今回は、前回に引き続きサッカー、イングランド プレミアリーグの試合の中継で解説を担当されています。ベン・メイブリーさんのHidden Story。

サッカージャーナリスト、今は亡き 賀川浩さんとの出会いをきっかけに、日本でサッカーを伝える仕事を始めたベンさん。その後、スポーツ専門チャンネル【J SPORTS】の『Foot!』というテレビ番組に出演されるようになりますが、このきっかけは どんなことだったのでしょうか?
「goal.comというwebサイトで、Jリーグの簡単な戦術分析というようなコラムを書かせてもらったのがきっかけで、たまたまそれをJ SPORTSの田口賢司さんというプロデューサーが読んでくれたみたいですね。で、ちょうど、『Foot!』を月~金、平日毎日展開する番組に拡大する企画の中で、日本語でフットボール・サッカーが語れるイングランド人をちょうど欲しいと思ってくれてたみたいです。で、たまたまそのコラムのおかげで、私の存在を知ってくれて。田口さんは、最近もしかして少なくなってきたのかもしれませんけども、ちょっと前の時代の典型的な、すごくクリエイティブ思考のプロデューサーで、その場の思いつきみたいな感じで私と会う機会を作ってくれました。要するに、その番組のシーズン終了パーティー・打ち上げに呼んでくれたんです。私はそれですごく興奮して、緊張もして。初めて日本のテレビ局、しかもスポーツ専門チャンネルJ SPORTSと出会うチャンスになるので、いつか1つでも、1回でも仕事させてもらえるようにアピールしとかないと、というような緊張を持っていたのですけども、そのプロデューサーの田口さんが会場の外で待ってくれていて。"中に入ってからは一緒に飲みたいから大事な話に先にしとくんだけど、来シーズン番組に出てほしい、いい?"みたいな軽い感じで誘ってくれたんです。
2012年から、ベンさんは、【J SPORTS】の番組『Foot!』に出演。2023年まで実に11年に渡り、[現地目線]で様々なトピックを伝えてくれました。そんな中、イングランド、プレミアリーグの試合中継で解説を務められるようになるのですが、これはどんな経緯で実現したのでしょうか?
「『Foot!』の2年目が終わったタイミングで、それまでやっていた完全に翻訳の仕事をやめて、J SPORTSの力も借りて就労ビザの条件も変えられたのでフリーランスになりました。最初はサッカーだけで食べていけないだろうなと思ったので、フリーランスの翻訳も入れるつもりではありましたけれど、フリーになったことを知った菅原慎吾さんという、当時J SPORTS、今はU-NEXT のプレミアリーグのプロデューサーになっている方から電話がかかってきて、"解説をお願いしたいと思ってるんだけど、どう?"というお誘いをいただきました。実は、言ってみるもんだと思って、『Foot!』の控え室の時から、最終的に試合中継のコメンテーターになりたいという思いを全く隠していませんでした。言わなければ叶わないと思って。すぐはできないし、いつか分からないんだけど、とにかくいつかやりたい、という思いは共有していました。それがもう思いのほか早く、『Foot!』を2年やったタイミングで叶いました。」
サッカーの試合中継のコメンテイター、これは、ベンさんが子どもの頃に思い描いた《夢》でした。サッカーをプレーする人ではなく、伝える人になりたい、というその夢が、日本で叶いました。
「叶いました。ただ、子どもの時というか、大人になっても、さすがに日本語という第2言語でそれができるとは思っていませんでした。最初は苦労する点も多かったのですが、試合中継も『Foot!』と同じように、自分が選手目線・指導者目線ではなくて、現地目線という、自分しかできない差別化を目指して、視聴者の皆様の楽しみにどう貢献するかという目線を持って、とにかく現地の情報・現地の感覚をたっぷりと伝えたい、ということで。私も情報収集などして、日本に住みながらイギリスに住んでいるような環境を作って、イギリスの情報・イギリスの話題を毎日たっぷりとリサーチしながら生活をしていて。で、その目線から中継でも番組でもお届けするということに力を入れました。」
ベンさんのプレミアリーグの試合解説、お好きな方も多いと思います。そして、プレミアリーグといえば、ベンさんの本〈プレミアリーグ全史〉。現在、全3巻のうち、2巻までが発売中です。
「これまでのプレミアリーグの歴代のライバル関係、それぞれを紹介しながら、色んな文化的背景・歴史的背景、そして政治的・社会的・経済的背景も実はこのライバル関係にも絡んでくるので。フットボールのピッチ上のもうバチバチ激しいライバル関係が入口で、実際にこういう背景、こういう歴史もあった、で、現地からしたらこういう背景があったのでみんなこういう思いになった、このように熱くなりました、これが理由で喜びました、これが理由で問題になりました、そのような目線で結構いろいろと紹介できるな、という話になりました。で、気がついたら、書いてみたら1冊でまとまらなくて。書きたい内容がたくさんありすぎて、最終的に3部作になりましたけれども。」
イングランドのプレミアリーグ、新しいシーズンがいよいよ来週開幕します。人気と実力を兼ね備え、世界から注目されるプレミアリーグ。その成功の秘訣、ベンさんは どんなところにあったと考えているのでしょうか?
「イングランドのプレミアリーグがここ33年で成功したのは、下のクラブまで多くのお金を比較的に均等に分配する仕組みを最初から作ったのが一つの理由だったと思います。完全に平等ではなく、成績順で多少のお金が増えるのですけれども、下のクラブまで大切にすることによって全体の競争レベルが上がるんですね。全体の競争レベルが崩れることなく、元からイングランドフットボールの魅力だった予測不可能性、下のクラブでも上のクラブに勝てる。今日勝つかもしれない。今日ビッグクラブが勝つだろうけど、いや、もしかしてワンチャンあるかもしれない。スモールクラブにとっては、そのようなワクワク・緊張感を持って、ファンも中立の視聴者も楽しめる、その競争のバランスを比較的、他のヨーロッパの大きなリーグと比べて、その競争バランスを保てたことが成長と成功の秘訣だったかなと思います。」
そんなプレミアリーグの魅力について、ベンさんはどう考えているのか、最後に改めてうかがいました。
「プレミアリーグよりも前にあったイングランドのトップリーグが1888年からスタートして世界で最古なんですけども、世界最古というのと同時に最新のフットボールも楽しめる。で、最もグローバル化していて、世界的な選手、日本人選手もたくさん活躍されていますし、外国人監督も非常に多くて、海外で有名になった監督がイングランドにやってきてくれて、イングランドの戦術とかプレーのレベルを上げてくれて、すごくグローバル化している中でもイングランドらしさを失っていないというグローバル・ローカルのギャップ、そのバランスもすごく魅力的なんじゃないかなと思います。」
