KYOCERA
TECHNOLOGY COLLEGE
21:40 - 21:50
毎月1名のゲスト講師が登場。週替わりのテーマで学生向けの授業を実施。
未来へのヒントが詰まったコーナーです。
初回のテーマは「ファッション業界とデジタル戦略の今」。TSIホールディングスは総合アパレル企業で、「53ブランドを抱え、その幅広さが特徴」と語る渡辺啓之さん。全体の売上のうち、35%がECの売上で、業界水準が20%程度なのに対し「進んでいる会社」「可能性は感じてました」と言います。渡辺さんが前職のクライアントとしてTSIホールディングスに出合った10年前は、まだ「ECは店舗のおまけだった」し「雑誌と一緒にトレンド作って、マスに売ってきた時代」でしたが、「新たにデジタルに息を吹き込んで、業界を変えていきたい」と志を持ってファッション業界に飛び込んだそう。「認知する、商品に興味を持つ」という流れの軸足が変化し、「触ってもらって品質を伝えてナンボ」な服も「オンラインを起点にした在り方にしないといけない」と時代の変化を語る渡辺さん。コロナ禍で店舗が閉まったり営業時間が短くなった中、店舗スタッフが「ECサイト上でチャット応対、オンライン接客」できるシステムをすぐに導入。EC上のコンテンツ拡充も積極的に行い、「スタッフのコーディネート」を紹介することで「店舗に行かなくても販売スタッフを身近に感じてもらえるよう」にしたと当時を振り返ります。今は逆に「ECから店舗への送客をする流れを作り始めてる」そうで、「コロナもフェーズによって流れを変えていかなければいけない」「ECがデジタル、店舗がアナログだった時代から」店舗内でもスマホを活用するなど「デジタルが全てを飲み込んでいる」と渡辺さん。メタバースの世界では「自分が着るんじゃなくてアバターが着る」デジタルファッションも盛り上がりを見せ、「触れて着る以外にも」服によって「何を提供価値にするのか」を日々考え続けていると語りました。(7/1)
2回目のテーマは「顧客体験の全体像を掴む」。例えば、ブランドのSNSでかわいい”と思う商品を見つけた時、まずECサイトや商品の詳細画像、販売員の着用画像などワクワクするものを探し、実際に店舗店舗に見に行って購入した後も、手持ちの洋服との組み合わせ方にワクワクする。これらの行動に対して、店舗ECや店舗という“点”で捉えず「お客様の情緒に作用する」「一連の体験」として考えるのが大切だと渡辺さんは言います。ECと店舗には特徴に大きな違いがあり、「服の機能性やサービスの機能面」を“機能的価値”として語るなら「一度にいろんな商品を見ることができる」「閲覧・レコメンド」が可視化しやすいECが向いていると渡辺さん。「サービスから受けた印象」を「ECは非常に付与しにくい」一方、「店舗は顧客と直接会話」でき「“情緒的価値”を提供できる」「店舗の体験が求めるものは、情緒的価値に重きを置かれるケースが多い」とのこと。現在、「ECでどこまで情緒的価値に寄り添えるかが課題」と言い、「サービスに機能差がなくなりつつある今、情緒的な充足面に向かい始める」「ECと店舗それぞれの持ち味を、いかに一連の流れに活かしながら」「全体の設計を行い、両面を提供する設計」をするかが重要だそう。長所を生かしつつ、短所を埋め合い、カスタマージャーニーに機能的、情緒的なものが入り乱れた体験を作れるよう心がけていると渡辺さん。しかし、現実は企業内部で「ECと店舗が設計次第では顧客を奪い合ってしまう」そうで、「何を優先して考えるべきかがブレてはいけない」「(ECと店舗が)もちつもたれつ」になるよう意識していると語りました。(7/8)
3回目のテーマは「ECと店舗での体験をつなげる」。まず、渡辺さんは学生に「ある(アパレル)専門店の販売スタッフだとして、お客さまがどんな体験を求めているか」を質問。それに対する学生の「お客さまの行動を見て、どのような商品を手に取って見ているかよく観察する」という回答に対して「その通り」と渡辺さん。「少ない情報を手がかりに、興味のあるものを推察し、声を掛ける」のが店舗スタッフの接客方法で、「ここが実は、非常に大きな課題」と言います。EC経由で購入検討した場合は「ECサイトにログインし、どのページを回遊し、比較検討したかがわかる」のに対して、店舗で購入検討する場合は「来店の前に、ECで商品をチェックしてきたかもしれない」はずなのに、「ECでの行動が店舗につながっていない」ため、「ECから店舗、店舗からECへの体験をつなげる仕組み」を構築したとのこと。まず、ECから店舗へのアプローチとして「お店の前にチェックインするスタンドを設置」し「入店段階でどのお客さまが来たのかを把握」することで、「店舗内の売れ筋、お気に入り登録している商品、来店前に試着予約した商品」を確認できる機能を実装。チェックインを設ける理由については、「顧客体験のため、チェックインしたい人はチェックインし、そうでない人はこれまで通りの接客に」できるよう意図している渡辺さん。また、店舗からECへの誘導については京セラとの取り組みで「ハンガーにセンサーがついて」いて、「ハンガーを手に取る動きを読み取り」「商品を手に取ったとわかる仕組み」を実装し、「手に取ったのか、鏡に当てたのか、試着室に持っていったのか」商品への関与がわかる仕組みを構築。さらに、渡辺さんは店舗を出た後も顧客が興味を示した商品に対する余韻を残すことが必要だと話し、「一連の顧客体験は、お客さまからすればつながっている」「企業側も、提供する体験をつなげていきたい」と語りました。(7/15)
4回目のテーマは「アパレル店舗のデジタル戦略と舞台裏」。渡辺さんと共に、京セラ株式会社 出川智博さんも登場。デジタルハンガーは京セラとTSIホールディングスの共同開発で生まれたそうで、出川さんが洋服が好きなこともあり、IoT文脈で「アパレル業界で何か考えられないか」とTSIホールディングスに提案したそう。ハンガー以外にもアイデアはいくつかあったそうで、当初は商品タグにRFIDと呼ばれるIDを入れ込もうとしたと出川さん。「RFIDのタグを読み込むにはリーダーが必要で、それが意外と高価」で、「検閲制度などシステム状の課題があり、ハンガーにセンサーを一つずつ取り付ける方がいいのではとなった」と解説します。ハンガーには「加速度センサーをつけていて、触っただけなのか持って歩いたのかを判断」しているため、加速度のチューニングが難しいそう。そのため、出川さんは「お客さんが実際どういう行動をしているのかを店舗に立ち」「持たれ方をデータで取り、10万件以上を集めた」と開発時の苦労を明かしました。デジタルハンガーは現在、ラゾーナ川崎のナノ・ユニバースの店舗にて実証実験をしていて「商品は平積みされているものもあり」今後はハンガー掛け以外の商品にも実装したいと出川さん。渡辺さんは「本来お客さんが求めているものって、スタッフのコーディネートやスペシャルなコンテンツ」などだと言い、「店舗を出た後にスマホでどういう接客をするか」「突き詰めればいろんな可能性があると思う」と展望を語ります。最後に学生たちにもアイデアを募り、「繊維自体にセンサーのような情報を取り込めるものを盛り込めないか」「複数の商品を触る人は優柔不断」ゆえに「店舗に来る前に情報を提供する」など、斬新なアイデアが飛び交いました。(7/22)
5回目は、参加者と渡辺さん、出川さんとの質疑応答。「テクノロジーの力を利用して、顧客体験をラグジュアリーな方向に改善していくか」という質問に対して、渡辺さんは「パーソナライズに向かっていくのはその通り」「情緒的価値は、個人的価値」ゆえにパーソナライズアプローチが必要と回答。ファッション業界のこの先を問う質問には、渡辺さんは「アパレルはマーケット自体は継続的に縮小している」「少子高齢化」で「市場飽和になるし、レッドオーシャン、顧客の奪い合いになる」と説明した上で、「自社が、独自性を明確にして顧客に訴えかけないと行き詰まる」と解説しました。テクノロジー、サステナビリティ、自社商品の買取・リセールなど「独自性を組み入れたところが勝つ」「これまでの企業がある程度淘汰される中、新興企業と新たな市場を作っていく」と渡辺さん。続いて「決断力を磨くには?」という質問に、渡辺さんは「決断できない時って、影響の範囲が見えない時」と回答。「決断力は思考力」で「情報収集して、網羅的に一個一個つぶしていく」ことで、「不安は取り除かれ、ロジカルな思考」で判断できるからこそ、物事を「構造的に理解し、ひとつひとつ対処していく」ことが必要と語りました。講義の総まとめとして、渡辺さんは「大事なことはどんな体験価値を提供したいか」「テクノロジーはその手段に過ぎない」「順番を間違えてはいけない」、出川さんは「行動には必ず意味がある」「気が効くなぁと思えるものを提供する」、センサーによって「データがとれることで、顧客に還していきたい」と語りました。(7/29)
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