今回は、サッカー、イングランド プレミアリーグの試合の中継で解説を担当されています、ベン・メイブリーさんのHidden Story。

まずは、イギリスのサマセット州トーントン生まれのベンさんが日本に興味を持つようになった、最初のきっかけについて教えていただきました。
「私が日本に興味を持ったのはですね、小学生の頃でした。きっかけは何だったかというと、お父さんがケンウッドとパイオニアという日本のオーディオメーカーで勤めていたのがきっかけでしたね。それぞれの会社のイギリス現地法人で営業の仕事をお父さんがしていたんですけども、その関係で年に2、3回ぐらいお父さんが出張で日本に来てたんですよ。で、私にハガキを送ってくれて。日本の写真を見せてくれたのと、あと、お父さんが持って帰ってきてくれたお土産の中に電子辞書とかミニディスクとか、そのようなものもあったんですよ。日本ってめちゃくちゃかっこいいと思ったし、日本人の職場の仲間もめっちゃ良い人だったし。それから、言葉が分からなかったんですけども、こんな綺麗な文字で言葉を書くんだっていうことにすごく惹かれましたね。」
では、〔サッカーについて伝える仕事〕に興味を持ったのはどんなことがきっかけだったのでしょうか?
「別のスポーツの放送がきっかけとなりました。F1の中継で、当時のBBCのF1実況者のマリー・ウォーカーという方がいたんですけども、【やれる人がやる、やれない人が話す】というのをモットーとして、[自分も本当はモータースポーツやりたかった、ドライバーやりたかった、憧れていたんだけど、自分にはできないと思って、喋る仕事を選んだ]という風に自分の経歴について語ったのを小学生の時に聞いて、私もそれは素敵だなと思いました。それで、あまり学校とかで先生に怒られたりはしなかったんですけど、怒られた時があったとすれば、授業の中でサッカーのお喋りをしすぎということで怒られたことがありました。じゃあ、もうどっちみちサッカーの話ばっかりしてるから、それをいつか仕事にできたら最高だなと思って、サッカー中継のコメンテーターになりたいという夢を10歳の頃ぐらいから持つようになりました。」
ベンさん、実は子供の頃 サッカーのゴールキーパーもされていたそう。プロのサッカー選手になるのは難しいと思っていた時に、F1のコメンテイターの方の話から、いつかサッカーのコメンテイターになりたいと思った。その夢が、のちに日本で実現することになるんですが...では、日本に来ることになった経緯を教えていただきましょう。
「大学で日本学専攻、英語で言うとJapanese studiesという専攻で、オックスフォード大学に入学しました。そこで日本語はもちろんのこと、日本の歴史・文化・経済・政治など幅広く日本のことばかり勉強して、文学・古典とか日本のことについて勉強する4年間、5年間があったのですけども、その中で2回の留学の機会もありました。1年生の時、4ヶ月だけホームステイも兼ねて関西学院大学で留学させてもらったのと、3回生と4回生の間に1年の留学の機会もあって、その1年を当時の大阪外大、現在は阪大と合併してるんですけど大阪外国語大学で1年の留学をしました。で、その経験があまりにも素晴らしく。勉強もそうですけども、生活面、街のこと、全体的に、それまでの人生で最も幸せで楽しい1年になったので、その後、泣く泣く大阪をまた離れて、日本を離れて国に帰らないといけなかったのですけども、オックスフォードを卒業してから、また大阪に住みたいな、また日本に住みたいなっていう思いが強かったですね。」
オックスフォード大学を卒業後、ベンさんはイギリスで少しの期間 働いてお金を貯め、再び、日本へ。
「正直、卒業した時点では、プライオリティとして、大阪に住みたいというのが第1のプライオリティでした。で、1年生の関学の留学の時にお世話になったホストファミリーがいて、すごく良い人たちで、その後もずっと仲良くしてくれていたので"日本で就活がしたい"という話をした時に"また泊めてあげるよ"って言ってくれたので、泊めてもらいながら就活をして。大企業の社内翻訳が最初の仕事だったんですけども、それが決まったので就労ビザもおりて、それからずっと、2006年の1月からずっと日本で仕事をしています。」
日本で大きな企業の社内翻訳の仕事を始めたベンさん。では、サッカーの仕事はどのように始まったのでしょうか?
「去年亡くなられたのですけども、賀川浩さんという大先輩の日本人サッカージャーナリストと出会いました。賀川さんがたまたま翻訳の仕事をしてくれる人を募集していたのを知って、そのきっかけで連絡を取って会いに行きました。もうただ単に翻訳者だけではなくて、"実際にこれからサッカー関係の仕事がしたい。これまでもずっとサッカーを見てきた"という自分の背景について話したところ、賀川さんがその時に会社でやっていたホームページで自分も記事を書かせていただくことになりました。そのあと英語で日本のJリーグについて短いPodcastを発信する機会を与えてくれました。それが日本のフットボールメディア、スポーツメディアとの出会いになりました。」
サッカージャーナリストの大先輩。ワールドカップ ブラジル大会は89歳で取材し、FIFAから〈大会最高齢記者〉に認定。日本人で初めてFIFA会長賞を受賞された、という賀川浩さん。イングランド出身のベンさんと日本のサッカーを繋いでくれた、ということですよね。これは本当に素晴らしい出会いです。そして、その後、ベンさんのサッカーにまつわる仕事が徐々に増えていきます。
「最初は賀川さんが取り組んでいたプロジェクトについて私が英訳を担当しましたが、記事も書かせてもらったし、Podcastも私の提案でやらせてもらいましたけども、そういうのを少しずつやって、2年ぐらいしたら記者席に入れるようになったんですね。JFAとかJリーグ、AFC、アジアのチャンピオンズリーグとか、そのようなところからすると、この人がジャーナリストなのだ、と納得してもらえるようになったので記者席に入れるようになって、そこから人脈も自然と作れました。」
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