
今回は、久保田利伸さんのHidden Story。
久保田利伸さんの最新のナンバー、『諸行は無常』。この曲は、テレビ東京のビジネス、経済の話題を中心に扱う報道番組【ワールドビジネスサテライト】2025年度エンディングテーマとしてオンエアされています。その制作は、どのように始まったのでしょうか?

「これはね、お話いただいて。ビジネスのニュース番組なんですけども、初めからワンフレーズ リクエストがあって。今日のことはぐっと飲み込んで、いいこと悪いことあっても、でも明日に向かって活力が沸くような、そんなイメージの曲がいただければうれしいと。そのリクエストを受けて、言葉をまず先に作っていきましたね。言葉先行、完璧に詞ができていたわけじゃないんですけども、こういうことを言おう、この言葉をこのあったかみでいこうみたいなものがあって、その言葉を使って1、2曲作りました。で、こっちだな、この感じだなって曲が決まったところで、用意してあった言葉を具体的にもっとフレーズにして はめていくという。」
先に言葉を考えた、というお話ですが...具体的に、まずは、どんな言葉が浮かんだのでしょうか?
「具体的には、サビから具体的にしていったかな。だから、<こわれないで 息を吐いて 無常な世界でしなやかにFlow>とかってありますけども、この辺は曲の中のどの位置に来るかわかんなかったんですが、<しなやかにFlow>とか、<息を吐いて>とか、この辺はもう初めからどこかに使おうと思っていたところですね。<息を吐いて>は、やっぱり頑張ってる人に頑張れって言いたくないというところから始まってますけども。深呼吸とかっていうのは、"はい、吸って吐いて"っていうのがありますけども、やっぱり吐かないと入ってこないっていう。多分ヨガとかでも吐くことの方が大事とかっていうのかな?僕、あんまりヨガやったことないけど。ゆっくり吐いて体の中を空にして、もしくは軽くして、それで空気は自然に入ってくるよということらしいんですが、息を吐いて、で、しなやかに行くということが言えるのはいいなって。そこのところ、<息を吐いて>というのは、デモテープとしてまず先に身近なスタッフに聞かせるんですが、その息を吐いてっていうところは受けましたね。スタッフからね、これは使ってくれと。事務所の社長からも、マネージャーからも、レコード会社の人からも、この息を吐いて使ってくれと言われましたね。」
そして、サビの部分の最後に、こうあります。
見つけ出して 噂になろう
これは、何を見つけ出す、ということなんでしょうか?
「ここはお話をいただいた番組があって、やっぱりビジネスで日々同じことを繰り返している人もいれば開発する担当の人もいるし、何か新しい方法を見つけ出して、新しい戦略、ビジネスでもそういうことをやっていく、探っている人たちってのはたくさんいて。で、それってうまくいかないことばっかりだと思うんですよ。僕の仕事もそうなんですが、色々トライしてみて、失敗して、なんか見つけるっていう。そういう意味で、何かを見つけたとか、これが答えだったかとか、そういう意味です。あなたを見つけるとか人間を見つける、というよりも何か答えを見つける。そういう意味です。これね、<見つけ出して噂になろう>と聞けば、とっても僕の意味が伝わるんですよね。単純に噂になろうだけでいくと、チャラいみたいな感じがしますが、探していたもの・もやもやと探していたものに出会って、それである意味自分の中で[やった]、という、[成功した]っていう意味で、成功して噂になろうくらいのそういう言葉でした。なので、この『噂になろう』というのは、タイトルになってもいいのかなって迷ってたくらいの言葉です。」
リリックのHidden Story、教えていただきましたが、では、曲の方。作曲、そして森大輔さんと考えたアレンジ。これは、どのように進めたのでしょうか?
「曲をどんな曲にしようか迷ってる段階で、試しにこんな曲どうかなっていうんで、デモアレンジ、デモテープの段階から森君に付き合ってもらって、そのときは2つ3つちょっと試しごとやりました。全然違うタイプの2つだったんですけど、どちらにしろスローなもの作るつもりなくて、1個はアフロビーツ。ここ数年、わりとみんなR&Bの方でこぞってやってますけど、そのビートでイメージしてる言葉が乗っかんないかなって。で、それを試しにアレンジしてみたりとか。でも、うーん、もう1個考えてる、もうちょっとファンキーなポップス、ファンキーポップスでストレートなのもいいかなと思って。結局ファンキーポップスの方になるんですけども、曲は。でも、デモテープアレンジをしながら、アフロビーツの方もものすごくいいところがいっぱいあったので、アレンジだけアフロビーツのイントロを使って。だから出来上がりの曲のイントロはアフロビーツ。で、曲に入っていくとシンプルなノリのファンキービートなんですよ、これが。だから、デモテープから一緒にアレンジを工夫したおかげですね。とってもあそこが良かったので。そのビート感がそのまま素晴らしい、オシャレなイントロだと思ったので、これは聞かせたいなと思って。」
そして逆に、曲の最後の部分、Let It Go, Let It Flow という歌詞と共に、久保田さんが自由に歌うパートがあります。
「ありがとうございます。このエンディングの方ですよね。これ、僕、バンプアウトもしくはタグアウトって呼ぶ場所でして。曲の後半でもう全部曲が1回終わって、サビも歌い切って、そこから約1分くらいっていうのはもう1番好きな場所なんです。レコーディング作業の中で、もう何にも決まってないんです、そこって。トラックだけがあって、あと曲はもう歌い終わり、普通はそこでフェードアウトするんですが、僕はそこの音楽を聞いて、レコーディングスタジオで無の状態、まっさらな状態から音と一緒に遊ぶのが好きなんですよ。だいたいの場合、そこでアドリブしたいもんですから、アドリブするためにアドリブを誘発するバックコーラスが欲しいんです。で、まずバックコーラスを遊びで作るんですよ、単純なやつを。で、それを聞きながらアドリブをするっていう最後の1分、1分半が好きで、だいたい色んな曲でああいうことやるんですけども。でも、あれは、どっちかっていうと昔ながらのソウルミュージックのパターンですね。コールアンドレスポンス、長々エンディングっていうのは最近は短い曲が多いのでああいうのやんないんですが、僕は昔っからソウルミュージックファンなので、このパートがレコーディング作業で1番好きなものです。好きな時間。」
このコーナー、来週も久保田利伸さんにご登場いただき、40年に渡るキャリアの中で印象深い出来事を振り返っていただきます。その予告編的に、久保田さんのデビューした頃のお話をひとつだけ。当時、ソウル、R&Bといった音楽は、日本では馴染みが薄かったと思うのですが、実際その点はどうだったのでしょうか?
「ちょうど僕がデビューするちょい前、1、2年前にマイケル・ジャクソンが世界で大ブレーク、世界で1番売れたんです。マイケル・ジャクソンってソウルミュージックです。『Off The Wall』はすごくソウルアルバムでソウルヒットなんですが、次の『Thriller』からポップヒットになっていって。その瞬間が多分僕が出る数年前だと思うんですけど、そういうことがやっぱり日本の音楽業界でも"そうなんだ"っていうか、自然に浸透してるので、僕のちょっと前よりは受け入れ体制があったんじゃないかな。しかもマイケル・ジャクソンの場合はソウルソウルじゃなくてポップなソウルなので、僕みたいにToday Todayのソウル、その時その時に新しいソウルをやっていきたいものにとっては距離感がないというか。そういうものを聞きながら・作りながらっていうと、ちょうど時代的にはなんか僕みたいなものを待ってくれてる、聞く体制ができている1番初めなんじゃないかな、っていうタイミングですね。」