今回は、東京・代々木にある、薪の窯でパンを焼くお店『パン屋塩見』のHidden Story。

『パン屋塩見』の塩見聡史さんが薪の窯でパンを焼く理由。そこには、パンの道に進んだ最初のきっかけが深く関わっています。

「まず、教員を24歳の時だったと思うんですけども退職して。それから、自分の何か好きなことで仕事を出来たらなという風に考えて、魚が好きだったんですよ。とったり飼ったりするのが好きだったので、魚の研究をして、水産試験場とかで働けたらいいなと思って。というのと、あと沖縄に住んでみたいという思いがあって、琉球大学の大学院の海洋自然科学科というところで魚の研究をしに沖縄に行きました。で、そこの近所に薪窯で焼くパン屋さんの『宗像堂』というお店があって、そのお店でバイトを始めたのがパンとの出会いです。」
神奈川県小田原市ご出身の塩見さん。教員を辞めて、沖縄の琉球大学の大学院で海洋自然科学を学んでいた時、薪窯のパン屋さん『宗像堂』でアルバイト! これをきっかけに、パン職人を目指すことになります。
その後、塩見さんは関東に戻り、東京・富ヶ谷の名店『ルヴァン』で修行。4年半働いたあと、薪窯パンの店を開くのにぴったりな場所を探します。地元・小田原や沖縄の物件も考えましたが、決断がつかず、月日が過ぎていきました。
「まいったなっていうような時間を過ごしてた時に、ルヴァンが「ちょっと人が足りないから1年間だけ戻ってこないか」って声をかけてくれて。ルヴァンにもう1回、独立希望という目で東京に戻ってきてパンを売ってみると、東京って当たり前なんですけど人がたくさんいて。人がたくさんいるということは、価値観も本当に幅広く、色んな人が来るし、住んでるし。そうなると、自分がやろうとしているようなちょっと変わったパン屋、薪窯でやって、種類も少なくて、で、大きいパンを売る、というような商売も東京だったらもしかしたら成り立つのかもしれないと思いました。そこから東京に絞って場所を探し始めました。」
代々木でパン屋さんを開くことを決めた塩見さん。難しかったのは、パンを焼くための《窯づくり》、でした。
「薪の窯というのは基本的には売ってないので、レンガを自分で組んで、それで自作した窯なんですけども、レンガだけでも2000個ぐらい使っていて。初めての経験だったというのもあって、半年ぐらい時間がかかってしまいましたね。レンガの窯というのは、いま日本で10個か15個ぐらいに増えたんですけども、僕が作った時は、僕より先に作った人は5人ぐらいしかいなくて。で、その前に作った方の写真を見せてもらったりとか、話を聞きに行ったり、見せてもらいに行ったりして、見よう見まねで作った感じです。半年かかったっていうのは、やっぱりここがうまくいかないなと思ったら、少し崩したりとか。3歩進んで2歩下がるじゃないですけど、3歩進んで1歩下がってまた3歩進むぐらいの速度で作って、ようやくできた感じです。」
レンガは岐阜県から運んだそうですが、その量、6トン。それを1つ1つ積んで、うまく行かなければ崩して、また積んで。地道な作業の末にできたのが『パン屋塩見』の薪窯です。
では、その薪窯でパンを焼くことの魅力、それはどんなところにあるのでしょうか?
「まずは、その作業自体が楽しいんですよ。キャンプで火をもすような楽しさもあったりとか。あとは、パンの発酵と窯を温める作業を、どっちもタイミングを合わせていって1番いいタイミングで窯にパンを入れたいんですけど、パン生地もテンションが上がってきて、自分が薪を燃やすことで窯の方も温度が上がってきて、その両方のリズムを合わせていく。ライブ感みたいなものがあって、それがまずやめられないという、楽しさがあって。あとは、できあがったパンについては、皮が美味しくできるなと思っていて。焦げてるんじゃないんですけど、香ばしいような皮が厚くできて。なので、香ばしさが持ち味かなと思ってます。薪がいつも一緒じゃないので、薪も生き物だから色んな密度だとか太さのものが来るので、それを毎回、今の窯の感じだったら次はこれぐらいの細さの薪がいいなとか、そういうのを合わせていく感じが、同じ日がないから飽きないんだと思います。」
そんな窯を使って作られているのは、基本的には カンパーニュ、食パン、ビスケットの3種類。このうち、【食パン】について、どんなことをポイントに焼かれているか、教えていただきました。
「食パン作りはですね、発酵種と呼びますけど、いわゆる天然酵母がうちの場合はちょっと酸が出るように作ってるんですけども。その酸が出た感じと、食パンに入ってるバターの感じと、麦の味というのが良い感じで調和した時に、癖になる感じというか。そのあたりのバランスを大事にして作ってます。」
そして、『パン屋塩見』では、こんなことも実施されています。題して、〔薪窯の一般開放 ~窯の余熱で一品作りませんか?~〕

「店をスタートしたぐらいから自分たちのまかないは、窯がまだ熱いから、そこにルクルーゼに余り物の野菜とかお肉なんかを入れて味噌汁を作ってたんですよ。で、その味噌汁と、あと米も窯で炊いてそれをお昼ご飯にしてたんですけども、そのレンガの蓄熱って大きくて。朝8時ぐらいに火を消すんですけども、その熱が夕方でも200度ぐらいあって。翌朝でも150度ぐらいまでずっとその熱が続くので、これはちょっともったいないな、なんかもう1個お店でもできるぐらい熱があるなと思っていたんですけど。そういう時に、フランスの田舎で育ったっていうフランス人の方とちょっとお話する機会があって。その方は幼少期にお母さんと買い物に行く時に、パンを焼き終えたパン屋に鍋を預けて、買い物して、どっかちょっとその辺で少しお茶したりして、帰りにそれをピックアップして家の夕食にしたっていうような話をしてくれて。"この店もそれできるんじゃないか"と言ってくれたんですけど、それは確かに面白いなと思って。それがきっかけで始めました。」
2020年11月に開店した『パン屋塩見』。最後に、ここまでを振り返って、どんなことを感じてらっしゃるのか、塩見さんに教えていただきました。
「もともと全然知らない場所でスタートして。でもやっぱり毎日通って、パンを焼いて、で、そこにお客さんが来てくれてやり取りがあるというと、本当にまだ5年なんですけど、地元みたいな感じがしてくるっていうか、やっぱり店をやるというのは面白いなと思って、毎日楽しくやってます。」
営業日は、金曜から月曜は通常営業。火曜日は、月曜に焼いたパンを値引き販売と、パウンドケーキを販売されてます。〔薪窯の一般開放 ~窯の余熱で一品作りませんか?~〕の詳しい利用方法と共に、インスタグラムにカレンダーが掲載されていますのでチェックしてお出かけください。


