今回は、路線バスに野菜をのせて街の中心部の消費者のもとへと運ぶプロジェクト。兵庫県神戸市でおこなわれている『KOBEベジバス』のHidden Story。

このプロジェクトを主導するのは、神戸市の中で農業が盛んな西区で 有機農業とカフェを営む【C-farm】の代表クリスさん(稲垣将幸さん)と、街の中心部で【そらばたけ】という名前のもと、都市型菜園事業を展開する倉内敏章さん。
ちなみに、クリスさんは以前、プロ野球の独立リーグでプレーしていた、という経歴の持ち主です。まずは、クリスさんが農業を始めた理由を教えていただきました。

「クリス:2016年の秋ですかね、稲刈りを経験する機会がありまして。そこで農業の現状を初めて知ったんです。僕自体は決して農家出身とかではなくて、いっさい農業っていうものに触れてこなかったんですけど、稲刈りを体験した時に楽しいというのがひとつだったんですけど、実際にその経営状況っていうのをお伺いした時に、やはり赤字である、後継者もいない、畑もどんどん空いているというような現状を知ってですね。そこでちょっと農業に関心を持ちまして。その体験した当時は定年後の仕事っていう感覚だったんですけど、引退後に神戸へ帰ってきた時に30代、40代っていう農家さんが神戸にはたくさんいらっしゃって、30代でもやれる仕事なんだなっていうのを感じて、体の大きさとパワーを活かせる仕事として農業が自分自身を活かせるんじゃないかなと思って農業界に参入しました。」
【C-farm】カフェメニュー
そんなクリスさんと、都市型菜園事業をおこなう倉内敏章さん。ふたりが出会ったのは、神戸市による創業支援セミナー[神戸農村スタートアッププログラム]に参加したときのことでした。
「倉内:彼がですね、その最終プレゼンの時に、農業する人を増やしたいという思いがあって。未来のある子供たちにとって農業が憧れの職業になってほしいとか、そのためには収穫体験じゃなくて、食べるとこまでワンセットにする必要がありますとか、熱く語ってたのを聞いてですね。僕の考えている〈食べるを作る〉というヴィジョンと近かったので、懇親会の時に声をかけてチームアップしました。」
思いを同じくする、クリスさんと倉内さん。様々なプロジェクトを一緒におこなう中、『KOBEベジバス』の企画が生まれます。これは、兵庫県内を中心に路線バスを運行する〔神姫バス〕とともに実施するもので、クリスさんが発案しました。

「クリス:ベジバスの始まりとしましては、神姫バスさんが《貨客混載》というものを他の市町村でも実施されてまして。その中で、やはり継続していくのが難しいというお話をお伺いして、野菜を高齢化してる地域に売りに行ってるんです、ただ、持っていっても売れるか売れないかわからないので、継続していくのが難しいんですというお話をお伺いしたので、『だったら定期購入で中央区のお客さんに運びましょうよ』というのをお伝えしたらいいですねっていうので、とんとん拍子で進んでいきました。」
『KOBEベジバス』は、去年の実証実験を経て、今年5月から本格始動。神戸市西区でクリスさんが野菜を路線バスにのせ、それを中央区のバス停で倉内さんがおろす、という仕組み。そして、その野菜はどうやって消費者の手に渡るのかというと...
「倉内:僕が配達する先はピックアップステーションと呼ばれる場所になるんですけど、保育園であるとか子育て支援施設といった子どもが集まりやすい場所にピックアップステーションの協力をしていただいて、利用者さんは子供を預けている場所に子供を迎えに行ったついでにお野菜を持って帰るというような流れでお野菜を受け取っています。
料金は完全予約制なので事前に入金していただいていますので、これまでの貨客混載だと野菜が売れ残ったらどうしようとか、売上金の管理どうしようという悩みがあったと思うんですけど、べジバスに関しては完全予約制のシステムにしてるのでお金の受け取りもないですし、野菜が売れ残ることもなくて届けるだけの仕組みなので非常にスムーズに運行できています。」
この『神戸ベジバス』のメリット。さらに、こんなこともあるそうです。
「クリス:生産側としましては、もうすでに売れるっていうことが決まってますので、残るということがないので栽培しやすいですし。さらに前払い制にしてまして、やはり農業は植えてから収穫できるまで・お金に変わるまでって長いものでは半年かかるものがあります。なので先に料金をいただけることで、種であったり肥料代ということで、経営がすごく安定する、というメリットがあります。
倉内:消費者側はですね、何より神戸産の新鮮な朝採れ野菜がお昼に受け取れるというメリットがあります。また、地産地消で環境にも優しい取り組みに気軽に関われるというメリット。あと3つ目としては、これは消費者の方から聞いた声なんですけど、珍しいお野菜との出会いが楽しめるという感想がありました。
クリス:最近で言いますと、黄色いズッキーニとか白いオクラですね。あえてベジバス用にスーパーでは売られてない野菜を2、3種類作るようにはしてます。」
『神戸ベジバス』の野菜は、10品目の野菜が入って、2500円。これを5回分の定期購入から参加可能という仕組みなんだそうです。いろいろお話をうかがってきましたが、最後に、『神戸ベジバス』の今後のヴィジョン、そして、農業の未来について思うこと。クリスさんにうかがいました。

「クリス:僕はこのペースで徐々に、毎月、今1組から3組ぐらいのペースで増えてるんですけど、これぐらいのペースでどんどん増えていくと、利用者さんが結構C-farmとってのファンになってくるかなと思うんです。
やはりこの人から買いたいというような、よく言われる顔の見える野菜に繋がってきますので、このペースで徐々に増えていって、最終的には30名ぐらいの方に購入していただければ農家として経営としては安定もしていきますし、その30名の中から1人でも農家を目指したいという人ができたらいいなと思ってます。
皆さんがニュースで見られるよりも、さらに農業界ってのは結構深刻な問題が多くてですね。もうかなり高齢化は進んでまして、どんな集まりに行っても、僕のもうおじいちゃんおばあちゃん世代ですね、もう70代、80代っていう方が9割を占めてます。
本当ギリギリのところで、今本当に暑いですし、もう作業できるのも早朝と夕方だけっていうので、結構深刻な問題ではあると思います。なので、やはり若い人たちが入ってきてくれるような農業界になってほしいなと思ってます。」
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