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今回は、『QRコード』のHidden Story。お話を伺ったのは、『QRコード』の開発を担当された原 昌宏さんです。

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元々ですね、私は1980年にデンソーに入りました。デンソーはですね、車の部品メーカーなんですよ。で、1970年代に生産管理をするためにバーコードを導入し始めたんですね。私はデンソーに入って、最初からバーコードの読み取り装置を開発してたんです。最初に開発したのが、今コンビニのレジで使われてるバーコードリーダー。あれを開発したのがスタートです。それで、1992年に工場から"最近バーコードが読みづらい"という話をもらって、現場に行ってバーコードを読ませるのを見た時にもうバーコードは限界かなということで、QRコードを開発しました。」

QRコードの開発がスタートするきっかけとなった【バーコードが読み取りづらい】...その理由は、どんなことだったのでしょうか?

「車業界としては、ユーザーのニーズをいろいろ聞いて車にいろんな機能を付け始めたんですね。そうすると、きめ細かな生産管理するために多くの情報を扱うようになったんですけども、その当時使っていたバーコードは20文字程度しか使えなかったんです。それでどうしたかというと、バーコードを複数印刷して、それを1つ1つ読ませるんですね。そうすると、非常に作業効率が悪くて大変だということで声がかかって。あと、自動車工場での問題がもう1つありまして。自動車工場というのはやっぱり油を使うので、バーコードが油で汚れてしまうと読めなくなったり、細いバーが油で汚れて太いバーに化けると違うデータとして読んでしまうんですね。」

バーコードには、【のせることができる情報量が少ない】、そして、【汚れに弱い】、という2つの大きな課題がありました。これを解決するために、新たな技術が必要とされたのです。

「色んな国の技術を調べていくと、セルに白黒を配置してデータを読むというのはアメリカでもちょっと開発はされてたんですね。ただ、それを見ると、やはりすごく汚れに弱いし、読み取り速度も遅いという欠点があったので、それを解決しようということで開発を進めました。色々と試行錯誤していくうちに、まずなぜ遅いかという理由を調べ始めたんです。QRコードは、皆さんご存じのようにカメラで画像を撮ってその中から画像の中のQRコードを探して、そこだけを抽出して読み取るんですけども、カメラで撮影すると周りにいろんな文字とか風景とか色んな雑音というか、色んなものが写ってしまいそこからコードを取り出すのは非常に時間がかかるということがわかりました。特に印刷物の中でコードを読むものですから、周りに表示されてる文字とか図形みたいなものに《ない特徴》をQRコードにつけてやれば、QRコードだと区別がついてすぐ読めるんじゃないかという発想に至ったんですね。」

周りにある文字や図形には《ない特徴》を見つければいい。開発チームは、新聞をはじめ、さまざまな印刷物を研究し、他にはない形を探しました。

「まず最初に、複雑な形状のものをつけたら区別はつくんですけども。そうすると、その形状を把握するのにコンピューターは非常に時間がかかるんですね。コンピューターの処理しやすい特徴は何かなと考えた時に、バーコードが早いのはなぜかと考えてバーコードというのは[バーの幅]の情報で読んでるんで、いわゆる比率で読んでるものですから、コンピューターはその一次元的な比率の処理は速いんです。じゃあ、文字に構成される白黒で《ない比率》はないかということを調べました。その結果、最初の黒の幅を1とした時に、次の白の幅を1で、次の黒の幅が3 で、次の白の幅が1、そして次の黒の幅が1という〔11311〕が、全くないわけじゃないけども極端に少ないことを見つけて、それをQRコードにつけるということにしました。」

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黒と白の幅が〔1対1対3対1対1〕。QRコードの正方形の3つの隅にある正方形、中心に、真っ黒な正方形があって、その外に白の枠、さらにその外に黒の枠があって正方形のシンボルを形作っています。この黒と白の幅の割合が、〔1対1対3対1対1〕になっている、ということ。このシンボルを、QRコードの3つの隅に配置することで、〈これはQRコードだ〉とコンピューターがすぐに認識してくれるということ。 それがQRコードだということさえコンピューターに認識させることができれば、そこに情報をのせることはそれほど難しい技術ではないというお話でした。

そして、もう一つの課題、汚れに対する弱さ。これは どう克服したのでしょうか?

「難しいんですけど、皆さんになんとなく分かるように説明すると、数独...ナンバープレースってあるじゃないですか。あれって、ある決められた規則に沿って1から9の数字があって、規則に応じて空欄が埋められるような形になってるじゃないですか。QRコードも、データの他に間違いなどを復元できるようなデータがいっぱい入ってるんですね。で、そのデータから汚れたりとかしてる部分を復元できるような形になってるんです。だから、データ以外に推測するようなデータを入れてるってことですね。間違ったところが推測できるような。例えば、数字で125という数字があったとするじゃないですか。で、それを足したら8ですよね。で、その8というデータを付け加えてあげると、真ん中の2が欠けた場合に、その8から、15を引いて2が分かるみたいな。そんな形のデータが入ってると思ってもらうといいですかね。」

1994年、当時の日本電装株式会社が『QRコード』を発表。その技術について、自社で独占せず 広く使ってもらえる形をとりました。その結果、今や これほど多くの人が使い便利さを感じる技術となりました。現在は、株式会社デンソーウェーブで、引き続き、QRコードの研究を続ける原 昌宏さん。最後に、今後のヴィジョン、教えていただきました。

1つはですね、やはり今、QRコードは、文字、テキストしか入れないんですけども、 そこに情報をもっと多く入るようにして画像なんかも入れられるともっといろんな活用ができるのかなと思ってますね。例えば、能登半島の地震があって、その時にネットワークが使えないということになると、QRコード自体に全部のデータを入れて活用できればという、そんな声もいただいていますので。そういう意味で多くの情報を入れて。特に、例えば医療データ、レントゲンや心電図などをQRコード化して、常に患者さんが持ち歩いて震災が起きた時や街中で倒れてしまった時でもすぐに病院に運ばれて、それを読むことによってその人の病状や治療状況を分かるようになって、適切な診察が受けられるようになればいいなという考えがあります。」

デンソーウェーブ