4月1日、「高年齢者雇用安定法」が施行されました。これは、すでに義務化されている65歳までの就業機会の確保に加え、70歳まで働けるよう、企業に努力義務を課すという法案で、これにより日本は「70歳定年社会」に向けて動き始めたということになります。そこで、今朝は世界の「定年事情」をチェックします。他の国の定年はどうなっているのか?そもそも「定年」自体あるのか?2つの国、2つの街に回線をつないで伺います。

●ドイツ南部・ミュンヘン シッター由香さん

Q1 まずは、現在のドイツの新型コロナの状況について教えてください。

メモ:累計感染者294万0,279人 死者:7万7,755人

A1 1日あたりの感染者数は3万人を超え、そのうち変異株が占める割合は8割に上がっています。ここへ来てまた厳しいロックダウンとなり、保育施設は緊急保育以外は閉鎖、イースター休暇中から夜間外出禁止令が発令され、ワクチンの成果が出るまで封鎖を強化する方向のようです。

Q2 では、今日のテーマ「定年」について伺います。ドイツの定年制度について教えてください。

A2 定年年齢はもともと65歳からでしたが、2012年から段階的に開始年齢が引き上げられるようになり、最終的には2029年までに67歳に引き上げることが決まっています。生まれ年が1年遅くなると1ヶ月ずつ支給開始が遅くなるという仕組みです。つまり1964年以降に生まれた人の定年年齢は67歳になります。1889年に初めて「定年」という概念を確立したのはドイツ帝国初代首相のビスマルク。これが現在日本でも採用されている社会保険制度の始まりだと言われています。

Q3 定年年齢の引き上げは、やはり高齢化が背景にあるということでしょうか?

A3 ドイツの老人比率はヨーロッパの中でも特に高く2050年には人口の3分の1になるとも言われ、少子高齢化がこれからもどんどん進んでいきます。現在でも福祉に関する税金がとても高い国ですが、若者世代の負担がさらに増える傾向が示唆されています。ドイツの老齢年金は「公的年金保険」、個人的に加入して支払う「企業年金」「個人年金」から成り立ち、これらが定年の年齢に達すると共に支払われます。少子高齢化が進むドイツでは老後は公的年金だけでは不十分とされており、安定した生活が送れるように政府は企業年金や個人年金へのプラスアルファの加入を推奨しています。これらは一定の条件で年金保険料が所得控除となるメリットもあります。ドイツの年金制度は公的年金保険を基本として、企業年金と個人年金で補完する形になります。

Q4 ドイツのリタイア後のみなさんは、どのような生活を送られているのでしょう?

A4 定年後悠々自適な生活を送れるのは限られた人のみ。今の60代はまだまだ若く、定年を迎えても形を変えて働き続けることは当たり前の時代です。高齢者の貧困化が懸念される中、定年後は低賃金450€(約58000円)までのミニジョブと呼ばれる雇用形態で働く人が多くいます。課税率が低いこともあり65歳以上の高齢者の間で人気があり、この世代がミニジョブ就業者の約12%を占めています。意識的にスポーツをしたり散歩をしたり、オンラインでヨガを始めるなど、寿命が伸びた分、暮らしていけるだけの資金と健康な体を維持することが大事な課題となっているようです。

●アメリカ・ニューヨーク / 中村 英雄さん

Q1 そちらではワクチン接種がだいぶ進んでいるようですね?

メモ:累計感染者192万5,080人 死者5万0,843人 (NY州の数字)

A1 昨年12月から始まったワクチン接種は、既往症のある方、高齢者、医療関係者やエッセンシャルワーカーから、最近では急速に一般人に浸透。昨日から16歳以上の全ての住民へのワクチン接種が可能となりました。かく言う僕自身、今週の月曜日に二度目の注射を終えて、一応、接種完了です。妻も同じく完了。23歳の娘は来たる15日に1回目の接種です。副作用は、僕も妻自身は腕の痛さや多少の倦怠感はあるものの、さほどきつくなかったです。ワクチン接種の手続きもアプリやシステムが円滑に動くようになり、予約も問題なく、待ち時間ゼロ。実にスムーズでした。全体的にワクチン接種しゃ進んでいる実感はあります。学校の対面授業が始まりましたし、気候が良くなってきたため、外出する人の数が増えた感も。

Q2 今日のテーマ「定年」ですが、アメリカには、基本的には定年はないそうですね?

A2 ないですね。雇用に関する法律で年齢や性別、人種で差別をしていけない規則になっていますから、一定年齢に達したことを理由に、退職を促す習慣はありません。そもそも一斉就職、年功序列、といった日本式の企業習慣がないため、定年は存在しないのです。

Q3 となると、みなさんリタイヤされるタイミングはそれぞれなんですか?(公的年金との兼ね合いは?)

A3 はい、定年はありませんが「リタイヤ」いわゆる引退はありますね。これは被雇用者自らが提言するのが習わしです。そのタイミングはだいたい年金支給年齢に準じていると思います。現在、ソーシャルセキュリティ(公的年金)の支給開始は67歳です。早期給付を希望する人は62歳からもらえますが、一年早めるごとに8%の減額となるので、62歳給付を申請すると、かなり目減りします。一方、70歳まで支給開始を遅らせると、逆に、支給額は増える仕組みです。よって、おおよそ67歳ぐらいがリタイアのポイントではないでしょうか?

Q4 ニューヨーカーのリタイア後はどんな生活スタイルなのでしょう?

A4 アメリカ全体で見ると、現役引退後は「リタイアメント・コミュニティ」と言われる高齢者居住地に移り住むライフスタイルが少なくありません。現役を退くとともに、子育てした大きめの家を売却しコツコツと積み上げた資産を利用し、地方州(南部や南西部の暖かい州が多いです)に、リーズナブルで小ぶりの夫婦だけですめる家を購入するといった形で、今までの生活様式を縮小化、一変させるわけです。多くのリタイアメントコミュニティには、医療施設やゴルフ場、スポーツ施設などが併設されていますから、まさに、仕事から解放されて余生を、安心してゆっくりと過ごす、と言うわけですね。

Q5 ニューヨーカーと言っても、そういう方ばかりではありませんよね?

A5 ビジネスや公務員仕事を長年続けて、そこそこの安定した給料をもらっていた人たちの選択肢であって、800万人のニューヨーカーがみんなこれをできるわけではありません。中には「リタイアしても(ジジババだらけの)リタイアメントコミュニティなんか死んでもゆくもんか!」と豪語する御仁も少なくありません。ニューヨークは幸い、高齢者でもできる仕事がたくさんあるので、70代の半ばぐらいまで元気で働く人も珍しくないです。ただし、同じ仕事を年取ってもずっと続けるわけではなく、みなさんご自分の経験を生かして、どんどん職種は変えて行きますね。そんな意味からも、医師、看護師、教員、計理士、税理士、弁護士など有資格の専門技能を早いうちから身につけておこう、と言う備え意識は高いです。