きょうは「QUEST FOR PEACE」と題してお送りしています。この時間は海外とつながります。日本では、8月15日が「終戦の日」となっていて様々な追悼行事が行われますが、世界的に8月15日が終戦の日となっているわけではありません。たとえばアメリカでは、日本がポツダム宣言の降伏文書に調印した9月2日を「対日戦勝記念日」、通称「VJ Day」としています。そこで、この時間は、第二次世界大戦において、日本と同じ枢軸国として、連合国と戦った国の「終戦の日」について、現地の番組通信員の方にお話を伺います。

⚫︎ドイツ・ミュンヘン在住 / 町田 文さん
Q1 ドイツの終戦記念日は5月8日、 連合国ではヨーロッパ戦勝記念日(VEデー)となっていますが、ドイツではどういった日になるのでしょうか?
A1 1945年5月8日は、ドイツが無条件降伏し、ヨーロッパの第二次世界大戦の終結を指します。ナチスからの「解放の日」とも言えます。 そしてドイツでは「Tag der Befreiung 」(解放の日)と呼ばれています。旧東ドイツでは長年、祝日だった過去もありますが、その後は平日扱いされる一日でした。 国全体で祝日になっていないのは、その日を分割の始まり(ドイツは終戦後4カ国に分割統治されています)、もしくはナチスからの解放として見るのか、地域によって捉え方が異なった背景があります。
Q2 今年は終戦80年の節目ですが、5月8日、ドイツでは特別な催しなどが行われたのでしょうか?
A2 今年は特別にベルリンでのみ祝日になりました。また、ベルリンでは記念式典が行われ、シュタインマイヤー大統領が連邦議会で演説しました。ナチスと戦った米国、イギリス、フランス、旧ソビエトに感謝の意を示した一方、現代政治にも触れ、国際秩序を乱しているプーチン大統領とトランプ大統領を批判しました。また、ベルリンに限らず、地域や教会が主催する平和を主張するイベントが各地で行われました。
Q3 日本では戦没者への追悼、お亡くなりになった方々を悼むというニュアンスが主な感じですが、先ほどの「ナチスからの解放」というとそれとはかなり違うニュアンスですね。式典ではどんな思いが語られるのでしょうか?
A3 本来、戦争の目的は領土拡大にあると思いますが、ドイツの場合は領土だけでなく、ナチズム思想の拡大、ユダヤ人、社会的少数者の迫害が今でも国家の反省としてあります。5月8日に限らず、大統領は戦争に関する様々な施設や記念碑を訪れて反省と謝罪、平和の重要性の強調をしています。
Q4 最後に、ドイツでは平和に対する考え方が変わってきている、 といった潮流は感じますか?
A5 ドイツではウクライナ戦争で平和に対する考えが ガラッと変わったと思います。私自身、初めて戦争を身近に感じ、移住が脳裏をよぎった出来事でした。実はドイツには2011年まで徴兵制があり、私のようなアラフォー世代の男性までが軍事経験を持っていたりします。今、議会では来年から徴兵制を復活させる準備がされていて、今の若者たち、子供達が将来、国防に使われるリスクが高まっています。国民は残念ながら、そういう緊張感を感じています。
⚫︎イタリア・ローマ在住 / 村本 幸枝さん
Q1 イタリアの終戦は4月25日とのことですが、どういった日になっているのか、教えてください。
A1 厳密に言うと、4月25日は「終戦の日」というよりも、ナチスの占領やファシズム政権から解放が始まった日、つまり「終わりの始まり」という位置付けになります。ミラノやジェノバなどの北イタリアの都市が連合軍が到着する前にイタリアの活動家たちによって解放されたのが4月25日で、国はこの日を「イタリア解放記念日」と定め、祝日となりました。「解放記念日」は、ナチによる占領やファシズム政権の終わりを祝うとともに、 自由のために戦い犠牲となった反ファシズム活動家たちの勇気を忘れずに後世へ受け継いでいくという重要な意味も持ち合わせています。ちなみにその3日後の4月28日にムッソリーニが処刑されました。
Q2 イタリアでは毎年4月25日は、どのようなイベントが行われているのでしょうか?
A3 ローマでは憲兵隊の国家演奏とともにイタリアの大統領による戦没者記念碑への花輪の献花を伴う追悼式典が行われますが、他の都市でも地方自治体や地元政治家によるさまざまな追悼式が行われます。
Q3 市民のみなさんはどのように過ごす1日なのでしょうか?
A3 平和を願うプラカードや「ピース」と書かれたレインボーフラッグを手にした人々が「Bella Ciao」を歌いながらイタリアの街を練り歩きます。「Bella Ciao」はナチファシズム政権に抵抗して命を落としたパルチザンと呼ばれる活動家たちへ捧げられた歌ですが、自由や平和を願い、抑圧勢力への抵抗を象徴した歌でもあります。また、人気があるのは、イタリア空軍がイタリアの国旗色である緑・白・赤を空に描くアクロバット飛行です。毎年、多くの人がスマホを片手に その様子を動画で撮影し、SNSにアップしています。
Q5 今年は終戦80年の節目ということで、なにか特別な催しなどはありましたか?
A5 特別な催しというよりも、今、世界中で起こっている戦争に対する抗議やパレスチナのガザで起こっている悲惨な状況に対するデモ隊の訴えかけが目立ちました。
Q6 イタリアも(イタリアのみならずですが)、極右政党の台頭もあり、戦争に対する考え方の変化など感じることはありますか?
A6 実際のところ、不法滞在の外国人による犯罪が増えており、それによって一般市民の生活が脅かされているのは事実です。イタリアに限らず、ヨーロッパ全体が「自国ファースト」の考え方になっているように思います。
Q7 そのほか、イタリアの終戦についてお話ししたいことがあれば
A7 イタリアにはもう一つ、終戦に関わる6月2日の「イタリア共和国記念碑日」という大事な祝日があります。1945年4月25日のナチ・ファシズム政権からのイタリア解放に始まり、終戦翌年の1946年6月2日に行われた国民投票により王政が廃止、共和国建設が決定され、1948年に共和国憲法が制定されるまでの3つの段階を経て、今日のイタリアの国家統一と民主主義の基盤が確立したと言えます。