ON AIR DATE
2025.11.02
BACKNUMBER
  • J-WAVE
    EVERY SUNDAY 20:00-20:54


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当番組のPodcastは・・・
毎週日曜日の午後8時に最新版を
アップしています。

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TUDOR logo


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『TRAVELLING WITHOUT MOVING』・・・
「動かない旅」をキーワードに旅の話と、
旅の記憶からあふれだす音楽をお届けします。
ナヴィゲーターは世界約50ヶ国を旅した野村訓市。

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--- R.I.P. D'Angelo ---

テーマは「ディアンジェロ」

先日、惜しくもこの世をさったアーティスト、
ディアンジェロについて語る

国民的スター、世界的名優、一時代を築いた
プロレスラーなど、訃報が続くこの頃...

ディアンジェロがミュージックシーンで
脚光を浴びた2000年に訓市は
どこで、何を考え、彼の音楽に触れたのか

リスペクトの気持ちを込めて、
ディアンジェロを追悼する

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「旅」と「音楽」に関するエピソードや
思い出の“お便り”をお待ちしています。
「旅先で聴きたい曲」のリクエストも大歓迎!

そして、旅の話だけでなく、仕事、進路、
人間関係から恋愛、夫婦・親子関係まで
全ジャンル、全テーマにご対応!
曲のリクエスト、選曲オーダーにもお応えします。

番組サイトの「MESSAGE TO STUDIO」から
“お便り”を送信してください。

2025.11.02

MUSIC STREAM

旅の記憶からあふれだす音楽。
動かなくても旅はできる。
ミュージック・ストリームに
身をゆだねてください。
1

Geto Heaven / Common feat. D'Angelo

2

B

3

This Is The Day / Mamas Gun

4

I've Seen It / Olivia Dean

5

Love Inder The Moon / 久保田利伸

6

Soul Sista (Remix) / Bilal, Raphael Saadiq

7

No More Rain (In This Cloud) / Angie Stone

8

Whenever Wherever Whatever / Maxwell

9

Another Life / D'Angelo & The Vanguard

2025.11.02

ON AIR NOTES

野村訓市は、どこで誰に会い、
どんな会話を交わしたのか。
何を見たのか、何を聞いたのか。
その音の向こうに何があったのか。


KUNICHI was talking

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今年だけじゃないんですけども、特に今年は一方的に自分が知っている人たちがたくさん亡くなってしまい悲しいと感じることが多い毎日です。代表的なことで言うと例えば野球の長嶋さんとか、親の代にとってのスーパースターで現役時代っていうのは僕も知りませんが、監督をやっていたり、その強烈なエピソードを色々んな方が話していたり知らない人っていなかったんじゃないかと思います。長嶋さんという名前を聞けば誰もが一瞬で頭の中にそれが誰で、どれだけ特徴的な話し方をする人だったかと思い出すことができる。こういう人たちっていうのは世代を結んでくれる貴重な存在だと思うんですよ。年齢も性別も違う、生活の仕方に共通項のない僕たち日本人たちが彼らの存在を通して会話をすることができる。それも若いころから活躍し、しかもその現役時代といいますか活動というものが40年、50年と続くからこそ成り立つことなんだと思うんですけども。生まれた時からずっと目にしてきた人たちというのはどこか人間離れしてるというか、もう永遠に生きてるんじゃないかって勘違いさせるパワーがあると思います。僕が小さい頃、例えば幼稚園から帰ってくると母親がつけたテレビでは『徹子の部屋』がやっていました。もう放送50年目ですからね。その時点でもうやっていたわけですよ。そして、その番組は今も当たり前のように放送されている。となると、まあ、かなりの高齢者の方から今の小学生、テレビを帰ってきて観るぐらいの子たちはたぶん『徹子の部屋』と黒柳徹子さんを認識しているわけです。「この間の徹子の部屋は面白かったね」と、90歳のおばあちゃんと小学生の孫が共通として話せてしまう。これって本当にすごいことだと思うんですよ。なぜなら、おばあちゃんが好きだったかもしれない美空ひばりとか石原裕次郎のことをどんなにすごかったとしても今の小学生は知りませんし、逆に彼らが今夢中になっているYouTuberとかティックトッカーをおばあちゃんは知りません。けれども、黒柳徹子は両方知っている。こういう生活の周りにある些細なことっていうのが実は“日本人とは何かって”いうものの骨子なんじゃないのかななんて思ったりします。海外に出かけて色んな人と出会ったり友達になったりしてきました。それは価値観が一緒だったり、同じような音楽が好きだったり、共通の趣味があったり、色んな理由で仲良くなって国籍なんて関係ないんだなって思ったりもします。けれど、そんな彼らの街にいて、その仲間たちが昔の流行り、幼い頃に観ていたテレビとか、そこでのスター、冗談。同じ国の者同士がそれを懐かしそうに話す時、それを理解できない僕って言うのは、ああ、やっぱり国が違う、育った環境が違うんだなとも感じてしまうのです。それこそ、その国の文化というもので、知らないうちに自分たちの根底にあるものなんじゃないのかなって思います。今のはローカルな話ですけど国籍を超えてみんなが知ってるっていうスターもいるじゃないですか。それこそ本物のスターだと思うんですけど、彼らの存在っていうのは今度、これだけ雑多な世界っていうのを少しだけ小さく繋がりのあるものにしてくれるんだと思います。なので映画で言えば最近ロバート・レッドフォードとかダイアン・キートンとか、最近はあんまり活動を見ていませんでしたが、過去の映画をあれ見ろこれ見ろって勧められると必ず出てくるような人たちが亡くなったり。プロレスで言ったら僕が小学生の時はプロレスブームで、ヒーローって言ったらハルク・ホーガンっていう人がいましたけども、彼も突然亡くなってしまいましたし。何かこう世界中を繋いでいた人たちが1人、2人って消えてってるような、そんな寂しさがあります。


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最近亡くなった人の中で最も個人的に悲しかったというか、食らったのはディアンジェロでした。彼の音楽というのはこの番組でも何度もかけていますが、彼は90年代半ばにデビューして、2000年にセカンドであり傑作アルバムである『Voodoo』をリリースしてグラミー賞を何個も取ったようなシンガーです。キャリアは30年近くあるのに出したスタジオアルバムはたった3枚。完璧主義者だったのか、産みの苦しみがあったのか、とても寡作なシンガーでしたがどれもこれも傑作でした。彼は当時、先程も言いましたけど2000年ぐらい、「ネオソウル」と呼ばれたムーブメントがあって、そこにはエリカ・バドゥとかビラルとかコモンとか、そしてこの番組でもよくかけているJ Dillaなどがいたんですけども、その中の中心人物の1人でした。すごくオーガニックな音色を追求していて、グルーヴとか。僕は初めて聴いた時、新しいマーヴィン・ゲイだと思っていました。セカンドアルバムの『Voodoo』がリリースされた2000年、僕はまだ自分が初めてインタビュー雑誌を作るために格安世界一周券、20万だったのが信じられないんですけども、それで1人、大きなリュックを背負って知り合いの家のソファからソファへと渡り歩いていました。街では移動はほぼ徒歩。たまに疲れていて贅沢しようかといって地下鉄に乗るくらいの生活が半年ほど続いたんですけども、何しろ1日の移動時間っていうのがめちゃくちゃ長いんですよ。多分1日4、5時間歩いてたのかな。トータルではもっとか。なのでCD Walkmanが唯一の友達という感じでした。当時は「Case Logic」っていう、ちょうどファイルみたいな形のCDケースがあったんですよ。それに普通はCDのジャケを入れるポケットがあるんですけど、そこにも全部CDを突っ込んでリュックに入れて歩いていました。その中で出会ったのがこのディアンジェロで、もう本当にぶっ飛ばされたという感じでしたね。音が黒いとしか説明ができないんですけども、とにかくそれで異常にゆっくりなビートなんですが、ものすごいグルーヴがあるんですよ。止まりそうで止まらないっていう。すごくその時ディアンジェロを聴きましたし、今でも彼の曲を聴くと僕はそのほぼ無一文のような感じでひたすら歩いていたロンドンを思い出します。まあ、疲れて満員の地下鉄で「はあ」っていう時にヘッドホンからディアンジェロが流れてくるとグルーヴを感じるというか、落ちてた気持ちが暖かくなるとかそんな感じでした。番組の冒頭でも話しましたけど別の友達と飲んでいる時に、その来日中だったスケーターチームから連絡が来ました。「このバーにいるからクンも来てくれよ」「いやいや、俺は今日別で飲んでるし、明日ね」。しばらくすると「まだいるぞ」「今どこ?」と写真を送ってきたり、終わることのない連絡に顔を出すことにしました。結構遅い時間でしたし…って言っても2時半ぐらいだったんですかね。テキストを見てもかなり酔っ払ってる感じですし、しかも時差ボケなはずだろうから、顔出して1杯飲めば帰ると思って行きました。バーに着くとみんな陽気ながらも悲しい顔をしているので、「どうしたの?」って言うと全員が携帯の画面をこちらに差し出しました。ちょうどリリースされたばかりのニュースの画面で、「ネオソウルの先駆者ディアンジェロ51歳、膵臓癌で死去」。なんとも言えない気持ちになりました。彼の音楽を聴いていた頃の自分の思い出っていうものが一瞬で思い出され、その一部も死んでしまったような気がしたからです。「ディアンジェロに献杯するぞ」と友達が言い出して、1杯のはずが2杯、3杯となり、長い長い夜になりました。その間中ずーっとみんなが選んだディアンジェロの曲が流れていました。