
3月1日は「労働組合法施行記念日」です。1946年=昭和21年のこの日、労働者の地位向上を図るための法律「労働組合法」が施行されたことにちなんで制定された記念日です。
毎年この時期になると、新年度が始まる4月に向けて、労働組合が経営側と、賃金の引き上げや 労働条件や職場の環境改善について話し合い、交渉する「春闘」がおこなわれますよね。
大企業を中心に労働組合が要求書を提出するのが2月、企業からの回答が3月ごろであるため「春闘」と呼ばれ、1950年代から行われている、日本独自の慣習なんだそうです。
さて、この「労働組合」、当然、諸外国にもあるわけですが、日本と、どう違うのでしょうか?この時間は、「世界の労働組合事情」と題して、2つの国の番組通信員の方にお話を伺います。
●ドイツ・ミュンヘン在住 / 町田 文さん
Q1 ドイツは自動車をはじめ、工業がさかんな国ですが、そうなると、やはり労働組合の存在感・影響力も強いのでしょうか?
A1 存在感は強いです。ドイツの労働組合はストライキや政治的発言もするため、その産業に直接関係ない人達にも彼らの活動は伝わります。例えば、ドイツでは日曜日に総選挙が行われ、前日まで熱い選挙活動が行われていました。そんな中、2月13日にミュンヘンでVerdiという「統一サービス産業労働組合」のデモに、車が突入する事件が起きました。2016年からドイツに暮らすアフガニスタン人による単独行動であり、亡くなったのはアルジェリア出身の女性とその子供です。この事件はすぐに移民の規制強化を求める、一部の党の選挙キャンペーンに利用されました。翌日、ミュンヘンのVerdi労働組合議長が日刊紙「南ドイツ新聞」に長いコメントを寄せ、バイエルン州首相などを強く批判しました。私はこのインタビューを読み、大物の政治家の行いを非難する、それができる立場にいるのが、労組なのだと感動しました。
Q2 ドイツでは企業ごとではなく、産業別の労働組合が多いんでしょうか?
A2 例えばIG Metallは金属産業に特化し、フォルクスヴァーゲン、BMW、Siemensなどが会員になっています。会員数は200万人を超え、ドイツでは最大級の労組に入ります。
Q3 昨年からフォルクスワーゲンと労働組合の交渉が続いていますが、工場閉鎖が見送りになったり、賃金引上げ率を当初の提案よりも上げるなど労組がかなり健闘しているようですが、国内ではどう報じられていますか?
A3 交渉には労働組合IG Metallとフォルクスワーゲンの労使委員会が参加しています。ドイツ国内の工場閉鎖は免れましたが、2030年までに3万5千人の人員削減を行うことが決定されたので、残念ながら「勝利」とは言えないです。
Q4日本では昔に比べ、ストライキがかなり減った印象がありますが、ドイツでは、ストライキもさかんに行われているのでしょうか?
A4 ストライキは定期的に行われています。庶民にも関わるのは例えばGDL、ドイツの鉄道運転士を代表する労組のストライキです。この場合、数日前からストライキ期間、場所、ダイヤがどう減るか報道され、私達庶民は臨機応変に対応する身となります。私は普段、会社務めをしているのですが、ある時は電車があまりにも減ってしまうため、「全員在宅ワークをしても良いですよ」と社長から指示をいただきました。
●アメリカ・ニューヨーク在住 / 中村英雄さん
Q1 アメリカの労働組合ですが、個々の企業の組合よりも産業・業界別の組合が強いですよね?
A1 はい。アメリカの労働組合の誕生は1886年。全国組織で全産業を網羅する「アメリカ労働総同盟(AFL)」の発足がきっかけと歴史の本には書いてあります。その後、1935年の世界恐慌下で、熟練工と非熟練工の間の格差を巡って内部対立が生まれその結果、産業別組合会議(CIO)が生まれた、という経緯があります。その時以来、アメリカでは産業別の労働組合が中心で、日本のような企業別組合の話はあまり聞きません。
Q2 アメリカの労働組合の組織率は年々下がっている、というデータもあるようですが、まだまだ組合の影響力は強いのでしょうか?
A2 アメリカにおける労働組合組織率は、1983年に20.1%であったのが、2020年には10.8%と減少しています。実は、第二次世界大戦直後は、労働運動が盛んでストライキや賃上げ闘争が頻発していました。就職したらほぼ強制的に労働組合に入らなければいけない会社とか、組合委員以外は雇用しない会社などもあって不公平性がすすんだため、「労働者の権利」を守りこれを規制する法案ができ、いつしか労働組合には否定的なイメージがつきはじめました。また、労働組合は、政党の支持母体になりやすく、組合が自動的に票田になっているような実態もあります。
Q3 ここ最近で言うと、2023年の俳優と脚本家の各組合のストライキが記憶に新しいですよね?まだ余波はあるのでしょうか?
A3 大変な事件でした。ハリウッドストの影響で、映画やテレビ番組の制作本数は激減し、当然興行収入もさがり、カリフォルニア州南部だけで45000人が失業し、65億ドルの損失を被ったそうです。まだ完全に回復しているとは言えません。そうこうしているうちに映画館の観客動員数は、どんどん下がっているし、制作面でもAIの導入で創造性の危機が心配されています。ただ、ストのおかげで俳優と脚本家たちはそれぞれ最低賃金の底上げを獲得したので、組合による闘争のメリットはあったのですが...
Q4 アメリカのエンタメ界って、役職ごとに細かく組合があって、複雑なんですよね??
A4 僕自身、フリーランスで映像の制作や放送に携わってきた人間で組合とは全く縁がないのですが、ニューヨークでのロケや取材の現場ではアメリカ人スタッフと協働することも多く、彼らの中にはフリーランスで組合に属している人も大勢います。ひとくちに映画や映像の仕事でも、上記ハリウッドのケースでもお分かりのように、俳優、照明、撮影、衣装、録音、など業種ごとに様々な組合があります。例えば、友人のフォーカス・プラー(セカンドカメラマン)「ジェイ」さんは「IA600」という名の撮影技術者の組合に29年も前から所属しています。組合員最大の利点は、健康保険が無料で加入できること。ただし、組合認定の仕事を半年で400時間以上こなすのが条件だそうです。組合費は年間1000ドル(15万円)。ちなみに撮影の仕事には組合員報酬(1000ドル/日)と非組合員報酬(750~800ドル/日)があって、大放送局や大手映画会社の仕事であれば、組合員指定で発注が来るそうですが、最近は非組合員仕事が急増して、組合の意味があまりなくなったと言います。とはいえ、ジェイさんは組合には多大な恩義を感じており、「組合があるからこそアメリカンエンターテインメントコンテンツの高品質が維持できるし、ひいては世界中のマーケットでアメリカ映画が売れるのだよ」と力説していました。