
9月19日は「苗字の日」です。1870年=明治3年のきょう、戸籍整理のため、 太政官布告により平民も苗字を名乗ることが許された、という日です。
その後、1898年=明治 31年に制定された旧民法で「家制度」が導入。妻は夫の家に入り、夫婦は同じ家の名字にする制度になりました。戦後には民法改正があり、夫婦は、夫か妻のいずれかの名字を選べるようになりましたが、夫婦は同じ名字にするという仕組みは引き継がれ、今に至ります。
いま、日本では「選択的夫婦別姓制度」の議論が高まっていますが、賛成反対、両論の開きがあり、議論が進展しない現状があります。いっぽう、海外の多くの国では夫婦別姓が認められていて、「原則別姓」であったり、結婚する際に同姓にするか別姓にするかを選べる「選択的夫婦別姓」。また、夫婦の姓を組み合わせて名乗る「結合姓=複合姓」が認められている国もあります。
そこでこの時間は、「世界の苗字事情」と題して、2つの国の番組通信員の方に、現地の事情を伺います。
⚫︎チェコの首都プラハにお住いの 石川 綾さん
Q1 結婚後の夫婦の苗字、チェコではどうなっていますか??
- 妻が、夫の姓を名乗る→最もポピュラー
- それぞれ苗字は変更しない(別姓)
- ミドルネームをつかう(複合姓)
Q2 奥さんが旦那さんの姓を名乗る「夫婦同姓」の場合、 チェコならではの大きな特徴があるんですよね?
A2 夫婦同姓の場合、女性の姓は男性の姓に「ová」をつける形が圧倒的です。
例)
夫Pavel(パヴェル:チェコ大統領の姓)
→妻Pavlová(パヴロヴァー:大統領夫人の姓)
また、男性の苗字が形容詞型の場合は男性形容詞の語尾ýを女性形容詞áの形にしたものを付けます。
例)
夫Novotný(ノヴォトニー)→妻はNovotná(ノヴォトナー)
Q3 では、お子さんの苗字はどうなるのでしょうか?
A3 お父さんとお母さんが同じ姓(お母さんは女性形の姓を名乗っている)の家族が最も多く、その場合、息子は男性形、娘は女性形で両親の姓を名乗ります。とにかく、人の性別に合わせて姓の語尾が決まります。 また、両親が別姓(姓を独身時代から変えない)の家族も多く、その場合子供は大抵お父さんの姓を取り、お父さんの姓で息子は男性形、娘は女性形の姓を使うパターンが多いようです。
Q4 報道などで、チェコにとっての"外国人"の名前も女性の場合、 ováを付けて紹介するとか?!
A4 はい、たしかに私も、その昔のオリンピック報道の際、柔道の田村亮子さんをTamurováと言っているのを聞いて、あらら、とおもった記憶はあります。
Q5 ただ、このováを付ける風習も、近年見直されつつあるとか?
A5 新しい動きとしては2022年から女性も男性形の苗字を名乗れるように なっています。さらに、結婚するカップルが自らの苗字を 全く新しく設定することもできるそうです。とはいっても、そこには認められるに相応の理由がなくてはいけないため、その判断のために手続きには時間がかかるとのことです。
Q6 石川さんご自身、苗字を通じたチェコのお国柄、どのように感じていますか?
A6 姓に複数の選択肢があるのは、「個」の概念が(とても)強く、「家族」の概念が日本ほど強いものではない、ということからきていると感じます。もう少し姓の選択に自由度が欲しい私たち日本人には うらやましくありますが、一方で「家族」の枠自体の緩さというか、 家族を自分と切り離して考える傾向がある、あるいは家族を維持する努力が低い印象を受けるケースもあり、私には人間関係全体がドライなようにも映ります。
●フィリピン・マニラ在住 / 澤田 公伸さん
Q1 日本でもっとも多い苗字は「佐藤さん」、2番目が鈴木さん、そして高橋さん、田中さんと続きますが、フィリピンでメジャーな苗字というと??
A1 やはり16世紀中葉から19世紀末にかけて333年間もスペインの植民地だったフィリピンですので、スペインルーツの苗字が圧倒的に多いです。苗字の最多トップ5としては、サントス、レイエス、クルス、バウティスタ、ガルシアなどがあげられます。
Q2 結婚後の夫婦の苗字ですが、フィリピンではどうなっていますか?
A2 フィリピンでは国内法で夫婦別姓が認められていますが、実際には、夫の苗字に代えたり、夫の苗字を付け加えたり、夫の苗字に変えながらも旧姓をミドルネームに残すケースが多いです。また、たとえば、フィリピン観光省の現大臣である、クリスティーナ・ガルシア=フラスコさんは、旧姓のガルシアに夫の姓であるフラスコを加えて、ガルシア=フラスコというまるで両方とも姓の一部になっているような表記で自分の苗字を表しています。これは法律上はフラスコが正式な苗字ですが、普段の公務などではガルシア=フラスコという表記を苗字のように使用している例です。特に自分の旧姓に愛着や権威を持つと感じている人がそのようにしています。
さらに、弁護士や医師、政治家などエリートで専門職についている女性などは 免許証や営業許可、資格証明書などの氏名表記で使っていた旧姓を結婚後もそのまま使用しているケースも多いようです。
Q3 では、お子さんの苗字はどうしているのでしょうか?
A3 新しく生まれた子どもの苗字としては父親の姓を名乗らせて、母親の姓をミドルネームとして付け加えるケースが最も一般的だと思います。ただし、父親の認知を受けていない場合には母親の姓を名乗ることになりますし、父親の認知を得られれば婚外子でも父親の姓を名乗ることができるようです。
Q4 澤田さんが苗字を通じて、フィリピンのお国柄を感じるのは、どんなところでしょうか??
A4 ミドルネームに自分の母親の苗字や、結婚後は旧姓である自分の父親の苗字などを使っているフィリピンの人々がいます。自分の父方だけでなく、母方などの出自に対する意識もとても強い人々だと思います。母系社会とも言われるフィリピンの特徴が苗字にもよく表されているようです。