポッドキャストは、誰が聞くかが重要なメディア。聞きたい人に向かって徹底的に突き詰めていくイメージです。『STEP ONE』が横に向かって穴を掘っていくとしたら、ポッドキャストは、幅は狭いけど深く掘っていく、そんなニュアンスの違いがあると思います。

――そんなサッシャさんが、今音声メディアで挑戦してみたいことはありますか?

いっぱいありますね。一つは楽曲のストーリーを深掘りする番組。CDが主流の時代は、作詞作曲も演奏者もブックレットに書かれていたけれど、サブスクはそれがない。楽曲に関わる人たちを知る機会が減っていると思うんです。

先日、avexの代表取締役会長・松浦勝人さんのYouTubeを見ていたら、グラミー賞10部門にノミネートされたジャスティン・ビーバーの「Peaches」は、Avex USAに所属するアーティストたちが作ったというお話をされてたんです。そういう知識を持って楽曲に触れると、例えばavexの曲と「Peaches」に共通点を感じるなど、新しい発見がありますよね。今は世界的にK-POPが強いけど、日本の音楽も全然負けていないという気づきを得るとか。J-WAVEリスナーは音楽ファンが多いと思うので、深掘りする番組をやってみたいですね。

もう一つは、SNSだと出会えない発想を届ける情報番組。

──というと?

今はそれぞれの生き方や思想を尊重する時代ですが、SNSで情報収集をすると自分が好きな考え方の人ばかりになりがちじゃないですか。合わない人をわざわざフォローしないですし。実際、トランプ政権のときに、それがアメリカの分断につながったと思うんです。日本の中でも、ふつふつとそういうことが起きている。一つの物事に対して、自分がフォローしている人は全員「イエス」と言っているから、実はそれ以外の人は「ノー」と突きつけているけど気づかない、とか。多様性を受け入れようとする今の時代だからこそ、いろんな視点で物事を知ることが大事だと思うので、そういう番組にも興味があります。

――音声メディア、エンタメを取り巻く環境がめまぐるしく変化していきます。長年関わってきたJ-WAVEに期待することはありますか。

J-WAVEは、開局のときから「こういうのがおしゃれなんじゃない?」「これからはこういう生活スタイルがいいんじゃない?」など、常に時代の一歩先を見据えて、人々に提案してきたラジオ局。J-WAVEがプッシュするアーティストがブレイクすることも、よくありますよね。その価値をどう広げるかが大事だと思います。そういうラジオ局であってほしいし、新しい音声メディアのあり方、楽しみ方を、僕も中の人として提示していきたいです。

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映画、ドラマ、音楽...エンタメのチェックはどうしてる?

――サッシャさんはスポーツ実況やイベントの司会などでも活躍されていますね。以前、J-WAVEのイベントのあとでスポーツ系のイベントに向かっていたこともありました。忙しい日々の原動力は?

「ぜひサッシャさんに」と求められることはプロ冥利に尽きるので、どんなにスケジュールが厳しくても、物理的に可能な範囲は絶対に応えたいなと思っているんです。それに、僕は動いているほうが性に合っているんですよね。一度止まっちゃうと再び動き出すときにすごくパワーが必要になってつらいので。あと、何か悩んでいるときにも、別の仕事をすると考えずにいる時間ができるから、ストレス解消法になっています。いろんな現場があることが救いになっている部分もあるかもしれません。

――忙しい中でも、音楽、映画、ドラマなどエンタメ作品もチェックされていますよね。働く方々によく聞かれる悩みとして「好きだったはずのエンタメ作品を楽しむ時間や気力がなくなってしまった」というものがあります。サッシャさんはどのように時間を作っていますか?

映画やドラマはスキマ時間を活用しています。ストリーミングサービスは途中で止められるから、寝る前に寝落ちしながら数日に分けて観たり。気力という面だと、僕は好きなことだから苦にはならないけど、ショート動画の普及もあって「2時間、集中して楽しむ」みたいなことが我慢できない世の中になってきちゃったなとは思いますね。自分も含めてですけど。

――いい最新音楽はどう探していますか?

Spotifyのプレイリスト「New Music Friday」を毎週、何か作業しながら聴くようにしています。ラジオのことを考えると、集中して聴いていい曲よりも、ながら聴きをしていい曲のほうがいいなと思って。だから世の中でヒットしているからラジオに向いているとも限らないし、ラジオでヒットしているからといって世の中でヒットするとも限らないけど、ラジオで流れる曲は「ながら」で聴けるから、すごくヒットしやすいと思います。

あと、子どもに引っかかる曲もけっこう注目していますね。音楽や歌詞の意味がよくわからなくても、思わず聴きたくなっちゃうというのは、ながら聴きの大人と同じような状況だと思うので。子どもが好きな曲も、一つ自分の中でフィルターになっています。

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朝に"喉"を起こしてもらった曲

――このJ-WAVEナビゲーター連載では毎回、おすすめの音楽を1曲うかがっています。サッシャさんが気持ちを切り替えるときに聴く楽曲は?

昨年、一番聴いた曲という意味では、Coldplayの「Higher Power」。僕は朝、声出しはしないんですけど、移動中に車で歌を歌って気合いを入れているんです。去年、一番歌って、朝に喉を起こしてもらった曲が「Higher Power」でした。

サッシャ プロフィール

ドイツ・フランクフルト出身。日本語、ドイツ語、英語のトライリンガル。
ドイツ人の父と日本人の母の間にドイツで生まれ、小学校4年生の時に日本に移住。
J-WAVE「STEP ONE」ナビゲーター、日本テレビ系列「ズームイン!!サタデー」出演、「金曜ロードショー」ナビゲーター。
また、スポーツ実況アナウンサーとしてモータースポーツ、自転車レース、J.League、バスケットボールそしてヨットレースなどを担当。
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