5月17日は「生命・きずなの日」です。臓器提供者=ドナーとその家族への社会的理解を深めるため、「日本ドナー家族クラブ」が2002年に制定しました。さて、この臓器提供、日本では2010年に「改正臓器移植法」が全面施行され、生前に書面で臓器を提供する意思を表示している場合に加え、本人の意思が不明な場合も、家族の承諾があれば臓器提供できるようになりました。
しかし、日本の「100万人あたりの臓器提供者数」は1名にも満たず、諸外国と比べ極めて低い数字で、ドナー不足が慢性的に続いています。これは、人々への啓蒙が進んでいないことに加え、臓器提供に対応した機関が少ないことなど、さまざまな要因があるようです。では、海外では、臓器提供、どんな状況なのでしょうか?この時間は、「世界のドナー事情」と題して、2つの国の番組通信員の方にお話を伺います。
100万人当たり15件の臓器提供オランダ・アイントホーフェン在住 / 山本 直子さんに伺います。
Q1 オランダでは2020年に、18歳以上の成人は「登録しない」意思を示さないと、臓器移植提供者として登録される法律が施行されたそうですね?これは、オランダのみなさん、どう受け止めたんでしょうか?
A1 賛否両論、かなり議論が巻き起こりました。まず賛成については、臓器提供を待機している患者さんや、サポート団体などは「素晴らしいブレイクスルーだ!」と喜びの声を上げました。ほかにポジティブな意見としては、「臓器提供について、強制的に考えるようになる」「市民の関心を促す」「臓器提供を自分で選択する人が増えれば、家族が難しい選択を迫られずに済む」というものが挙がっていました。
一方で、反対意見は「政府が市民に代わって意思を決定するのは恐ろしい」「人の身体への侵害だ」といったものがあり、中には、「腹を立ててドナーカードを破り捨てた」と、投稿する人もいました。
Q2 ドナー登録の手紙が届くようになったそうですが、どういったものなのでしょうか?
A2 イラスト入りで分かりやすく説明されたものです。ドナー登録は書類でもオンラインでもできるようになっていて、4つの選択肢から選べるようになっています。その選択肢とは、
- はい、ドナーになりたいです。
- いいえ、ドナーになりたくありません。
- 私の死後、パートナーや家族が決める。
- 私の死後に決定する人を1人任命します。
というものです。提供する臓器も心臓、すい臓、肝臓、血管、心臓弁、肺、骨組織・軟骨・腱、皮膚、腎臓、腸など、細かく指定できるようになっています。
Q3 この法律を機にドナー登録者は増えたのでしょうか??
A3 オランダの統計局によると、まだ法律が施行されていない2020年1月1日時点では、18歳以上の人口の49パーセントがドナー登録簿に自分の選択をしていましたが、2023年1月1日には、これが73パーセントに上昇しました。自ら選択をした人数は実数で言うと、1070万人になりますが、このうち、およそ45パーセントの人が臓器提供に同意を示していて、41パーセントが同意しませんでした。そして14パーセントが「近親者や指定の人に決定を委ねる」としています。ドナー登録簿に自分の選択を記入していない人、つまり自動的に「臓器提供に異議なし」として登録された人は330万人でした。
Q4なるほど、結果的には18歳以上の半数以上の方々がドナー登録したという計算になりますね。
ちなみに、登録の内容は、お医者さんはどうやって確認するのでしょう?本人が確認することも可能なのでしょうか?
A4 オンラインで管理されているドナー登録簿に医者がアクセスして確認します。オランダでは住民全員が登録するデジタルIDの「Digi-D」というのがあって、これで私たちも自分のデータにアクセスできます。私も今回、久しぶりに自分のドナー登録を確認したら、ちゃんと見ることができました。もし、気が変わったりすれば、登録した内容をいつでも変更することができます。
100万人当たり4646件の臓器提供、スペイン・バルセロナ在住 / 山本 美智子さんに伺います。
Q1 スペインでは、本人が生前、臓器提供に反対の意思を残さない限り、臓器提供をするものとみなす「OPTING OUT」という制度をとっていますが、反対の意思を示す方は少ないそうですね?
A1 2022年のデータによれば、臓器提供の拒否率はスペイン全体の平均では16%ということです。イタリアやイングランド、ドイツなどの臓器提供拒否率は平均40%ですから、それを踏まえれば、スペインでの拒否率は非常に低いと言えます。
Q2 先にも紹介しましたが、スペインは「100万人あたりの臓器提供者」がおよそ46人とダントツで多く、世界トップクラスでドナーが多い国なんだそうですね?
A2 「OPTING OUT」の制度は、1979年から取り入れられていて、スペインは32年前の1992年から世界トップクラスのドナー率記録を誇っています。中でもバルセロナにある「バイ・デ・ブロン大学病院」は、2023年に前年より36例多い399回もの臓器手術が行われ、スペインで最も多く臓器手術を行っている病院として定評があります。その病院の臓器提供と移植のコーディネーター、及び研究グループ長でもあるアルベルト・サンディウメンジェ医師はインタビューで、ドナーに関してスペインがリーダーであること、病院での成功の秘訣を問われて、「助け合いの精神がある協力的な国民、普遍的な性格を持つ社会保障制度、非常に効率的な特化した管理システム」の三つが柱にあると答えています。ここでいう社会保障制度は、スペインでは誰もが平等に社会保険が受けられるというシステムを指します。つまり、スペインでは臓器手術は、誰もが無償で受けられるのです。
Q3 そのインタビューで「協力的な国民」という言葉がありましたが、やはり、国民のみなさんへの啓蒙がしっかりしているという感じなのでしょうか?
A3 例えば、2019年から国立移植機構と手を取り、政府の保健省が定期的にキャンペーンを打っています。世界骨髄ドナーデーに合わせて、骨髄移植に特化したキャンペーンが行なうといった感じです。そういった活動は、自治州レベルでも行われています。また、よく目につくところでは、毎月、社会問題をテーマにし、月毎のキャンペーンを行なっている民放があるのですが、そういったテレビ番組を通して、移植をテーマにキャンペーンが打たれることもあります。前述のバイ・デ・ブロン病院が1000件の小児移植を行なったことを記念して、2歳や7歳で心臓移植を受け、今は元気に過ごしている子供達の物語を映像で伝え、小児移植の重要性を訴えるキャンペーンを行なったこともありました。また、病院から医師や移植コーディネーターを派遣し、中学、高校などを訪問し、理解を求めるための啓蒙活動が教育機関で行われることもあります。それを受けて、高校生が啓蒙活動用の映像を逆に作り、SNSで流すなどといった活動が取り上げられることもあります。結構、例をあげていくとキリがないですね。
Q4 ちなみに、スペインでは少数派になるとは思いますが、臓器提供をしない意思はどのように表明するのでしょうか?
A4 もし、過去に臓器提供をするためのドナーカードの登録をしていたにもかかわらず、考えが変わった場合は、アプリを通して登録を抹消する、国立移植機構のメールアドレスに抹消したい旨を送ることもできますが、通常は、身近な家族などにその意思を伝えておくだけで十分です。本人が亡くなった後に、家族を通してその意思が病院側に伝えられます。ドナーカードは、あくまでも善意の意思表示であり、公式書類の扱いにしないことで、そのハードルを下げているのです。