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10月9日は「塾の日」でした。

1988年、全国学習塾協会が制定した記念日です。一口に「学習塾」と言っても、中学や高校、大学などの進学を目的とした「進学塾」、学校の授業内容の理解を深め、学力向上を目指す「補習塾」、特定の科目や分野に特化した指導を行う「専門塾」など、様々な種類の学習塾があります。また、指導のスタイルも、集団指導、個別指導、オンライン指導など多岐に渡っています。

さて、そんな「学習塾」の仕組み、海外ではどうなっているのでしょうか?「世界の学習塾事情」と題して、2つの国の番組通信員の方に、現地の事情をうかがいます。

●ドイツ・ミュンヘン在住 / 町田 文さん

Q1  まず、伺いたいのは、ドイツでは、小学校卒業となる10歳で将来大学にいくのか、職人の道を進むのか、将来の進路が決まるとか?

A1  そのような報道をしている日本メディアを見たことがありますが、 少し大げさだと思います。まず、ドイツは州によって教育制度にやや違いがあります。例えば、小学校は基本4年制なのですが、 ベルリンと隣のブランデンブルグ州は日本と同じ6年制です。

Q2  なるほど、州によっても違いがあって、 必ずしも10歳で進路が決まるわけではないんですね。では、ここからが本題になりますが、我々からするとかなり特殊に見えるドイツの教育システムですが、受験をサポートするような学習塾はあるのでしょうか?

A2  日本のような大きな学習塾はありません。少人数制の塾、家庭教師を利用する人はいます。テスト前に数回だけ家庭教師を頼む、という人もいます。苦手科目の成績を上げたい時にフレキシブルに利用する、といった傾向があります。それはドイツには日本のような受験がない代わり、留年制度があるからです。小学校では稀ですが、私の知り合いにも10代で留年したことがある人達はいます。

Q3  なるほど、ドイツの塾や家庭教師は、あくまで学校の成績を上げるために 利用する人が多いんですね。ピンキリかとは思いますが、塾や家庭教師の料金、 おおよそ(日本円で)どのくらいでしょうか?

A3  少人数制塾だと1授業9ユーロ(日本円でおよそ1600円)から、家庭教師だと経験値によりますが、1授業20ユーロ(3500円)ですね。成績が良い10代半ばの子が小学生に教える、といった家族間取引も聞いたりします。その場合は、授業料はもっと低いと思います。

Q4 たとえば、少人数制の塾に1日2コマ、週3日通うととしたら、日本円で、1か月で4万円くらいですかね。ドイツの感覚的には、どのくらいの値段感になりますか??

A4 感覚でいうと、中間層の家計にダメージを与えることには、ならないと思います。テスト前の数週間、数ヶ月だけ利用する人もいますし、週1~2回の利用が普通なのかと。

中国・北京在住のライター、斎藤 淳子さん

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Q1 中国では、家庭の教育費負担軽減、少子化対策、教育格差の解消を目的に、2021年に、学習塾の新設禁止、非営利への転換などを強引に進めました。当時、斎藤さんに少し伺いましたが、その後どうなったのでしょうか?

A1 あの直後はすごいショックで、前払い制で塾の半年先までの月謝を払っている人も多かったですが、それも戻ってこないし、先生たちも給料未払いのまま放り出されて、北京に住めずに田舎の故郷に帰った塾の先生もいました。塾関連で雇用されていた人は数百万人から1千万人とも言われていて影響は大きかったです。あの後に、禁止法みたいな条例ができたりして、制度的に整えられてきました。でも、実態では緩み始めています。(法律と実施には常に間があるのがこちらなので。)

Q2なんでも、法をかいくぐった、塾の"闇営業"も行われているとか?

A2 かつての大手でしばらく静かにしていた塾が国数英ではないよ、とカモフラージュして授業をしているようです。例えばかつては「小学2年の算数のクラス」と呼んでいたのを、「科学的思考」「論理的思考」「思考訓練」とクラス名を変えて呼ぶ。国語も禁止なので「表現能力」「読解能力」「作文素養」など、英語は英語思考、語学能力、英語能力訓練、科学は探求能力など。また、少人数のネットクラスや先生の家や学生の誰かの家で授業をするグループレッスンも増えました。

Q3 そのような塾、どのくらいの料金なのでしょうか?

A3 クラスの規模にもよりますが、3~6人くらいの小さい1クラス70~120分で3~500元以上(日本円で6千円~1万円)はするので、結構な値段ですね。英語の1対1だともっと高くて1回600元(1万2000円)以上するケースも珍しくない。基本的に小中高と学年が上がると値段も上がるということです。例えば、1週間に2、3種類を習ったとすると、1ヶ月は300元✖️2科目✖️4週間=2400元=4万8000円の計算になります。平均収入は日本の半分くらいなので、倍の10万円弱くらい支払っている感覚でしょうか。ただ家族主義で子どもの教育は最優先なので、じいちゃんばあちゃんが支援してくれる事もあるし、北京辺りでは不動産収入がある家もあります。

A4そのような闇営業に手を出さないとなると、どう受験対策すればいいのでしょうか?

A4 いちおう、学校内で長く残って勉強をするシステムが導入されています。ただ、中国の公立中高は学校にいる時間がめちゃくちゃ長いので、ある意味で学校が塾!のようでもあります。例えば、北京の普通高校三年生は、どこでもほぼ朝の7時半から夜の9時まで月~土曜日も行っていて、夏休みも学校が補修をしますから2週間位しか何もない日はなかったくらいです。学校に行かない日もネット授業をしていたという名門校の話も聞いたことがあります。そういう意味では公立校の時間的な「面倒見」はかなり良いとも言えるかも知れません。ただ、地域差がものすごくありますし、学校のレベルで全く違うので、一概には言えませんが。

Q5 最後に、混乱が続く中国の塾事情、斎藤さんはどのように見ていますか?

A5 大局でいえば、いくら塾を禁止しても、大学受験の熾烈な競争は同じにあるわけで、みなさん人生を唯一確実に有利にするのは高学歴しかないと大多数の人が感じているので、結局、闇で塾に行かせるということになります。今日会ったUberの運転手をしている、小学生と中学生のお母さんも「勉強だけじゃないとか、名門大学を出ても必ずしも職がないとか、理屈はわかるけど、周りの子供たちが塾に行かせているのを見れば、自分の子供だけいかせなかったら、絶対に遅れてしまうから、仕方ない。ペン習字と数学オリンピックと英語を習わす」と言っていました。