きょうは「アカデミー賞直前スペシャル」ということで、この時間もアカデミー賞をテーマにお届けします。

「第95回アカデミー賞」の注目部門にノミネートされている映画の中から、受賞が期待される2つの作品にフォーカスして、映画制作国の番組通信員の方にいろいろお話を伺います。

まずは、作品賞と国際長編映画賞と他7部門にノミネートされているNetflix映画「西部戦線異状なし」の製作国・ドイツです。回線をつなぐのは、日本とドイツを行き来していらっしゃいます、東京女子大学准教授で、ドイツ・ヨーロッパ近現代史がご専門の柳原 伸洋さんです。

20230310c01.jpgアカデミー賞9部門ノミネート!Netflix映画『西部戦線異状なし』独占配信中

Q1 「西部戦線異状なし」は第一次世界大戦末期に、ドイツ兵としてフランス北部の西部戦線に送られたエーリヒ・マリア・レマルクが自身の経験を基に綴った長編小説が原作の映画です。アカデミー賞で作品賞を獲った1930年版、そして1979年のテレビ映画、いずれもアメリカ製作の映画でした。今回は3度目の映画化にして、初めて当事国であるドイツの製作で映画化されました。今作について、ドイツのみなさんは、どう受け止めたのでしょうか?

A1 ドイツではNetflixの公開前に映画館で公開されました。多くのドイツの人びとは「ロシア・ウクライナ戦争」を想定・想起しながら観たのだと思います。ドイツは当然ながらウクライナを支援していますが、事実としてはウクライナでは男性の出国が許されずに戦時体制が敷かれています(ロシアの予備役徴兵も同様)。そこで奪われていく命について思い起こしたのだと思います。また、ドイツの中学校に当たる学年の学習素材としても使用されはじめました。基本的には、戦争は個々人の事情などを覆い隠し「国家レベル」「戦略レベル」の大きな語りが支配的になっていきます。この「大きな語り」に対抗する想像力を、本作は提供してくれると考えています。今の日本のウクライナ戦争報道も多くが、「大きな語り」に呑み込まれている面もあります。しかし同時に、2022年以降の報道では個人に焦点を当てたものも多く、そしてドイツでは大規模な反戦デモも起きています。

Q2 柳原先生は原作者のエーリヒ・マリア・レマルクの研究もされているとお聞きしましたが、今作には原作にはないシーンがあったり、1930年版とも描き方がかなり違うようですが、今作の描き方について、どう分析されていますか?

A2 精確には「第一次世界大戦の経験・記憶」の研究に従事しておりまして、そのなかでマリア・レマルクは重要な人物なのです。1930年版は、「ロマンとして描く」要素が強く、しかしそれが人びとの心を捉えました。そもそも「第一次世界大戦の美化というロマン化」が起きていた時期が1920年代後半でした。それに対して、「悲劇としてのロマン」をぶつけたもので、このインパクトは絶大だったのです。今作の2022年という現代は、第一次世界大戦や第二次世界大戦からかなりの時間が経っていることで、近代戦争の本質である「人の自由・権利・命が不条理に奪われていく様子」を想起させようとする意志が強く出ています。ロマン化するというよりかは、なるべく「戦場での日常」が続いていく様子を描こうとしています。

Q3 「西部戦線異状なし」は、今回のアカデミー賞で作品賞含め、9部門にノミネートされています。 ドイツのみなさんの受賞への期待はいかがでしょうか?

A3 新聞などでは受賞するかどうかについては、「クール」に捉えている感じです。これは他の作品のときも同じで、あまり「ドイツ作品」が受賞するかどうかでは騒がずに、おそらくは受賞した後で、その作品の是非について再度、議論が出てくるといった感じだと予測されます。これは2007年、時の外国語映画賞『善き人のためのソナタ』のときがそうでした。

Q4 冒頭にもお話が出ましたがロシアによるウクライナ侵攻など、世界情勢が不安定な現代にこの作品が世界に発信するメッセージ、また、与える影響について、 柳原先生はどう考えますか?

A4 本作が1930年版や1979年版の作品と異なる点に注目すれば、そのメッセージが鮮明になると考えます。1917~1918年という戦争の最末期をテーマにしています。そこでは塹壕線、膠着した戦争のなかで、両陣営の多くの兵士の命が奪われていくという様子が描かれています。また戦場となった地域の民間人も描かれている点がこれは、現在のウクライナ戦争の膠着状態を否応なく想起させるものです。戦争の実態は、「一般の、無名の、普通の人びと」が突如として身体の自由や生きる権利を奪われると言うこと。つまり大けがをしたり、死亡したりするということです。その不条理を鮮明に描き出している。また、以前の作戦は主人公が「兵士」となっていくプロセスを追いましたが、本作では最後まで「兵士」にはならずに、ただ一般のひとりの若者が戦争の狂気に呑み込まれていくさまを描いている点が重要です。

劇中歌「ナートゥ・ナートゥ」が「歌曲賞」にノミネートされた、映画「RRR」に注目します。回線をつなぐのは、もちろん、インド・ムンバイ / ハリー・チェンさんです。

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Q1 映画「RRR」、「歌曲賞」のノミネートはインド映画としては初めての快挙と話題となっていますが、インド国内での盛り上がりはいかがですか?

A1 話題になってます!盛り上がってます!2つの要素があると言えます。一つは「ナートゥ・ナートゥ」のダンスがインド国内の有名人が積極的に踊りまくっていること。財閥の代表、在インドの韓国大使館のスタッフの映像が首相官邸から世界に紹介されてます。もう一つは海外で話題になっていることが大きく国内で報道されてます。特にアメリカの劇場で激しく踊る人、パキスタンの結婚式で踊る俳優などが連日報道されてます。やはりインドの映画が日本など世界で評価されていることが盛り上がりのムードに貢献。先週も僕も「報道ステーション」に出演しましたが、インドは世界一の人口になりビッグな国のビッグなニュースは世界各地で様々な報道が増えている感じです。

Q2 世界各地で「ナートゥ・ナートゥ」が話題になっているのが、インド国内にも伝わっているんですね?

A2 特にインドの伝統的なコスチュームでは無く西洋の洋服が新鮮な感じとも言えるのでは?TIKTOKで大きく複数の動画がアップされ、ハリウッドのレポーターも取材を多くしてます。BBC, New York Timesでも報道。

Q3 今回、「RRR」が「歌曲賞」を受賞したら、インド映画の存在感はより強くなりそうですね!

A3 オスカーで初めてインドの曲がトップに輝くことは連日国内の報道番組でも話題に。今回は受賞かも、と。Golden Globe は世界のトップ歌手が歌う曲をを抜いてすでに受賞してるので期待は大きく、インド音楽映画へ世界を今後制覇するのでは?

ちなみに情報ですが、RRRは国際長編賞のインド代表としてはエントリーされませんでした。この番組でも紹介した「エンドロールの続き~Tha Last Film Show」がインド映画協会の選択でした。ラスト15作品には残ったようです。