今回注目したのは、アシックスが手がけるリサイクルが可能なランニングシューズ『NIMBUS MIRAI』。
開発責任者の上福元史隆さん、そしてデザインご担当、安藤良泰さんにお話をうかがいました。まずは、このシューズ『NIMBUS MIRAI』の開発を始めるきっかけについて、上福元さんに教えていただきました。
「上福元:まず3年7か月開発期間がかかったんですけども、3年7か月前に、私たちにはボストンで企画を立てるメンバーがいて、彼らからシューズとサステナブルを何か連動させたアイテムを開発してくれないかという依頼がありまして、そこがまずはスタートになっております。そこからですけども、我々、シューズとサステナブルでどういう風なことがあるかなということを確認していたんですが、まずシューズは年間239億足が全世界で作られているというのを知って。ただ、使用済みのシューズのうち95パーセントが埋め立てられているか焼却されているか、というところが調査でわかりました。なので、まずはここをなんとか解決できないのかな、というところをミッションとして考えました。」
そして、ボストンのチームからこんな情報も寄せられます。【徳島県の上勝町は、町全体で 2020年までに焼却・埋め立てのごみをゼロにする、という〔ゼロウェイスト宣言〕をおこない、先進的な取り組みをしている。】上福元さんたちは、アシックスという名前はふせて上勝町を訪ねました。
「上福元:上勝町はゴミを45分類してそれを資源化するという取り組みを進めています、というところで。それで、2020年に100パーセントを目指しているとお伺いしてたんですけども、当時訪れたのが2021年でしたかね。なので目標の年を過ぎていて、その当時80パーセント達成ということでした。なので、"残り20パーセント、何が達成していないんですか"という質問をさせてもらったところ、"高齢の方が多いというところもありましてオムツだったりとか、普通に使うティッシュとか、そういうのはなかなか資源化できないんですよね"というお話がありました。 あと、皆さんが使っているところでというところの一例で、"シューズがリサイクルできません"というところを言われまして。その時、我々はアシックスという名前では行っていなかったので、非常にびっくりしまして。」
なぜ シューズのリサイクルが難しいのか?これには3つポイントがあって、まずは、《シューズは大きく分けて足を覆うアッパーと、靴底のソール、という2つの部材でできているが、アッパーとソールは強力な接着剤で接合されていて引きはがすことができない》。そして、2つ目は《アッパーは いくつもの素材で作られていてこれもリサイクルには向いていない》。さらに 3つ目、《回収の仕組みがない》。
このうち アッパーの素材については、ポリエステルを単一素材として使おうということになりました。
しかし...。
「上福元:まず、シューズをポリエステル1つの材料で作るっていうのは今までやったことがなかったんです。シューズは10数種類の非常に多い素材でできておりまして、ウレタンだったりだとか、固い部分だったらプラスチック系の樹脂の部分があったりとか、細かい話をするとナイロンとか色んな材料が含まれておりまして。それで、それを全てポリエステル...Tシャツで多く使われているのがポリエステルなんですけども、それだけで作るというのは非常に難しくて。 なぜかと言いますと、シューズは固いところを作ったりとか、足首回りは柔らかい部分を作らないといけないとか、部位によっていろんな目的でいろんな要素を持ってないといけない。というのを、1つのポリエステルという素材で達成するのは非常に困難だった、ということがありました。」
さらに、困難を極めると考えられていたのが、アッパーとソールを接合するための【接着剤】でした。使っているときは当然、剥がれてはいけません。ですが、リサイクルのためには うまく剥がれなければなりません。
「上福元:私の同期にスポーツ工学研究所という弊社の研究所の者で立石純一郎というものがいるんですが、彼に"ボタン1つ押したらはがれるような夢のような接着剤ない?"という無茶苦茶なふりをしたところ、彼が"あるよ"と即答で返してくれたんです。軽く"あるよ"って言われたので、多分冗談で言ってるんじゃないかなと思って深く聞いていくと、弊社が2006年に権利化、パテントまでしっかり取って持っている接着剤がありまして。それが普通にノリを塗ってソールとアッパーをくっつけて、普通に使用しても全くはがれないけども一定の熱をかけるとはがれるような接着剤がある、というのを教えてもらいまして。じゃあそれを使おうっていうので、約15、16年ぶりにそれを呼び起こしたという形になっております。」
素材は揃いました。では、デザインについてはどのように考えたのでしょうか?安藤良泰さんに教えていただきました。
「安藤:デザインについてはですね、ポリエステル単一素材で作成するというのがまず1番の大きな括りというか、制限でありました。なおかつ環境負荷を最低限にしたいという元々の思いもありますので、何かを追加するんじゃなくて、どちらかというと引き算のデザインで。ですが、そうすると、ただ真っ白な靴作ってもお客様に伝わらないので、やっぱりお客様にリサイクル可能な商品であるとか環境に優しいということをお伝えしたいなと。それで具体的にやったこと、まず1つは、あえて靴を真っ白にするんじゃなくて、生成り色。素材そのものの色である生成り色っていうのを あえて選択して、地球に優しい、環境に優しいというようなイメージの醸成をしたということ。あと、かかとの方にNIMBUS MIRAIというロゴと、それでミッドソール、ソールの方に半円を描いて、これで円を描いてるんですね。側面、かかとの側面の方になります。それを描くことでサーキュラリティをイメージする、円を描くというところで、今までになかったデザインにしたいなと考えました。」
円を描く、という言葉がありましたが、使用済みのシューズの回収の仕組みについては、テラサイクルという会社の協力を得て実施できることになりました。甲の部分、タンと呼ばれるところにQRコードがデザインされていてそれを読み込むと、回収の方法などが案内されるそうです。『NIMBUS MIRAI』は今年4月に販売開始。シューズのリサイクルについて、第一歩を踏み出しました。では今後についてはどのように考えてらっしゃるのでしょうか?開発責任者の上福元史隆さんにうかがいました。
「今回、同時に世界的に販売はできたというのはあるんですが、弊社の商品群の本当一部でありますし、他社さんも含めると全く小さい動きにはなっていますので、まずはこの動きをしっかり大きくしていかないといけないのかなと思っております。で、これはもうアシックスだけではなくて業界の課題として捉えないといけないかなと思っておりますので、我々、この技術的なところは特に隠しもせずオープンにしています。というところもありまして、先ほどの接着剤に関しましても問い合わせがありましたら相談乗ります、というスタンスになっていますので、そういった面では色んなところと連携しながら、この課題を解決していくのがまず1つかなというのがあります。 あとは今後お客さんから入ってきたシューズをしっかり原料に戻すっていうところ。そこもしっかり踏まえて、もう1度シューズに持ち込めるか、というところをしっかり責任を持って進めていくっていうのが今後の目標でありますし、やらなければいけないことかなと思っています。」