今回は、テレビドラマ 日曜劇場【アンチヒーロー】の主題歌、miletさん『hanataba』のHidden Story。
【アンチヒーロー】の主人公は、長谷川 博己さんが演じる「殺人犯をも無罪にしてしまう」"アンチ"な弁護士・明墨。いわば、アンチヒーローがあばこうとしている真実とは?という物語です。その主題歌の制作、どのようにスタートしたのでしょうか?
「ドラマの脚本を数話分 でき上がっていたものを先に読ませていただきまして。そこからのインスピレーションで、比較的自由だったと思いますね。ミドルテンポぐらいのバラードで、というところぐらいしか本当に言われていなかったんですけれど、2曲3曲ぐらい蔦谷好位置さんとセッションで作らせていただいて、それをデモとして1回ドラマのスタッフ側に送りましたね。それで、もうその時に『hanataba』の原型だった、元々『ブーケ』という曲だったんですけど、そのデモをすごく気に入っていただいたので、そこからすぐ詰めていこうというところで。方向性としてはかなりスムーズなように思いました。」
音楽プロデューサー蔦谷好位置さんとのセッション。蔦谷さんのスタジオでおこなわれたそうなんですが、具体的には、どんな感じで進んだのでしょうか?
「私が読んだ時点までの脚本の内容を説明したり、こういう感情を曲に押し出したいとか、〈後悔〉とか〈愛〉とか〈希望〉だとかのキーワード、私の思っていることを伝えたり。蔦谷さん、単語を言うと"じゃあこっちの音かな?"っていう風に、すぐ鳴らしてくださったりするんです。で、細かく、"いや、このコードはちょっと明るすぎるな、ちょっとポジティブすぎる""もうちょっと芯の強さが欲しいな"っていうので一緒に探していって。なんだろう、でもこれ、誰相手でもできるものではないと思ってて。お互いそれなりに苦しんだり、悲しみがあったり。蔦谷さんとは何回かご一緒させていただいて、すごく愛情深い方だなって私なりにちょっと感じることがたくさんあったので、"この人とだったら音で深い愛の音が鳴らせそうだな、一緒に"って思ったので。」
そんな蔦谷好位置さんが、この曲には「このイントロが絶対にいいと提案したピアノから曲はスタート。 そして、《大嫌い、嘘じ」ゃない》と歌が始まります。 この歌詞の意図とは?
「この曲がすごく曖昧であることをはっきりさせたかったというか、この歌は正しい人にも正しくない人にも寄り添えるものでありたいと思ったから。みんな気持ちって大好きとか大嫌いとかすぐぱっと言うけど、そんな簡単なものではないと思う。大好きの中にも大嫌いがあるし、大嫌いの中にもほんとは愛おしくてたまらない部分があったりするし、なんかそこを見ないで言葉の大枠に引っ張られてしまう感情って、何だかそれは正解じゃない、正しくないなとも思ったりすることがよくあって。だから大嫌いだけど、嘘じゃないけど、でも裏にはいろんな感情があったりする。この曲はすごく曖昧なものなんだよっていうのを冒頭に言いたかったなと思います。確かになんかちょっとパンチのある《大嫌い》から始まる歌詞の曲ではあるんですけど、パンチがあるけど大嫌いって言葉はその意味通りのものじゃないっていう、それをなんか伝えたかった冒頭です。」
そんなリリックでスタートする『hanataba』。ドラマに寄り添うだけでなく、miletさんの こんな気持ちを表現しています。
「3月にアリーナライブをしたんですね。miletのデビュー5周年を記念して。この曲作ってたのが、ちょうどその制作の時にこの曲を詰めていたんですけど、結構自分の中でそのライブに向き合うのもちょっと苦しかったりして。すごく自分の中の色んなどろっとした感情をなんか自分で飲み込みながら過ごしていた時期に、この『hanataba』の歌詞も書き進めていったんですけど。自分の中の自分に語りかけた歌詞でもあったので、だからちょっと自分への後悔というか、ごめんねっていう気持ちもすごくあったので、ものすごく正直な、正直すぎるものになったなとも思います。やっぱり、人にはそれぞれ後悔があるように、私にも後悔するものがあって。その過去だったり、色んな人だったりに向けるごめんねでもあったし。でも、なんかそれに向き合わなかった自分よりも、こうして向き合えた自分は少し強くなれた気もするんですね。歌うことでこの気持ちを忘れたくないなと思えたし。やっぱり過去に向き合うことは怖いんですけど、私は痛くても怖くてもそれに向き合っていきたいなって思わされた曲でもあるので。特別なものになりましたね、改めて聞くと。」
自分の中の痛みに向き合って、正直すぎるくらい真っ直ぐに書いた歌詞。それを表現するのは、miletさんの歌です。素晴らしい歌唱で 多くの人を魅了するmiletさん。歌うときに心がけているのはどんなことなのでしょう?
「んー、難しいんですよね。歌ってやっぱ難しい。なんか私が作る曲、カラオケで歌ってみてほしいけど、難しいんですよ。だからもうピッチをとるのですら難しいんですけど。こんなこと歌手が言うなって思うかもしれないですけど、あるんですよ。人に伝えるための歌って、感情だけじゃどうにもできないっていうか。やっぱりそのベーシックに基礎があってからじゃないと、そこに感情を乗せないとバランスが取れないんですよね。歌の持っているパワーと自分のパワーがぶつかり合っちゃうようなことがあったりして。私も人間なのでね、歌っているといろんな気持ちになる時があって。感情って、特に『hanataba』みたいな曲だと特に溢れ出しちゃったりしますけど、なんかね、自分の感情を優先させるのか、曲を優先させるのかっていうのは。やっぱりね、ライブとかでも特に考えるところでもありますけど、今はいったん感情はもう曲を作る時に存分に込めたので、曲が曲らしく伝わるためにどう歌うべきかなっていうのを考えたり。やっぱり、なぜ音楽に楽譜があるのか、クラシック音楽とかにも楽譜があるのかって言うと、やっぱり音に込めた思いが楽譜になってるんですよ。音符になってるんですよね。」
『hanataba』が主題歌となっているテレビドラマ【アンチヒーロー】は、いよいよ 今週末が最終回。
「どうなっているんだろう?やばいですよ、なんか最後にいつも息止まる展開みたいなのされて。自分でもなんか忘れちゃうんですよ。あ、『hanataba』。そうだ、私の歌だった(笑)みたいな。なんかほっとしますね、あの曲流れると。この怒涛の展開が繰り広げられているドラマにおいては。それで、すごく嬉しかったことがあって。ドラマの【アンチヒーロー】の現場にお邪魔させていただいたことがあって。その時、明墨さんという役を演じられてる主演の長谷川博己さんとお会いした時に、"この曲にすごい許された感じがしたっていうか、気持ちを許してもらえたような感じがして"と言ってくださって。それはその長谷川さんご本人なのか、明墨さんの役柄としてなのか分からなかったんですけど、その誰かの気持ちにすごく近づいて、隣にいて、この曲がほぐすことができたんだなって。自分の苦しいところも込めて作った歌が、その苦しさで寄り添えたというか、共感することができたっていうのが嬉しくて。その上、明墨さんを演じる上での"この役のヒントにもこの曲があった"っていうことを言っていただいて。そういった意味でも、ドラマの内側にこの曲がいられたんだなっていうのを実感できた瞬間。アーティスト冥利に尽きるというか、書いてよかったなと。自分にとっても誰かにとっても、意味のある曲になれたことが嬉しかったです。」
来週も、引き続き、miletさんにご登場いただきます