
アニメ「鬼滅の刃」、「刀剣乱舞」のヒットを受け、ここ数年、「日本刀」の人気が高まっています。これまでのターゲットとは全く異なる若い女性や外国人が、高額な日本刀を購入するケースが増えているそうです。そんな需要が拡大している一方で、供給する側の「刀匠」・・・日本刀を作る職人が激減しているんだそうです。(「全日本刀匠会」に登録する刀匠はこの30年で3分の2以下に)職人の高齢化、後継者不足がおもな原因ですが、その背景には完全無給での5年以上の修行が必要といった、厳しいルールなどもあり、日本の伝統文化を、どう次の世代に引き継いでいくがが、大きな課題となっています。
ところで、海外では職人を取り巻く状況、どうなんでしょうか?この時間は2つの国と回線をつなぎ、ご当地の「職人事情」を伺います。
●ドイツ・ベルリン在住 ライターやコーディーネーターとしてご活躍の河内 秀子さん
Q1 ドイツの職人というと、やはり「マイスター」ですよね?
A1 そうですね。日本の職人と近く、手工業の分野では技術を伝えていくために、マイスター試験を受けて資格を取得しないと独立して店を構えることができないという職種がドイツにはいくつか存在します。規制や緩和などを経て、現在、53種の職種が、独立のために資格が必要となっています。手工業マイスターでマイスター資格が必要となるのは例えば、製菓やパン、ハム・ソーセージの食品加工などです。先ほどお話に出た日本で言ういわゆる刀鍛冶は切断工具整備士という資格になりマイスターの資格は必要ありません。
Q2 マイスターになるための修行の厳しさについて教えてください。
A2 まず、義務教育を終えたあと「アツビ、アウスツービルデンデ」という見習いになり、学校に通いながら職場で職業訓練を開始します。職業訓練生の時は給料がとても低く、ベルリンでは2021年の平均月給が882ユーロ(12万円くらい)。業種により、パン屋が744ユーロ(10万円くらい)、美容師が650ユーロ(9万弱くらい)と最も低くなります。数年経つと大抵の人は「ゲゼレ(職人)」という国家資格を取得します。その後、独立したい、キャリアアップを考える人などは「マイスター」の資格を取得するためにさらに試験を受けることになります。職種にもよりますが、例えばパン職人さんのお話などを伺うと、仕事をしながらマイスターの学校で何年も準備コースを受講し、技術演習と理論の試験に備える必要があり、体力的・経済的にも負担が多いようです。職場によっては支援があるところもあります。
Q3 ドイツでは、職人の技術の継承はスムーズに行われている印象でしょうか?
A3 ドイツでは、いま職人や専門職につく人は激減しています。仕事はあるのに人手不足、見習いは来ないし、職種によってはついに刑務所に求職に行ったという話もあるくらいです。ちょうど先週、ベルリンのニュースで、職業訓練を受ける見習いの減少についてのニュースがありました。
市内の有名な精肉マイスターがインタビューに答え「このまま行けば、あと10年後にこの業界の光は消える。ここ8年でたった6人の応募しかなかった」と嘆いていました。ドイツの食文化、というと日本の方がイメージするソーセージですが、実はこれが作れる精肉マイスターへの職業訓練はいまもっとも厳しい分野。2021年には、職業訓練生のポストの6割以上が空席のまま。
Q4 なぜ、職人を目指す人が減っているのでしょうか?
A4 さきほどの精肉マイスターによると、「そもそも職業のイメージがあまり良くない。学校で落ちこぼれて大学に行けない人が、早起きして肉屋で働くというイメージがありますから」3と語っていました。
Q5 ドイツの職人の世界、光はないのでしょうか?
A5 パン職人などでは、大学を卒業して全く別の仕事をしていた人がパン作りに情熱を見出して店を構え、新しい働き方を提案するなどの動きもあります。
●韓国・ソウル / ヤン・ジョンミさん
Q1 韓国で「職人」というと、どんな職業・職種がイメージできますか?
A1 韓国には無形文化財といって韓国式伝統技術者として生きている文化財の方がいます。無形文化財に選定されるのは(歌や芸などもありますが)、韓国伝統木造建築物を建てる職人、伝統革靴を作る職人、金属工芸品を扱う職人など主要技術職人が多いです。韓国政府が1986年から名匠制度を導入し、特定産業の基盤固めに貢献した技術者を励ましてノウハウを継承するために努力しています。
Q2 韓国で職人になるための修行って、やはり厳しいのでしょうか?
A2 たとえば、真鍮の器といえるバンチャ(熱を加えて叩いて作る食器類や伝統楽器など)職人の場合、1300度の火炎の中で作業をしています。厳しい環境の中で何十年も作業を重ねることは大変なわけですが、いくら政府の支援があるとはいえ、収入が多いわけではないので若い人たちは苦労してまで継承しようという傾向があまりないです。現在まで養成された名匠が500人前後に過ぎないほど過程が難しいといわれています。
Q3 韓国でも職人の技術の継承が難しいんですね?
A3 韓国人は昔から手先が器用な民族と呼ばれてきました。しかし、韓国社会や企業現場で技術職人に対して尊敬されたり、経済的に豊かであるわけでもないです。名誉があるとはいえ、教育や広報も不足しており、まだまだ韓国は学歴中心の社会であるため、認識を変える必要があります。もちろん、経済的にも特別なメリットがないので、もう少し積極的な政府の支援金を求める声も高いです。
Q4 韓国では老舗や職人をリスペクトする風潮が薄いのでしょうか?
A4 韓国は経済成長が急速に進んだだけに、古いものより新しくて開発されたものをより好きで重要視する雰囲気がありました。最近になってようやく昔のことを大切にしようという認識が広がってはいるものの、常に早い変化を追求し新しいことを違和感なく受け入れる韓国の特性と都市開発が呼び起こした不動産価格の暴騰などで、古い老舗や努力した分の効果や利益が生じない食べ物や技術など職人の秘法にはそっぽを向かれている実情です。