
今回は、千葉県木更津市にある農業・食・アートを軸としたオーガニックファーム、『KURKKU FIELDS』で、【水牛のモッツァレッラチーズ】を作るチーズ職人、竹島英俊さんのHidden Story。

日本では非常に希少な【水牛のモッツァレッラチーズ】に竹島さんが興味を持った最初のきっかけは、本屋さんで出会った1冊の本でした。
「そこにはイタリアの田舎の人たちがどのように暮らしてるかみたいなことが書いてあって。良いものに対する価値観であったりとか。自分の中でそういうことをやりたいなって思った中、その本の中に水牛のモッツァレッラは南イタリアで作られていて、首都のローマに送っただけで風味が変わってしまう、というようなことが書いてあって。じゃあ日本に来てるのってもう違うものになってるんじゃないのかな、これ日本で水牛のモッツァレッラって作ってないから、作ったら面白いんじゃないかという風に思ったのがきっかけですね。」
竹島さん、まずは旅行でイタリアを訪問。その後、本格的にチーズ作りを学ぶためにイタリアへ渡ります。チーズ工場で学びたい、と考えた竹島さんですが、その最初の扉がなかなか開きませんでした。
「コネもないですし。まずそういう前例というか、レストランだったら先輩のところとか入れるかもしれないですけど、そういうことをやったことある人もいないので。まずは見たこと聞いたことある工場に行って、"働きたいんだけど"みたいな話をするけど、もうほとんど断られるんですよ。で、最終的に経営者がうんって言わなきゃダメだと思って、まずは最初に経営者誰だって探して、その経営者と話して。喧嘩してくれるような経営者はまだ可能性はあるけど、ほとんどの経営者は無視ですよね。そんな訳わからんやつと関わっても、経営者ってやっぱリスク管理もしなきゃいけないですから。そこから色んなやり方を考え出して、最終的に30軒ぐらい回った中で家族経営の小規模の工場に入り込めた、というのがスタートです。」
そのチーズ工場で、2年ほど経験を積んだ竹島さん。修行をする中で、ある情報を耳にします。
「もっと南の方にすごい工場あるぞ、とよく聞くようになってきたんですよ。そこはどんなところだろうな、と思って行ってみたら、やっぱりすごかったんですよね。自社で600頭ぐらい水牛を飼っていて、自分たちが育てている水牛の生乳しかチーズに使わないし、自分たちが作ったチーズは買いに来た人にしか売らないという。毎日400キロぐらい作るんですけど全部売り切れるような、そんな工場というか牧場だったんですね。で、そこで次働きたいなと思って、1年ぐらいかけて話しながら"じゃあ来ていいよ"となったので、最終的に全て完結する牧場というかチーズ工場で修行の総仕上げをさせてもらった、という感じですね。」
竹島さんは、イタリア南部、パエストゥムで修行の総仕上げをし帰国。宮崎で水牛の飼育を始めることを決意します。しかし難航したのは、水牛をどこから輸入するのか、ということでした。
「水牛を輸入しないとなと思って、『イタリアから輸入したいんですけど』ってちょっと調べて検疫所に電話したら、『ダメです』と。え?ってなって。じゃあ、水牛の産地ってブルガリアも産地なんで、『じゃあブルガリアからどうなんですか』って聞いたら『ダメです』。インドも実はお乳を出す水牛の系統なので、『じゃあインドから』って聞いたら、『ダメです』って言われたんです。『じゃあ、どっからなんでいいんですか』って聞いたら、『1度でも口蹄疫とか狂牛病が出てしまった大陸からは無理です』。『じゃあ、唯一残ってる大陸はどこなんですか』って聞いたら、『オーストラリアとニュージーランです』と言われて。じゃあそこに搾乳できる水牛がいるのかっていったら、野生ではいるんですけど、乳を出さないんですよ。だけど、イタリアから輸入がまだできる30年ぐらい前に、私が最終的に働いたパエストゥムという地域から水牛を輸入して繁殖させてる人がオーストラリアにいたんですね。そこに行って、『日本に輸出してくれませんか』って言ったらオッケーもらって、そこからスタートです。」
なんとか水牛の輸入に成功。
竹島さんは、宮崎で水牛の飼育を始めますが...実は、数年後、口蹄疫が発生し、水牛を全て処分することになってしまいます。
その後、いったん東京に戻った竹島さん。あるきっかけで、沖縄の竹富島で飼われていた水牛を手に入れ、その水牛とともに、北海道へ移住します。
そんな中、音楽プロデューサー小林武史さんと出会い、木更津市の『KURKKU FIELDS』で水牛の飼育をすることになりました。
現在は、およそ30頭の水牛と暮らす日々。
「チーズ作りもそうなんですけど、イタリアと同じやり方を外さない、っていうことですね。最初、大体60歳ぐらいの、もう物心ついた時から水牛の仕事しかしてないっておじさんとずっとやってたので、そのおじさんのやり方をずっとやってます。何が特殊なのか分からないですけど、水牛によく喋る、みたいな感じですかね。たいして別に返答はないですけど、ずっと喋ったりはしますね。なんか文句つけたりとかもありますけど、なんだろう、ちょっと人生のパートナーみたいなもんなんで。」
この水牛、『KURKKU FIELDS』では、お客さんは、どんなことを体験できるのでしょうか?
「水牛は触れ合い体験で餌をあげたりできて、チーズ作りですと今のところチーズ作り体験とかはないんですけども。モッツァレッラもリコッタも作った当日のものしか今までもこれからもご用意してませんので、作った当日の水牛のモッツァレッラを食すという体験はできるのかなっていうところですね。マーケットで販売をさせてもらってまして、もし食べようとしたら、もう袋開けて手づかみでガブっていうのが1番イタリア人っぽい食べ方なんですけども。あと、ダイニングでピザの上に《水牛のマルゲリータ》っていって、チーズがのったりしたものを食べたりはできます。」
最後に改めて、【水牛のモッツァレッラチーズ】の魅力について竹島英俊さんに教えていただきました。
「イタリアでもそうだったんですけど、やはり毎日作るんですが、微妙に味も違ったりして、たまに奇跡的に美味しかったりする時もあるんですね。そして、ベストな状態で食べてもらうと、パーフェクトを狙える食材だなって思っていて。イタリア人でも産地の人でも、作った当日のものが良いという人と、1日置いた方が味が濃くなるからいいという人もいて。KURKKU FIELDSで作った当日のものを買って、自分の好みで翌日食べたり、好みを探すみたいなことができる。奇跡的に美味しいものを体験することができるものであると思っています。」
竹島さんが作った「水牛のモッツァレラチーズ」は、「KURKKU FIELDS」内のマーケット、またはダイニングでぜひお楽しみください。



