ON AIR DATE
2025.02.23
BACKNUMBER
  • J-WAVE
    EVERY SUNDAY 20:00-20:54

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 Let's travel! Grab your music.

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

TUDOR logo

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

『TRAVELLING WITHOUT MOVING』・・・
「動かない旅」をキーワードに旅の話と、
旅の記憶からあふれだす音楽をお届けします。
ナヴィゲーターは世界約50ヶ国を旅した野村訓市。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

#542 --- 訓市、デイヴィッド・リンチを語る ---

映画監督デイヴィッド・リンチさんの訃報を
耳にした訓市は、その時に何を思ったのか?

映画好きだった少年時代に観た
初めてのリンチ作品と、その感想について

訓市がリンチ作品に惹かれた“ワケ”とは?

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

引き続き、毎週1名の方には、
「500回オンエア記念Tシャツ」をプレゼント中!

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

当番組のPodcastは・・・
毎週日曜日の20時に最新版をアップします。
こちらも聴いてください〜

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

「旅」と「音楽」に関するエピソードや思い出の
“お便り”をお待ちしています。
「旅先で聴きたい曲」のリクエストも大歓迎!
手紙、ハガキ、メールで番組宛てにお願いします。
番組サイトの「Message」から送信してください。

訓市がセレクトした“お便り”の中から
毎週1通を厳選して、
「番組オリジナルTシャツ」をプレゼント!

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

宛先は・・・
〒106-6188
株式会社 J-WAVE
TUDOR TRAVELLING WITHOUT MOVING 宛

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/


2025.02.23

MUSIC STREAM

旅の記憶からあふれだす音楽。
動かなくても旅はできる。
ミュージック・ストリームに
身をゆだねてください。
1

Under Control / The Strokes

2

Knocking (At Your Door) / Rusty Williams

3

Nunca Mais / Joao Donato & Marisa Monte

4

Floating / Julee Cruise

5

私生活 / 東京事変

6

C U Girl / Steve Lacy

7

I'm Waiting Here / David Lynch & Lykke Li

8

Last Night On Earth / Green Day

9

As Time Flies / Ty's Music

2025.02.23

ON AIR NOTES

野村訓市は、どこで誰に会い、
どんな会話を交わしたのか。
何を見たのか、何を聞いたのか。
その音の向こうに何があったのか。

KUNICHI was talking

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

先日、デイヴィッド・リンチが亡くなりました。僕はそのニュースをバーで飲んでいる時に見たんですけども、一気に酔いが覚めるくらいショックでした。それはとても影響を受けた映画監督というか、子供の頃から当たり前に身近にある名前であったということもあります。カルト映画の王様のような扱いをずっとされていましたから、SNS上で追悼の嵐が世界中で起こっているのを見て、ちょっと驚いてしまいました。それも亡くなった当日だけじゃなくて何日も何日も心のこもった追悼ポストや「本当に素晴らしい作品をありがとう」という感謝の気持ちがこもったものがたくさんポストされていました。SNSを見て、いいなと思ったことがすごく久しぶりだったというか、ネットで見ていると最近、本当に殺伐とした戦争のニュースっていうのはずっとありますし、フジテレビのだ兵庫県のだっていう、もう何が正しいのかも分からないし、とても作為的な感じで切り取られてて、すごく嫌だなっていう…。ゲンナリしていたので、そんな世の中でどちらかというと不気味でシュールで一般向きじゃないような映画を作ったデイヴィッド・リンチ監督が亡くなって、心が温かくなるような気持ちにさせられるポストを見るっていうのは凄く意外だったと同時に救われた気分になりました。僕がリンチ監督を知ったのは『エレファント・マン』という映画で、まだ小学生の頃です。実際にいた人で凄く悲惨だった人がいるって言って、監督名を知って見たわけじゃないんですけども、そこからやがて高校生とかになって背伸びする頃になると『ブルー・ベルベット』やら『ツイン・ピークス』『ワイルド・アット・ハート』など作品全てを観るようになりました。小さい頃から映画は好きだったんですけども当時は例えば、『インディ・ジョーンズ』とか『バック・トゥ・ザ・フューチャー』みたいな冒険ものでハラハラドキドキするものが映画だと思ってましたし、そもそも映画というのにはストーリーにちゃんと繋がりがあって、たとえリアルでは無いとしても設定や話の流れにリアリティがあると思える作品が好きでした。と言うのも学校で作文を書かされる時にも習いますけど、起承転結ってあるじゃないですか。映画もそうで、話が途中で飛んでしまったり破綻したり、尻切れとんぼで終わったり人物描写がダメだと当然その映画はダメで、そもそもそれがちゃんとしてないと途中で観るのをやめたりしたものでしたが、それもリンチ監督に出会うまでは。彼が作る映画って良い映画の前提がちょっと無いじゃないですか?なんの説明も予告も無しに予想外のものが、さも当然のように出てきたり、変わった人物が突然出てきたり。そして他の登場人物はそれを疑問に思わず受け入れたり。不条理っていうんですかね。じゃあ、ついていけないから観るのを止めるか?と言うとそんなことは無くて、なぜか目が釘付けになって最後まで観てしまう。誰かの夢を俯瞰して観ているような、登場人物として観ているような、そんな感じです。
?
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

まあ、そんな不条理な映画、一体誰がこんな映画を作っているのか?アヴァンギャルドと言いますか、変わったアートを作る人は大抵において服装や髪型もトンガっていたり、見た瞬間に「あぁ、いかにも」と感じる人が多いとそれまでは思っていました。皆どこかで他人に見られているということを意識しているというか、作風と自身を一致させて、より説得力を持たせようとするというか。そして、「俺の作品の良さが分からないなら、お前らに映画を語る資格は無い」というような態度の人って多いじゃないですか。孤高の監督、みたいな。リンチ監督はどこかそこからも外れていたような気がします。黒いスーツを着てボサボサの頭をしていましたが、エキセントリックな喋り方とかクレイジーな目つきをするわけでもなく、ただ本当にチェーン・スモーカー、タバコを吸い続けながらゆっくりと話すわけで…。僕はそのうちに、その彼の話す言葉に惹かれるようになりました。「悪夢のような作風」と言われたりもしましたが、彼自身は喋る時は丁寧で、実は案外とてもポジティブなことを話すのです。自分が美しいと思っていることが他人と違っていてもそれを信じて、理解しない人がいてもそれをダメだと否定しない。何かいつも良いことを言おうと考えを巡らせたようにも見えず、簡単な言葉で、時に哲学的に、とても希望に満ちた形で話す。僕は彼の映画のファンと言っていましたが、いつのまにか彼自身のファンになったような気がします。コロナ禍でロックダウンの頃はYouTubeで突然、天気予報を始めていました。彼が住んでいたロサンゼルスの天気を淡々と伝えるだけ。でも、晴れの日のことを「素晴らしい青空の晴れだ」とかと言ったりして、最後に「皆さん、良い1日を!」と言って締める。部屋に篭って外に出られないことを嘆く人が多い時に、「良いこともあるんだよ」と言っているようで、とても素敵だなと思っていました。監督が亡くなった時に家族がこういう話をしていました。「彼がよく口にしていたように、穴を見るのでなく、ドーナッツを見てください」。それが日本の新聞社の記事にもそのまま出ていたんですけど、これ、もうちょっと訳すべきだろうと。本当の意味はきっとこうだと思うんですね。ドーナッツと言えば穴が空いている物の代名詞で、誰もがその穴ばかり見るけども、実はその穴の周りには穴より大きな素敵なドーナッツというものが存在しているのだと。だから自分が亡くなって悲しんだとしても、皆さん世界はまだ美しく存在してますよ。その悲しいことだけに囚われないで下さい。そういうことを言ってるんだと思います。決して分かりやすい作風だとは言えませんけども、リンチ監督の映画を観たことがない人は、ぜひ観てみてください。なんじゃこりゃと言いながら気づいたら2時間がっつり観てた、そんな風なマジックを起こしてくれる監督です。