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さて、あす、3月8日は「エスカレーターの日」です。1914=大正3年のこの日、上野公園で開催を控えていた「東京大正博覧会」の会場に、日本初のエスカレーターが設置され、運転試験が行われたことにちなんで制定された記念日です。

さて、エスカレーターの乗り方といえば、関東では左側に乗って右を空ける、関西では右側に乗って左を空け、急ぐ人をゆずる慣習が続いてきました。

ただ、エスカレーターの上を歩くことはケガや事故の危険があることから、近年、駅などの公共施設では、「2列で乗って歩かずに立ち止まる」、「手すりにつかまる」ことを呼びかけています。

とはいえ・・・「片側を空けないと後ろから来る人とトラブルになりそう」とか、「急ぎたいから、エスカレーターは歩きたい」といった方も多いのか、実状はあまり変わっていませんよね?

そこで、この時間は、「世界のエスカレーター事情」と題して、2つの国の番組通信員の方に、お話を伺います。

⚫︎イギリス・ロンドン在住 / 内山 昇さん

Q1 エスカレーターの片側を空けて急ぐ人に譲る慣習ですが、ロンドンの地下鉄が発祥なんですって??

A1 最初にロンドン地下鉄に導入されたのは1911年で、その当時のエスカレーターは現在のような階段式のタイプでなく、床が平らの形状で、その構造上、降りる乗客が歩いて左に出る必要があったそうです。その後、現在のような階段式のエスカレーターが導入されてからも、この習慣が残り、歩いている人と、立って乗る人がぶつからないよう、右側に立って、左側をあけるようになったと言われています。

Q2 現在、日本の鉄道会社などは、エスカレーターでは歩かず、立って乗るようすすめていますが、イギリスの今のルールはどうなっているのでしょうか?

A2 急いで降りてつまづいたり、突然停止することもあるため、レール(手すり)を握ってくださいという注意書きはありますが、エスカレーターの見える部分に、"Stand on the right"(立つ人は右に)と書かれていて、「歩いてもいいですよ」と進めてはいないものの、公認しているように受け止められます。

Q3 片側空けず、2列で立つことを勧めたりはしていないのですか?

A3 実は、2015年にロンドン交通局がグリニッジ大学と共同で、年間約5,600万人が使用するロンドンの主要地下鉄駅(Holborn駅)で、  エスカレーターを歩かないよう呼びかけ、二人並び乗ってもらうトライアルをしました。実験結果は交通局の予想を超え、ラッシュアワー時に、左側をあける場合と比較して、1時間当たり約3,000人多い1万6千人の乗客を運ぶことできた上に、エスカレーター待ちの列を3割も削減できたそうです。しかしながら、この結果とは裏腹に、トライアル中、職場や学校に急ぐ人と、止まって動かない乗客との間でいざこざが数多く発生し、逆効果だという判断になり、エスカレーターは立って並んで乗るルールの導入は見送られ現在の今に至っています。100年にわたり染みついた習慣を変えるのは難しいということでしょうか。

Q 4 ロンドンの地下鉄には、かなり長いエスカレーターもあるそうですね?

A4 ロンドンの地下鉄で一番長いエスカレーターは、Angel駅の高低差27mで長さ61mです。角度は26度もあり、歩こうとしても、かなり体力がいるエスカレーターで、さすがにここまで長いと歩き始めても途中であきらめ、右に入り休む人が多いようです。また、最近では、エスカレーターの側面の壁に広告を流すパネルが設置されているところも多く、このようなところはそれを見ながら楽しむこともできるので立つ人も多いように見られます。しかし、逆に画像に見入ってしまい、降り口でつまずいたりするので、出口近くは広告がなくなるなど、そのあたりはうまく調整しているようです。もしかすると、このように逆発想で、エスカレーターを楽しめるエンターテインメント化してしまえば、歩く人もいなくなるかもしれません。

中国・北京在住のライター、斎藤 淳子さん

Q1 中国ではエスカレーターのルールはどうなっていますか?

A1 北京では右側に立ち、左側は急いで行く人に道を空ける方法が基本です。知人は「これはもう常識だし、理にかなっているし、必要だと思う」と言っていました。「急いでいる人もいるから、そういう人に空けておくのは良いと思う」と。こちらの専門用語ではこれを「左行右立」と言いますが、これがショッピングモールや地下鉄でも一般的です。

Q2 中国では、片側を空けずに立ち止まることを呼びかける動きはないのでしょうか?

A2 実は、よく調べたら政策では、「片側空ける方式をやめよう」、という方針が出ています。北京市の地下鉄は2018年から、上海の地下鉄でも2019年から、それ以外の広州市や南京市など他の大都市でも片方空ける方式をやめようという政策が出ています、その理由はいくつかあるのですが、特に一番の理由は片方だけに乗ることでエレベーターへの負荷がアンバランスになり結果として維持コストがかかる、という理由です。CCTV(中国中央テレビ)によると、エレベーター事故の95%はエレベーターの左右のバランスが取れていないことに起因していた、とのこと。でも、現実ではもう右側に立つのはかなり普及しています。つまり、このやめようキャンペーンはあまり功を奏さなかった、ということのようです。

Q3 斎藤さんの印象でけっこうですが、中国のエスカレーターの速度は日本と比べてどうですか?

A3 多分、東京と北京はだいたい同じじゃないでしょうか?中国の人が日本の病院は普通のエレベーターの半分のゆっくりの速度で、遅い!というのを動画で出していました。日本は優しい、細かいという驚きだったようです。

Q4 中国で、エスカレーターで死亡事故が起きたというニュースもよく聞きますが、こういった事故は減っているのでしょうか?

A4 衝撃的な死亡事故が2015年に湖北省の中小都市で起きました。子どもを連れたお母さんがエスカレーターを上り切って降りようとした時に床板が取れて、子どもはお母さんが外に押し出して救ったのですが、母親がそのまま機械に飲み込まれて死くなったたという悲惨な事件が起きました。原因はメンテナンスの際にはずしたネジの締め忘れと言われています。エスカレーターのストップボタンを押してあげれば助かったという教訓がその時、周知されました。何か起きたらとにかく緊急ボタンで押して止めるというのが大切とその時私も学びました。その事故以降、地下鉄のエスカレーターのところに安全員がついて見張っているところも増えました。