今回は、大阪の昆布屋さん『こんぶ土居』のHidden Story。

明治36年、1903年創業。
120年以上の歴史を持つ、『こんぶ土居』。その創業の地である大阪は、江戸時代から昆布を扱うお店が多い地域でした。
「まず、昆布の産地は大阪ではありません。ほとんどの昆布は北海道で産出されますが、その北海道で獲れた昆布...昆布だけではないんですけれども、江戸時代の中頃に北前船という物流船が北海道の産物を積んで本州へ向かうわけですね。で、その際の目的地が大阪と、そういう物流でありました。その頃以後、大阪は昆布の集積地という風に発展していくわけですけれども、私どももその流れの一部を汲んでいるという風に申し上げられるんじゃないかなという風に思います。」
お話をうかがったのは『こんぶ土居』の4代目、土居純一さんです。昆布の集積地として、昆布文化が根付く街・大阪で、『こんぶ土居』はどんな仕事をされてきたのでしょうか?

「大阪の多くの昆布屋さんと基本的には仕事の内容自体は共通する部分が多いかと思います。 当然、出汁を取るためにはだし昆布が必要であったりですとか、とろろ昆布なども昆布の用途として大切です。あとは昆布の佃煮類ですね。そういうものがかつては大阪という風にされたわけですけれども、私どもでも製造場で日々昆布の佃煮を炊き、というようなことをずっと初代の頃から続けてきましたね。基本的には、やってる仕事、そして方針ですね、踏襲でございます。基本的には同じなんですけれども、ただ昆布屋という職業に対する逆風がここ10年ぐらい本当に大きく吹き荒れるようになりました。ですので、私どもの取り組むべき内容も当然多くなりますし。例えば昆布の産地に対する関わり方などもうちの父親の代から大きく変わったという風に言えるんではないかと思いますね。」
【昆布屋さんへの逆風】という表現がありました。土居さんが逆風としてあげたのは、平成の時代に昆布の消費量が減ったこと。さらに、もう一つの逆風は、海の環境が大きく変わってしまったことでした。
「実は、昆布には養殖昆布と天然昆布、ともにあるわけですけれども、天然昆布は海の環境悪化によって年々生産量が減ってきているという現状があります。磯焼けという言葉も色んなところで聞かれるようになりましたけれども、昆布のみならず多くの海藻が海の中で枯れ果てて、岩盤がむき出しになってウニばかりというようなことは世界中で起きてるんですね。その一端として、天然昆布はどんどん枯渇をしてきています。で、昔から私どもが主たる原料としてきました。品種で言いますと、真昆布、かつ天然物ですね、その真昆布の中でも献上品に指定されてきたような特定地域があるわけですけれども。そのエリアにおいては2024年の昆布生産量はもはやゼロ。で、先ほど養殖昆布のことも少しお話ししましたけれども、養殖昆布の生産にはいわば親昆布が必要なわけです。その親昆布というのは天然昆布に該当するわけですけれども、つまり全部取ってしまうと養殖の親になるものもなくなってしまうので、一部は資源保護のために守っておくんですね。で、それがもうごくごくわずか残っているだけで、とって販売してということをやれるほど海の中にもはや生えていないということで、お話ししました通り、献上浜における天然昆布というのは2024年の生産量はゼロだということになってしまいました。」
去年、天然昆布の生産量がゼロだった地域がある。その要因の一つは、海水温が上昇したことによって生態系のバランスが崩れてしまったことだと見られています。そして、先ほどのコメントに岩盤がむき出しになってウニばかりという言葉がありました。これはいったい、どういうことなのでしょうか?
「ウニと昆布の関係で言いますと、海水温が高くなるとウニは活発化します。その活発化するタイミングも実は大事でして。夏場の昆布が大きく育ってる時に少々活発化しても、あまり大きな問題にはならないんですね。しかし、冬場の昆布が赤ちゃんのようなタイミング、そんな段階でウニが活発化してしまうと、赤ちゃん昆布を食べられるともうそれでおしまいになってしまいますね。元々は寒い北海道ですから、冬場は水温が非常に低いわけです。つまり、その低い水温ではウニがあまり活発に活動できず、ほぼ何も食べないでじっとしているということが昔のウニの普通の生態でありました。ところが、水温が上がるということは冬場であってもウニがまだ活動を続けている。で、その段階では昆布が赤ちゃんである。それが食べられる、というようなことがバランスが崩れるということの一例だという風に申し上げられると思います。」
土居さんは、さらにこう続けます。
「これは昆布だけがなくなっているわけではなくて、他の自然の海藻も同時に枯れ果てていっているわけです。これは言ってみれば海の砂漠化なんですよね。で、砂漠化した海というのは生命の営みが乏しい海です。山々で木々が枯れていったらみんな大騒ぎするはずだと思うんですね。これ大問題だということになるはずなんです。ただ、これ実際、海の中の林があるわけで。海中林ですね、海藻による海中林。それは本当に急速に枯れ果てていってるわけでして、それを私どもは天然昆布の不作ということをきっかけに知ることができるわけです。」
土井さんは、昆布の状況はもちろん、海の環境についても伝えていきたいとおっしゃっていました。
そして、『こんぶ土居』では、そんな海の中で昆布が置かれている状況、さらに、これまでの昆布の歴史などを伝える場として《大阪昆布ミュージアム》を開設されています。例えば、こんな展示があるそうです。

「私が一昨年、海に潜りまして、潜りで天然昆布を収穫してきたんですね。これ、実は普通の収穫方法とは全く違いまして。素潜りで岩に着成した昆布を岩ごと水揚げしてきて、岩ごと乾燥させ、それを大阪へ運んできたというもので。この目的は、昆布がどのように着生しているのか、岩盤への着生状況を一般の方にご理解いただくためにそのようなものを展示しておりましたりですとか、あとは養殖昆布がどのようにできるかをご理解いただくために、養殖昆布をつけている綱に昆布が入っているわけですけれども。その綱ごと乾燥させ、それを大阪へ運んできて、暖簾のように昆布がたらされているものをそのまま見ていただくものであったりですとか。あとは、漁師さんの昆布漁に使う際の漁具ですね、道具類も本物を漁師さんからいただいてきて展示していましたりですとか。」
『こんぶ土居』の4代目、土居純一さんに最後に伺いました。今後のヴィジョン、どんなことを考えてらっしゃるのでしょうか?
「今、日本人が過去から受け継いできた大切な大切なものが失われようとしている、そんな今だと思うんですね。もう本当に危機的な状況にあるその昆布文化をなんとか未来につなげる、それが私どものミッションでありヴィジョンだと申し上げられるかなという風に思いますね。で、やはりその本物を知っていただくということ、健康と文化という観点から本物を知っていただくということも私どもの仕事のミッションだという風に思っています。」
《大阪昆布ミュージアム》。オープンの日は不定期となっていますので興味をお持ちになった方は、公式ウェブサイト、SNS、チェックお願いします。
「こんぶ土居」の商品は、公式ウェブサイトで販売されています。
