4と1と9、「しょくいく」の語呂合せで、栄養補助食品などを販売する会社が、ちょうど20年前の2004年に制定。さらに、毎月19日は、政府が制定した「食育の日」になっています。農林水産省によると、食育とは、様々な経験を通じて「食」に関する知識と「食」を選択する力を習得し、健全な食生活を実践することができる人間を育てるもの。とあります。海外ではどんな「食育」が行われているのでしょうか。この時間は、「世界の食育事情」と題して、2つの国の番組通信員の方にお話を伺います。

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●アメリカ・ロサンゼルス在住 / 手島 里華さん

Q1 食や健康に関して課題も多いアメリカ、「食育」も行われているんですよね?

A1 アメリカが抱える3大健康問題、『心臓病』『糖尿病』『ガン』。特に糖尿病患者が増えており、アメリカ政府は2050年までにアメリカ人の大人の3分の1が糖尿病になると発表しています。特にこういった病気と関連しているのが肥満です。過去10年間で、アメリカでは大人の肥満の割合が15%増の7040万人と非常に深刻な社会問題となっています。この状況を改善するため、政府は様々な改善策を打ち出しています。カリフォルニア州に注目してポイントを3つご紹介して行きます。

Q2 では、その3つのポイントについて教えてください。

A2 まずは『カロリー表示の義務づけ』です。食品や飲料品にカロリー表示を義務化する法律が2010年に成立して、2018年5月に施行されました。これにより、チェーンレストランやフードサービス業界の一部では、メニューにカロリーを表示することが義務付けられ、消費者は食事の選択をする際に、カロリー摂取量を考慮しやすくなりました。続いて『Farm to Table』という活動です。これは1970年代にカリフォルニア州にある、とあるレストランが始めた、地元の有機栽培の野菜を積極的に食べようという活動です。さらに日頃の生活にも取り入れるよう、週末に各地で開催されるファーマーズマーケットや、スーパーマーケットのオーガニック野菜の販売コーナーにフラッグを立てたりと、各地で啓蒙活動が行われています。さらにこの様な農家を政府が資金面でサポートする取り組みも実施されています。

Q3 3つめはなんでしょうか?

A3 『学校での教育プログラム』です。まずは『給食』ですが、地元産の新鮮な食材を使用して、野菜、果物、タンパク質、炭水化物など、全ての栄養素をバランスよく含む食事を提供する取り組みが行われています。そして食事から、栄養素の働きや健康的な食事について学んでもらおうと考えています。日本の学校給食を体験している私から見ると、ちょっと驚くようなメニューですが、例えば主食はピザ、ハンバーガー、サンドイッチ、チキンナゲットやパスタ。副菜はサラダ、フルーツ、野菜、チップス、フレンチフライ。飲み物は牛乳、フルーツジュース、水。そしてデザートがフルーツカップ、プリン、ジェロ(ゼリー)こういったものを組み合わせて提供されます。これはアメリカ農務省の栄養ガイドラインに基づいて提供されるのが一般的となっています。

Q4 だいぶジャンキーなメニューなような気もしますが・・・そのほかには、どんな取り組みがあるのでしょうか?

A4 学校教育の一環として『食育プログラム』も行われています。さきほどの『Farm to table』の活動を授業の中に取り入れて、子供たちが実際に農場を訪れて作物の収穫方法や調理法を学んだり、栄養素やフレッシュな野菜が体に与える影響などをレクチャーする授業も行われています。余談ですが、息子が通っていた公立小学校の2年生の担任が食育に熱心で、『スーパーで買い物する時は、必ず商品の後ろに書かれている栄養成分表示の"suger"の部分をよく見て、どれだけお砂糖が入っているか見て!たくさん入っているものは控えましょう』と指導されていました。アメリカの食品は"なんでも"と言っていいほどあらゆる食品に砂糖が含まれているので、これも肥満の原因に大きく関わっていると考えられます。

●パリ郊外でレストラン「ヴェルチュ」を営む柳瀬充さん

Q1 フランスといえば「美食の国」ですが、やはり食育も進んでいるのでしょうか?

A1 そうですね。こちらでは小さい時から食事のマナーや味覚の教育を受けるようです。

Q2 ちなみに、現状、フランスの食に関して、問題や課題はあるのでしょうか?

A2 日本も同じところがありますが、ファーストフードをよく食べる子供や偏食が多い子供は栄養分が不足しがちで、食に興味を持たない子供も一定数いるかと思います。

Q3 さきほどアメリカのレポートで肥満の話題がありましたが、フランスではどうなんでしょうか?

A3 公的研究機関などが昨年行った肥満調査の結果では、フランス国民の17%が肥満というデータが出たそうです。

Q4 フランスの学校で行われている食育に関する取り組みについて教えてください。

A4 フランスの学校では90年代から「味覚教育」が国家政策として行われており、学校と地域、企業などが連携した食育活動が行われてきています。具体的には、味覚を育てるために伝統の料理を給食で出したり、質の良い農産物を推奨したりして食の知識を増やすこと。そして味覚をはっきりと表現できない生徒に対し、味覚に関する正しい言葉遣いや表現力を養わせることです。こちらの教育では、芸術と文化は食に深く関係するという考え方で、味覚から感覚を刺激させることも重点に置いているようです。

Q5 日本の学校の中には校庭の畑で生徒が野菜などを育て、料理をしたりする学校もありますが、フランス(パリ)では?

A5 こちらの学校でも畑があるところが多く、人参やズッキーニ、ナス、トマトなどを育て、それを使った料理を食べて味を知ることがあるそうです。おうちでは食べなくても学校だと食べることもあるのでいい経験ですね。

Q6 フランスでは食育を推進する「味覚週間」というイベントがあるそうですね?

A6 はい。1990年から始まったイベントで、毎年10月の第3週に実施されています。かなり知名度が高く、フランス各地で様々なイベントが実施されています。飲食店や生産者、自治体の協力もあって、子供たちに食について広く知ってもらうことを目的にしています。例えば、人間の味覚に関するテーマで、甘味、塩味、酸味、苦味の4つの味覚をそれぞれの食材で試食し、味の違いを体験させ、加えてうま味の説明なども行っています。他には食べ物の香りを嗅いで当てるゲームなど、感覚を養うものが多いです。

Q7 ちなみにシェフでいらっしゃる柳瀬さんご自身は、食育について取り組まれていることはありますか?

A7 私自身では自身のレストランで普段家では使わないような食材、例えば、花のつぼみ部分を食べるのが特徴のアーティチョーク、ショウガのような見た目で、日本では「菊芋」と呼ばれるトピナンブール、伝統的なハーブで日本では「ウイキョウ」と呼ばれるフェンネルなどを食べやすくして子供のお客さんに出したりしています。