2月10日は「観劇の日」なんだそうです。1911年、明治44年のきょう、日本初の洋風劇場である「帝国劇場」が完成したことにちなんで制定されたそうです。ミュージカルを中心に、歌舞伎や大衆演劇まで幅広いジャンルの演目が上演されている「帝国劇場」。

現在の建物は1966年竣工の二代目ですが、老朽化による建て替えのため、2025年をめどに一時休館する予定となっています。さて、この時間は「世界の観劇事情」と題して、世界的に有名な劇場街がある都市アメリカとイギリスにつないでお話を伺います。

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●アメリカ・ニューヨーク在住 / 中村英雄さん

Q1 やっぱり「ブロードウェイ」をおさえておかないと、ですよね。基本的なデータをおさらいしておきたいのですが、ブロードウェイ、オフ・ブロードウェイ、それぞれに劇場の数について教えていただけますか?

A1 客席が500以上の大型シアターをブロードウェイ劇場と呼びます。これが現在41あります。客席が500以下の小劇場をオフ・ブロードウェイ劇場と呼び、こちらがトータル85あります。

Q2 では、ブロードウェイの観劇事情について伺いたいのですが、日本のようにツアーの団体客がいたりするのでしょうか?

A2 はい。ブロードウェイの観客層の中でマジョリティは高齢者です。ニューヨーク近郊のコミュニティやリタイアメント施設から大勢のおじいちゃんおばあちゃんが大型バスで芝居を見にやって来ます。高校生や大学生の観劇ツアーも多いです。

Q3 チケットについて、日本と違うシステムなどありますか?

A3 予約や事前購入は日本とほぼ同じです。ただしミュージカルは一階席だと150ドル以上しますから、正札で買うとかなり高いです。そこで利用したいのが、当日券を開演の数時間前から割引して売り出すシステム「TKTS」。正価の80%から下手すると25%ぐらいの値段で買えます。マチネ公演は朝10時から、ソワレ公演は午後3から、タイムズスクエアの一角にある特別券売所で売っています。割引き率は、作品の人気度や正価によって随時変わります。※TKTSは2019年、日本に上陸

Q4 ブロードウェイの劇場、開演時間がちょっと遅いですよね?

A4 日本と違って多くの劇場の開演時間が20時と遅いです。ですから皆さん食事をしてからお芝居を観るのが慣例です。そのため、周辺のレストランには短時間ですぐ出てくる「シアター・メニュー」というのがあって人気です。それを頬張って、いざ劇場へ向かいます。劇場内にはバーもあるので、一杯引っ掛けて着席する、あるいは劇場によってはグラスを片手に鑑賞させてくれるところもあります。

Q4 では、観劇のスタイルについて特徴はありますか?

A4 ミュージカルは、パフォーマンスがいいと拍手喝采が起きます。有名な曲を美声で歌い上げたり、息を呑むようなダンスを見せてくれたりすると、劇の進行が止まるほどの喝采が起こります。いわゆる「ショーストッパー」ってやつですね。その辺の観客と演者のコミュニケーションは厚いです。どの劇場も作りが古くて客席と舞台の物理的距離が近いため、結構お客をいじるジョークもあったりして、シアター空間は一体化しています。そして、ミュージカルは「第二部」が勝負。一部ではきらびやかなオープニングや麗しいデュエットなどで魅了されるのですが、二部になると、大抵、エッジの聞いたダンスや、意外な場面展開、とんがった政治メッセージ、かなりえぐい悲劇的なシーンなどが畳かけてきて、ハラハラドキドキがあります。結局最後は感動の大団円なのですが、この第二部の急展開がうまくできてないと、いいミュージカルを見たなという印象が少ないです。

Q4 では最後に、ニューヨーク、ブロードウェイで今話題となっていることはありますか?

A4 連続1万3900公演以上という驚異的なロングラン記録を更新していた「オペラ座の怪人」(1988年1月初演)が、ついに、今年4月に幕を下ろすことになり、ニューヨーカーはみんなショックを受けています。

●イギリス・ロンドン在住 / 内山 昇さん

Q1つづいては「ウエスト・エンド」のお話を伺いましょう。ウエスト・エンドには、どのくらいの数の劇場があるのでしょう?

A1 有名なミュージカルや演劇を上演する劇場が39あります。これに加え、ロイヤルオペラ座、クラッシック音楽のNational Theatreなどもあり、観劇好きには最高の街だと思います。ちなみに、一番古いものは1663年に設立されたTheatre Royal, Durry Laneで、現在はディズニーの「Frozen(アナと雪の女王)」のミュージカルが上演されています。

Q2 チケットについて、日本と違う点はありますか?

A2 新作など人気の作品が取りずらいのは日本と変わらないと思います。値段的には上段の席で40ポンド(約6,000円)~120ポンド(約2万円)位です。学生さんや観劇好きに人気なのは、さきほどもお話に出ていたTKTSで、当日、売れ残った席を直前にディスカウント価格でゲットできるチケットです。もちろん、その日の状況によりますが、20ポンドくらいで人気作品が見れることがあります。

Q3 ウエスト・エンドならではの観劇スタイルはありますか?

A3 WestEndならではというよりも、どちらかというと演目によるかと思います。映画「Mamma Mia!」の劇場版のように、英語が多少分からなくても、聞き馴染みがある歌で構成されたミュージカルのように席で踊って歌う参加型の観劇スタイルが増えてきているように思います。また、昼に上演されるマチネでは、課外学習で訪れている生徒を多く見かけますし、夜はpre-theatre mealで食事・お酒を飲んでから劇場に来る方が多いので、何となくですがロビーは酒臭いと感じることもあり、昼と夜では客層が若干違うと思います。

Q4 いま、ウエスト・エンドで話題の作品は?

A4 レミゼラブル、マンマ・ミーア等、不動の人気作品以外では、2008年のリーマンショックで世界経済に大打撃を与えたリーマンブラザーズを創業一家三代にわたり描いた「リーマン・トリロジー(THE LEHMAN TRILOGY)」の再演が、1月から始まりレビューもいいようです。そのほか、ミュージカルの巨匠・Andrew Lloyd Webberの作品「Aspects of Love」が今年5月、34年ぶりにWestEndの劇場に戻ってくることが発表され話題となっています。