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Let's travel! Grab your music.
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『TRAVELLING WITHOUT MOVING』・・・
「動かない旅」をキーワードに旅の話と、
旅の記憶からあふれだす音楽をお届けします。
ナヴィゲーターは世界約50ヶ国を旅した野村訓市。
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#536 --- リスニング・ルーム ---
昨年末に訪れたニューヨークの話・続編。
同じ趣味を持つ歳の離れた親しい友達、
デヴォンについて語る。
ニューヨークにオープンした
「リスニングルーム」で聴いた音とは?
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引き続き、毎週1名の方には、
「500回オンエア記念Tシャツ」をプレゼント中!
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当番組のPodcastは・・・
毎週日曜日の20時に最新版をアップします。
こちらも聴いてください〜
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「旅」と「音楽」に関するエピソードや思い出の
“お便り”をお待ちしています。
「旅先で聴きたい曲」のリクエストも大歓迎!
手紙、ハガキ、メールで番組宛てにお願いします。
番組サイトの「Message」から送信してください。
訓市がセレクトした“お便り”の中から
毎週1通を厳選して、
「番組オリジナルTシャツ」をプレゼント!
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宛先は・・・
〒106-6188
株式会社 J-WAVE
TUDOR TRAVELLING WITHOUT MOVING 宛
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MUSIC STREAM
動かなくても旅はできる。
ミュージック・ストリームに
身をゆだねてください。
Young Americans / David Bowie
Just Like You Used To / Jalen Ngonda
Enchanted Mirror / Luiz Bonfa
Pyramid Song / Radiohead
Tonight / 佐野元春
Did You Notice / Louise Murray
Old Arcade / Still Corners
Earthquake / FKJ
Gnik Nus / The Beatles
ON AIR NOTES
どんな会話を交わしたのか。
何を見たのか、何を聞いたのか。
その音の向こうに何があったのか。
KUNICHI was talking
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先日の放送で話した12月のニューヨークの話の続きなんですけども、ニューヨークにデヴォンという友達がいます。元々はグラフィティをやったり服のブランドで働いていたりしたんですが、大学では電子工学を学んでいた、ちょっと変わった人でして、ニューヨークの僕の友達とは共通の知り合いも多いのですが、彼らとはどこか毛並みの違う人でもあります。僕が彼を友達に紹介されたのはもう随分と前のことで、「クンと同じような、何を言ってるのかさっぱり分からないが、古いハイファイ好きがいる。だから気が合うんじゃない?」というのが理由で会いました。僕らは昔のストリートカルチャーが好きで、古いコーヒーマシーンに詳しいという別の共通項もあったのですが、それよりなにより「古いハイファイの音響機器が好き」というとても大きな共通項がありました。古いハイファイ・・・まぁいろいろあるんですけども、僕らにとってそれは戦前から戦後…だいたい60年代前半までの、アンプに真空管を使い、スピーカーは大きな「ホーン」と言われる金属製の四角いラッパのようなものが箱の上に乗っかっている、家庭用というよりは映画館やスタジオなどで使われる業務用のものを意味します。その当時生まれた音楽を、そのミュージシャンたちが使っていたであろう装置を使って聴く。それこそが最高の音だと信じていて、何より昔の機材には希少な金属などを用いて耳に聞こえないくらいなワイドな音域を再生するので、とても豊かな音がするというところにも物凄く惹かれていたのです。日本は世界でも類を見ない、こういう古いハイファイのマニアが数多くいて、ものすごい知識があり、専門誌がいくつも発行されてるくらいなんですが、何しろ平均年齢が高い。同じような趣味を持つ同世代の知り合いは日本に全くいなくて、僕は昔デトロイトで手に入れた古いアルテックという映画館用のスピーカーと真空管アンプでレコードを聴いて、最高な音だとニヤニヤしていたのです。だけど、その素晴らしさを分かち合う人が1人もいなくて、「あぁ孤独だ」・・・そう思っていたところに僕よりも一回り近く若い同じ趣味の人間がニューヨークにいた!それがデヴォンということで、すっかり仲良くなりました。ただ、似た者同士って比較も出来ないほど彼は凄くてですね、僕はただ古い機材を調べてシステムを組んでレコードを聴いて満足しているのに対し、彼は音響知識が豊富なので古いパーツを使いながら新しいキャビネット、いわゆるスピーカーの箱とかですけど、とにかく自分の機材を作るということに情熱を傾けられる人でした。古いターンテーブルをばらして、そこから自作のものを作ったり、アルテックのホーンやドライバーを使用しながら新しい考えでスピーカーを作ったり。そして「オジャス」と名付けられた彼の設計したスピーカーやアンプは、やがて一部のマニアの人に知られるようになると昨今のレコードブームに乗って人気が世界中で高まり、今では彼のシステムを使ったクラブやレストラン、バーが至る所にあります。
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そんなデヴォンはニューヨークのソーホーにある「USM」というドイツ製の有名なオフィス家具ブランドの店舗の奥に試聴室「リスニングルーム」を作りました。これは日本のMJ、松本潤じゃありませんよ・・・『ミュージックジャーナル』という雑誌に読者が自分の部屋の視聴室の設計図とかを書いて送るコーナーがあるんですけど、それに感化されて作ったもので、ブランドにとっては彼の作るシステムを見せながらレコード棚や台を欲しがる顧客への良いマーケティングになりますし、USMの製品がそもそも好きであり、自宅ではなくソーホーに試聴室を置くことで、色んな人に「良いシステムとはどういうものか」を体験してもらえる便利な場所として、デヴォンとUSMの互いの利害が一致してできたものです。土曜日の昼、ちょうど一般開放を止めているということで友達を連れてデヴォンと一緒にそこに向かいました。連れて行った友達はレコードバーとかには行ったことがあるけれど、レコードだけを本当に良い音響で聴くリスニング体験は初めてという20代と40代と50代。しかも前日の金曜の夜は全員ががっつりと深く酒を飲んでいて、集合場所のチャイナタウンからソーホーまで歩くだけでも一苦労。やっとのことでリスニングルームに辿り着きました。そこには低い壇上の座る席の正面に、これまた低く設置されたデヴォンのシステムが神棚のように鎮座しています。「何を聞こうか?そうだクン、ビートルズ好き?『アビーロード』を聴こうよ。最近おれ、すごくハマっているんだ」。なんでも最近、ウクライナに住むリールテープのコレクターから色んな音源を手に入れたらしく、いわゆるマスターですね、原盤のリールテープからダビングされた第2世代の超高音質のテープがあるというのです。みんなにビートルズの『アビーロード』を聴こう!と言うと、「あぁ、あの信号を渡る写真のだろ。俺も渡ったことあるぜー」とか「ビートルズかぁ、親みたいなこと言うなぁ」とか、二日酔いの連中らしい、だるい返事が返ってきました。そんな中、デヴォンが1人黙々と電源を入れ、リールテープをマシーンに取り付け、試聴会が始まりました。結果から言うとテレビ番組のビフォーアフターみたいな感じになりましたね、全員。しばらく聴いて、”何ということでしょう、今まで気づかなかった小さな息遣いや虫の声、弾かれたベースの弦の音が、まるで目の前で鳴ってるかのようじゃありませんか。知っていたアルバム、何度も聴いたことがあるとタカをくくっていた曲が匠の手によって全く違うもののように聴こえるではありませんか”。最初に聴いたのが「サンキング」。それから通しでアルバムを聴き、そこからは全員あれも聴きたいこれも聴きたい。ビル・エヴァンスに坂本龍一、レディオヘッドにヴィンセント・ギャロまで・・・気付けば1日中そこでレコードを聴いていました。音楽の聴き方っていうのは色んなのがあると思うんです。生で聴くライブ、車で聴くラジオ、そして個人的にAirPodsなどを使って携帯から聴く聴き方。レコードからハイファイシステムで聴くやり方はそれらとは全く別物の新しい体験だと思います。リスナーの皆さんは音楽好きだと思います。今年はぜひハイファイの機材が揃ったバーや喫茶店で自分の好きな聴き慣れたアルバムを聴いてみてください。きっと別物のように聞こえるはずです。
野村訓市
1973年東京生まれ。幼稚園から高校まで学習院、大学は慶応大学総合政策学部進学。
世界のフェスティバルを追ってのアメリカ、アジア、ヨーロッパへの旅をしたトラベラーズ時代を経て、99年に辻堂海岸に海の家「SPUTNIK」をプロデュース。世界86人の生き方をたったひとりで取材した「sputnik:whole life catalogue 」は伝説のインタビュー集となっている。
同名で「IDEE」よりインテリア家具や雑誌なども制作。現在は「TRIPSTER」の名で幅広くプロデュース業をする傍ら、ブルータス等の雑誌などで執筆業も行う。


