++ Introduction ++

今年でデビュー10周年、
先日、新刊『最愛の』を発表された作家の上田岳弘さん。
これまで上田さんは壮大な世界観のもの、人類史をまとめたものなどを
作品として多く書かれ、評価されてきましたが
今回の『最愛の』はそういった部分も残しつつ
個人の問題にフォーカスした作品なっているとのこと。

元々『最愛の』は、2000年ぐらいに書いた
初めての小説が原案となっているそう。
今年デビューから10年ということで、あの時書かれたものを
今の上田さん自身が改めて書いたらどうなるのか？
というところから今回の『最愛の』が生まれたそう。

『小説なんでもそうですが、人間関係を書くじゃないですか。
その場合に人間関係と通信手段っていうのが
かなり密接に関わっていると思っていて、
今だと連絡が取れないっていうのがあまりないと思うんですよ。
20年前とかって連絡がつかないのは
しょうがないかな、みたいな空気があったと思うんですけど
その当時から今までの差っていうのを考えつつ
今の感覚と当時の恋心を対照的に描きながら
今の社会の感じで恋愛小説って成り立つのかなっていう
率直な疑問を思いながら描きました。』

上田さんは執筆活動とIT企業の役員を並行する
「兼業作家」という形で活動されていますが
以前は朝起きてから2時間くらい原稿を書き、
出社するということをされていたそうです。
その後、作家としてのキャリアも積み重ね、
さらにコロナ禍ということでリモートワークなどの生活様式の変化により
時間の幅ができたそう。
逆にその時間の幅ができたことでメリハリがなくなってしまうので
最近では「仕事をする日」と「執筆する日」を分けているとのこと。

他にも上田さんは後続作業のことを考え
締め切りは守るように心がけていたり
仕事の量や種類が増えてきたら、先々のことを考えず
目の前のものにとりあえず集中することを
執筆する際、大切にしているとのこと。



++ Until now ++

上田さんが子供の頃は
今と違い、インターネットも普及していないため
テレビ・ラジオ・新聞・本から情報を得ることが多かったそう。
その中で本は家にたくさんあり、
その影響からか小さい頃から将来は作家になりたいと考えていたとか。
しかし、学生時代は執筆よりも
将来的に作家になるために、
普通の作家さんが持っていないような経験、
作家になったらできないようなことをしようと考えていたとのこと。
例えば・・・

『本来、作家になったら転職ってできないと思うんですよ。
最後の職業的なニュアンスが若干あって
逆にその前に色々やっていると、それが手がかりになって
その後も色々とできるのかなみたいな。』

そして大学卒業後は、そのまま作家になるのではなく
会社経営に携わられました。
その後、30代から改めて本格的に作家を目指されました。
理由としては起業が落ち着き、執筆に時間が取れるようになったのと
３０代になったことで年齢的な焦りを感じ始めたとのこと。

大学卒業後に会社経営、その後作家になった経験を
今振り返り、改めて感じたことは・・・

『捻くれてきて寄り道をしまくった結果
それでも作家になりたいという。
あとは20代前半に描いたものと比べて思うのは
すごく冷静になったなって。
熱いものを持ちつつも冷静になったなっていうのはありますね。』

++ Right now ++

オフの日は本を読んでいるか
最近はゲームをやられているそうです。

朝は運動をされているという上田さんは
その後、お風呂に入り、ついでにバスタブを掃除することにハマり中。

『効率がめちゃくちゃいいっていうことと
やったらやっただけ結果がわかりやすい』



++ From now on ++

詳細はまだ発表になっていませんが、今後作品集を出す予定とのこと。
さらに現在、講談社の雑誌「群像」で連載をされていますが
年明けには別の連載が始まるとのこと。
こちらの作品について上田さんは・・・

『今回出たばかりの「最愛の」はリアリズムに特化した作品なんですね。
なんですけどそこのリアリズムに特化したところをもう少し
元々の作風みたいなものを、今一度、
再接続するみたいなことをやってみたいなと思っていますね。
量子コンピューターや異世界、並行世界とかを取り込みながら
リアリズムの恋愛も絡んでくるという。』

最近はChatGPTを始めとするAIの進化が著しいですが
上田さんはChatGPTと共作するような流れが
もっと出てくると考えられているそう。

『例えばChatGPTが登場人物の1人として出てきて
セリフを投げかけて言わせてみるとか。
あるいはこの章はChatGPTに任せて、次の章は自分で描くとか
というのがあったら面白いかなと思いますけどね。』

最後に上田さんのこれからについて伺うと
引き続き、忙しい時ほど目の前に集中するというのと
人に優しくなりたいとお話ししてくださいました。