今回注目したのは、橘流 寄席文字書家である 橘さつきさん。[美しく豊かな働き方]を実践する次世代の女性ロールモデルを讃える『フィガロジャポンBusiness with Attitude Award』2023年の受賞者である 橘さつきさんにお話をうかがいました。まずは、寄席文字とは どんな文字のことなのか、教えていただきました。

「寄席文字とついているので、寄席で使われている文字なんですけれども、演芸、落語、講談、漫才といった演芸の場で使われている文字ですね。寄席文字は、その寄席・演芸の世界で使われる文字ですけれども、その世界がイメージできるような文字であり、かつ縁起文字として、お客さんがたくさん入りますようにとか、右肩上がりになりますようにという想いが込められた文字でもあります。情報伝達だけじゃない表現の力というのがそこに込められているので、やっぱり見た目にもまろやかで豊かな雰囲気もしますし、見てる人が"楽しそうなことをここでやってるな"と温かい気持ちにもなるかもしれないですし、文字だけでそういうことを表せているというのは魅力的だなと感じます。」
落語家さんが舞台に上がった時、横の方に落語家さんのお名前が書いてある、いわゆる〈めくり〉というものに書いてあったり、演芸場に出ていたりする木の札で使われているのが寄席文字です。そして、縁起文字でもあります。お客さんがたくさん入るように、〔マス目いっぱいに 文字を埋めるように〕〔右肩上がりに書く〕。 そんな寄席文字に、橘さつきさんが出会ったのは、どんなことが きっかけだったのでしょうか?
「もともと落語を社会人になってから好きになって、それがきっかけでよく寄席に行っていたんですけれども。落語を好きになった中で、ファン感謝デーみたいなイベントがありまして。その中で、寄席文字体験教室というのがあったんですね。なんとなく寄席に行けば文字は見ていましたので、その文字の存在自体は知ってたんですけれども、単に興味として寄席文字教室があるからちょっとやってみたいかな、っていうのが、初めての寄席文字との出会いではありましたね。」
大学卒業後、印刷会社に就職。そして、落語が好きになり【芸協らくごまつり】というイベントで寄席文字を体験。その後、転機が訪れます。
「私の師匠は荒川区に住んでいるんですが、その荒川区には寄席文字に関わらず色んな職人さんが住んでいて。ただ、皆さん高齢になってきて跡継ぎがいないと言いますか、後継者がいないということで、荒川区としては、やっぱりせっかくの職人さんの技をつないでいきたいという想いで、後継者を育てましょうという企画を荒川区の方でそういう事業を立ち上げたんですね。そこで今の師匠、橘右橘が"寄席文字も"ということで手を挙げていたので、たまたまそれを私が宣伝で見まして。ちょっと面白そうだなと思って、落語も好きだし、という結構軽い感じで。とにかく応募してみようかな、ということで応募したっていうのがきっかけです。もうそもそも何か面白いなって思うことがあったらチャレンジしたいなっていう気持ちがあったので、それがぴったりあったっていうことがありますね。」
2011年、師匠・橘右橘さんのもとで学び始め、2017年、橘流 寄席文字一門、橘さつき と名乗ることを許されいよいよプロとしての活動を開始。神田連雀亭をはじめとした演芸の場での寄席文字のほか、さだまさしさんのカウントダウンコンサートのチャリティ木札といったものまで、幅広く寄席文字を書いてこられました。そんな中、橘さつきさんは、寄席文字を書くことの どんな点に 楽しさを感じているのでしょうか?
「最初師匠が書いているのを見て、すごくスラスラ書かれるので、この白い枠がどんどん綺麗に埋まっていくわけですよね。それを見ているだけでも気持ちがいいんですけれども、いざ自分が書くとなると、まず最初は線があんまり上手くいかないな、というところからスタートして。それで今度、いざ文字を書こうと思うと、その文字のバランスがなんか上手くいかないな、というので。だんだん書き慣れてきた文字は書きやすいんですけれども、と言っても、書き慣れた文字ばかりではないので。書き慣れない文字があらわれてきた時に、やっぱり本当に瞬発力的なものが必要で、それをどうこなせるかっていうのとか。書いてみると、頭と体とどう連動させてそこに埋めていくかという瞬発力的なものも必要だったりとかして。見てるだけでは分からない、体と頭全体を使ってるっていう感覚・集中力というのがあるので、そういうところが楽しいなと思います。」
寄席文字を書く時に、橘さつきさんはこんなことを大切にしています。
「私が師匠にもうずっと再三言われていたのは、とにかく"書く字なんだから"ということをよく言われていたので。枠の中に埋めてはいくんですけれども、本当に枠の中でおさまってしまうと、ポツポツポツっていう、なんていうかフォントを組んだような感じになってしまったりするんですけれども、こっちの筆の動きがこっちに繋がるんだなっていうのが見えたりとか。そういう流れはやっぱり全体の勢いに繋がると思うので、そういうことを大事にしています。」
師匠のもとで学び始めてから13年。橘さつきとして活動を始めて7年。今も印刷会社で働きながら、寄席文字の職人さんとして文字を書く橘さつきさん。最後に、これまでの歩みを振り返っていただきました。
「そうですね。もう本当にどうなるか分からないっていうのがあって。まず応募したものの、応募したからといって仕事ができるわけではないですし、どうなるかというのも確約できていなくて。応募する側もそういうスタンスだったので、なんかどうにかなるのかなってずっと不安でやってきたんですけれども、途中からもうあんまり先のこと考えなくなって、とにかく一生懸命続けるっていうことばっかりだったんです。でも、今の時点では今こうしてお話させていただいているのもそうですけれども、少しずつ少しずつ、色んなことが繋がって、色んな経験させていただいて、本当に文字を書くということ自体もどんどん面白いな、という風なことではあるんですけれども。それプラス、本当に色んな経験・出会いをさせていただいてるっていうことが、もう想像もつかなかったことなので良かったなって思ってますし、これからもそうであってほしいなと思ってます。」
今月5/31(金)午後1時から、新宿末廣亭で、橘流寄席文字一門の会が開催されます。「橘流寄席文字 橘左近を偲ぶ会」寄席文字にゆかりのある芸人さんが出演されるほか、寄席文字の実演もあるそうです。
全席3500円
1階 椅子席(指定席) 5/1より チケットぴあ で発売中
1階・2階 桟敷席(自由席) 当日券として末廣亭窓口販売

