今回は、5月17日から開催される『東京建築祭』のHidden Story。

東京建築祭の実行委員長、大阪公立大学教授の倉方俊輔さんにお話を伺いました。普段は入ることができない様々な建築に入って中を見学することができるというイベント『東京建築祭』を開催しようと考えたのは、どんな理由からだったのでしょうか?
「建築って結構面白いものなんですよね。幅広い方々がそういう建築の面白さというものに目覚めて、日々、都市の中で生きることをより楽しんでいただければと。そう思って、建築の面白さを広げるという目的で東京建築祭を始めました。実は、そういう普段入れないような建築を幅広い方に公開するというイベントは、2014年に大阪でイケフェス大阪というものが本格的に始まりました。そちらにも私は最初の立ち上げから関わっていて。あと2022年に京都モダン建築祭という、京都で近現代の建築を公開するイベントも始まり、そういうものに関わっていた経験もあって、今回いよいよ東京で建築祭を開こうということになりました。」
大阪では、生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪。通称、イケフェス大阪。そして、京都では、京都モダン建築祭が開催されました。また海外では、さらに先行して、建築にまつわるイベントが開催されてきたそうです。
「海外だと、ある特定の日にだけ、普段は非公開の建物を公開するイベントはオープンハウスという名前で知られています。
最初、1992年にロンドンでオープンハウスロンドンというイベントが1人の民間の女性から始まりまして。そういうものが自分の街でもあったらいいんじゃないかっていうことで、その経験者が色んな都市で始めていくわけですね。なので今、オープンハウスロンドンっていうのが2日間で延べ25万人ぐらい参加する大きなイベントになってます。そして、オープンハウスなんとか、ということで、色んな都市...アジアとか南米とかヨーロッパとか、そういう都市でオープンハウスが70都市ぐらいで行われています。その意味では、最近の流れですね、世界的な潮流があって。そんなオープンハウスというものを日本でもやろうじゃないか、ということで大阪で始まり京都で始まり、そして東京でも行われるようになったということになります。」
東京建築祭は、去年が初開催でした。その際、参加してもらう建物については、どのように決めていったのでしょうか?
「1つ1つの公開建物、参加建物にそれぞれまた違う物語があるというか。東京建築祭、祭りという通り、やっぱり普段と違う人同士が出会ってほしいと思うんですよね。だから、なんとなく持ち主の方も、普段はお客さんが来られたりとか、あるいは会社だったら会社の方しかいないわけですが、そこに違う方が入っていくと、すごく面白いとこに気がついたりとか、来られた人に褒められたりとか。あるいは、その説明が元々持ってる方や使ってる方の言葉だから、専門家よりも来た方がすごく心に響いたりとか。そういう建物を開くことを通して、いつもと違う人と人との繋がりを作るというのが、この東京建築祭が目的にしてるものの1つになるわけです。なので、使っている方とか持っている方が開いてみたいなって思うものが集まっている、という感じですかね。」
では、公開される建物について具体的に教えていただきましょう。事前の申し込みなしで見ることができる、《特別公開、特別展示》の建物には、どんなものがあるのでしょうか?

「例えば旧近衛師団司令部庁舎という建物があります。こちらは5年前まで工芸館として使われていた明治終わりの赤レンガの建物なんですが、5年ぶりに本格的に、ずっと閉ざしていた扉が開きます。階段とか、もうすごく美しいんですよね。手すりなんかも本当に丁寧に仕上げられてて。で、その階段、光が上から注いで向こうの緑が綺麗に見えたり、乾門の辺りが見えたりとか。
それから、慶應義塾の建物なんかもそうで、三田演説館という、明治初期、福沢諭吉が演説っていうものを日本に広めたいってことで作った擬洋風建築というような建物があるんですけど、そちらも内部を特別に今回だけ公開していただいたり。それから明治終わり、図書館として使われてた建物の中に特別の展示、図面の展示とかしていただいたりって、これも結構面白いですよね。」
さらに今回は、建築設計事務所も複数参加されています。
「建築家って人がいるかなっていうのは、普通の方も意識されてるかもしれないですけど。建築って結構いろいろ、工事する人もいれば、設計する人もいる。その設計するのも、組織事務所と言って大規模な事務所もあれば、アトリエ事務所というような少数でやっている事務所もあって、色んなタイプの専門家が建築と関わってるんですよね。でも、普通はそういうのって見えないし、それからオフィスの中って普段入れないんですけど、この日はいくつかのオフィス・建築の設計事務所を開いてもらって。で、そこにある模型とか、あるいはタイミングがあえば建築家の人と話をしたりとか、そうすると、自分の街はこういう方が作ってるんだ、あるいはこういう方がこうしようとしてるんだとか感じられると思いますし、建築を開くことによって人が出会うっていうのは、設計事務所なんかでも同じなんじゃないかなってことで。」
東京建築祭の実行委員長、倉方俊輔さんに最後に伺いました。建築祭に参加される方へメッセージをお願いします。

「建築って何よりも体験するものだと思うんですよね。で、その体験っていうのは、中に入って空間を味わって、そうするとどういう気分がするかなとか。なぜこういう気分がするかっていうと、あそこの装飾とか、あそこの窓が効いてるんじゃないかな?とか。そういう風に体験して、自分でその理由とか背景を捉えていくと、より理解が深まる。それから外観にしても、やっぱりこういう街だからこういう建物が立っている、あるいはこういう街にこれが立ってるからちょっと違うんだなとか、知識というよりも体験して、それにいろんな知識をつなげたりして、自分なりにその建築がある意味とか考えていただければ、それが1番の正解なんじゃないかなと思います。ですから、何よりも、あんまり難しいことじゃなくて、行ってみて、体験して、で、いろんなものとか人に出会って、それで東京をもっと好きになってもらえればなという風に思います。」東京建築祭


