世界のお笑いライブ事情
6月5日は「落語の日」。
「6」と「5」を「らくご」と読む語呂合わせで、落語家の春風亭正朝さんが制定した記念日です。
落語といえば、江戸時代から続く日本の伝統的な「お笑い」。
都内には歴史ある寄席が4つあり、落語をはじめ、漫才、講談、手品、曲芸などの大衆演芸が毎日上演されています。
また、テレビで活躍するお笑い芸人たちを生で見られる「お笑いライブ」も各地で開催されています。
そんな「お笑いライブ」の文化は、海外ではどのように楽しまれているのでしょうか。
今回はアメリカ・ニューヨークとインド・ムンバイをつなぎ、世界のお笑いライブ事情について伺いました。
アメリカ・ニューヨーク:中村英雄さん
JK:アメリカでお笑いライブといえば、スタンダップコメディショーが行われる「コメディクラブ」ですよね?
中村英雄さん:コメディクラブは、劇場やライブスポットと並ぶ、アメリカのナイトライフで欠かせないライブエンターテインメントです。
チャッピーに聞いたら、ニューヨークには大小合わせて135件(やたら具体的ですが)との答えが返ってきました。
マンハッタンであれば盛り場を歩いていると、けっこうコメディクラブの看板は目にします。
薄暗い店内にしつらえた段差のほとんどない専用ステージで、コメディアンが入れ替わり立ち替わり登場し、お笑いのネタを披露します。
入場料は無料のところから40ドルぐらいまでで、まちまちですが、たいていは酒類の提供があるため、未成年の入場は禁止されています。
だいたい1つのセットが90分程度。10人前後のスタンダップ・コメディアンが舞台に上がります。
JK:ステージに立つのは、基本お1人ですよね?
中村英雄さん:日本のお笑い劇場と違って、99%がピン芸人です。ニューヨークの舞台芸術の世界では、スポンサーや市当局による検閲が全くないため、コメディクラブでの言語表現に禁止事項は全くありません。なので、とてもテレビやネットなどでは放送・配信できないような(当然、このラジオ番組でもご紹介できないような)過激なジョークが飛び交います。そんな、笑いの無法地帯にしばし身を置いて日頃の憂さをはらす。それがNYのお笑いライブ=コメディクラブの醍醐味です。
JK:例えば、どんな話題で観客の笑いをさらっているのでしょうか?
中村英雄さん:短めのネタ(ワンライナー)を間髪置かずに連発するのがスタンダップの魅力ですが、かなり露骨な政治批判ネタ、下ネタ(特に女性コメディアン)、自虐ネタ(特にLGBTQやマイノリティ人種、移民の)や、人種差別を逆手に取ったネタが目につきます。
あと、観客いじりも肯定的に「芸のうち」と評価されるので、舞台と客席の距離は近いですね。台本なしは大前提。ステージごとにネタや構成が変わるのは日常茶飯です。
JK:コメディクラブ出身の有名人も多いですよね?
中村英雄さん:ハリウッド映画で活躍するコメディ俳優はほぼ100%スタンダップ(コメディクラブ)の経験者です。コメディクラブ出演はアメリカで芸人になるための登竜門といっても過言ではないでしょう。コメディクラブの出演料は1回20ドル程度で、それだけではとても生活していけません。なのでスタンダップ・コメディアンのほとんどが、他に映画・演劇活動をやったり、MCやクラウン(いわゆるピエロ)の仕事(日本で言う「営業」)をこなしたりしながら、虎視眈々とトップの座を狙っているのです。
一方、観客対面のスタンダップはコメディの原点なので、テレビに出るような有名コメディアンでも、ひょっこりクラブに顔を出して新ネタを試すこともあります。
グリニッジビレッジにある「コメディセラー」やチェルシーの「ゴッサム・コメディ・クラブ」といった老舗は、そんなハプニングに出会える場所と言われています。
JK:日本のお笑いのような、2人での漫才やコントのようなスタイルはないのでしょうか?
中村英雄さん:台本のない演劇「インプロビゼーション(略してインプローブ)」の喜劇版がそれに近いかもしれません。コメディクラブやバーのコメディナイトとは別に、インプローブの専用小劇場というのもちらほら登場しています。知り合いがイーストビレッジで、10年以上前からロングラン上演している「バツ(罰)」というショーは、10人ぐらいの登場人物が「ダチョウ倶楽部」ばりの罰ゲームネタで大騒ぎする、まあ「コント」みたいなインプローブですが、州外からNYを訪れる米国人観光客に大ウケ。日本風味の笑いも、やり方次第では当たります。しかし、まだマイナーです。
インド・ムンバイ:ハリーさん(小里博栄さん)
JK:インドのお笑いライブも、いわゆるスタンダップコメディショーが行われる「コメディクラブ」がメジャーなんですよね?
ハリーさん(小里博栄さん):コメディクラブはこの10年ほどで急激に発展しており、ポピュラーなジャンルです。インド全土で1,200軒以上あると言います。僕が拠点の1つを置く大都市ムンバイでは30ほどありますが、バー、カフェとかコーワーキングスペースなどでもcomedy pop-upが多く開催されております。
JK:料金やシステムはどうなっていますか?
ハリーさん:ワンセッションは300〜800ルピー、500円から850円ほど。有名な方は3,000円ほどになります。
JK:インドのコメディクラブでは、どんな話題で観客の笑いをさらっているのでしょうか?
ハリーさん:一番ウケが良いのは中流家庭の様々なトピック。インドでは最も重要な「結婚」「大渋滞」「教育」などが多いと言われています。政治と文化的なジャンルについては、コメディアンがあまりバッシングを受けたくないということもあり、self-censorship(自己検閲)をして微妙なトピックは扱わないのもトレンドだと言われています。一番最近で爆笑で高評価を受けたのは大学入試での不正行為。
また、インドでは教習所で運転免許証を取得するケースがほぼ無く、これが良く笑いを誘うネタとなっております。
例1)
生徒:「左折ウィンカーはいつ使うのでしょうか?」
教官:「君、絶対に使わない物だよ!行き先が知られたら、サプライズもスリルもないじゃないか!」
例2)
生徒:「バックミラーは?」
教官:「家に着く前に髪を直すためだよ。道は前にあるんだ----なんで後ろを見る必要がある?」
JK:特に人気のコメディアンはいるのでしょうか?
ハリーさん:ザーキル・カーン(Zakir Khan)、ヴィール・ダース(Vir Das)、サマイ・ライナ(Samay Raina)が有名です。
ザキール・カーンは「共感を呼ぶ語りで国民的人気」、ヴィール・ダースは「エミー賞も獲った国際派」、サマイ・ライナは「YouTube発で若者に大人気の新世代」。
でも最近話題の人はオックスフォード大学の後輩のPAPA CJさん。世界3,000人のコメディアンのトップ10入りしたことがある方です。最大の持ち味は観客いじり。台本通りのネタよりも、その場の観客とのやり取りで笑いを生み出すこと。続いて、知的でシニカルな「コーポレート・コメディ」、ビジネスや企業文化を題材にした知的な笑いです。皮肉の効いたパンチライン、知的なユーモア、そして企業文化に対する独自の視点で知られています。
JK:そのほか、インドのお笑いについて、お話ししたいことは?
ハリーさん:YouTubeで活躍するコメディアンが多いです。トップコメディアンは800万人フォロワーを誇り、凄い影響力があると言われています。笑いでセンシティブなトピックを影響力あるYouTubeなどで配信すると、警察への被害届けなどが申請され、コメディアンさんが平謝りするケースも多々あります。
また、海外で生活するインド人(母国の外で生活する人)は世界一で3,500万人とも言われており、アメリカ、英国など海外に生活するインド人の現地の方向けに、大勢のコメディアンがYouTubeで大活躍しているとか。