今回は、5月に東京・日比谷の日生劇場で上演されるミュージカル『この世界の片隅に』。このミュージカルの音楽を手掛けたアンジェラ・アキさんの Hidden Story

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ミュージカルの音楽作家を目指して渡米。現地でミュージカルの音楽作りを進めつつ、 日本からのオファーを受けて制作が始まった『この世界の片隅に』。こうの史代さんによる漫画が原作で、昭和の時代・戦前から戦中・戦後にかけて広島で暮らした女性、すずさんが主人公の物語です。そのミュージカルのテーマ曲とも言えそうなのが【この世界のあちこちに】というナンバー。

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このミュージカルは、全体を通して主人公が自分の居場所ってどこなんだろう?という風に探していく探していく物語なんです。昭和の初期の、言ってしまえば時代劇なんだけれども、自分の居場所ってどこなんだろう?っていうのって変な話、令和の今でも、皆もがいて探してるような、本当に普遍的な人生の中での悩みだったり、もがきだったりするなとずっと思っていて。それで、この作品って本当に素晴らしいのは、"この世界の片隅に...何?"っていう、この世界の片隅に"あなたがいた、私がいた"という、『この世界の片隅に』の後のブランクに何を入れるかっていう、それを作品を通して見つけていってほしいなって気持ちで。テーマソングって言いましょうかね、【この世界のあちこちに】は、色んなところに散らばっている私たちの世界っていう色んな人との繋がりだったりとか沢山そういう破片がある中で、それが寄せ集まって1つの形になるけれども、それはずっと続くものでもなかったりね。途中でいなくなる人もいるし、新しく入ってくる人もいるし。だから、それが散らばっても、寄せ集まっても、そこに1つの自分の居場所・形っていうものがあって。そこに自分は存在したっていう風に思える、この世界の色んなところに自分がいたんだっていう風に感じてもらえるようなナンバーにしたかったですね。」

主人公すずさんが暮らす、広島の呉。その呉が、ミュージカルでは戦争中、激しい空襲にあい、町全体が燃えていくというシーンも描かれます。

「最初はもっと違う激しい曲だったんですよ。だけど、演出家でもある上田さんが"実はこういう風な場面をイメージしてます。ステージ上で焼夷弾がお家の中に落ちてきてる、そういう瞬間なんだけれども、舞台の上でこういう風に表現したい"という彼のビジョンありきで。"分かりました。じゃあこんな楽曲はどうでしょうか"っていう風に。だからこれも本当に総合芸術の1つの醍醐味っていうか、自分ひとりで呉の町が燃えていく音楽を作ったら、多分最初にこれは思いつかなかったことだと思うんですよね。多分そのままの、燃え尽くす・燃え尽きる感じの音にしてたと思うんだけども、"いやいや、こういう風に逆に表現すると舞台で演出するともっと悲しい気持ちになるから、こういうアプローチで行こう"というのは、一緒に作ってないとたどり着かなかった楽曲なので。シンガーソングライターのアルバムを作る、ひとりで悶々と自分で試行錯誤して 作っていくものとは全く違う体験なのは、例えばこういう楽曲がいい例だなと思いますね。」

上田一豪さんの脚本に 寄り添う形で制作された音楽。制作の途中で、役者さんたちが実際に曲を歌う〈ワークショップ〉が開催されたそうです。

「そうですね。2年ぐらい作って、1回30曲ほど出来上がったものを、もう演技をするというよりも、振り付けもないような状態でテーブルを囲って、みんなでそれを役割を当てて、喋って歌って喋って歌ってっていうのを初めてやりました。2年間ずっと自分の声でしかデモテープを聞いてなかったから。自分が20人分の歌を歌って、村人から何から全部やってたから、街の人たちとかね。なんだけど、それを30人ぐらいの人数で聞けたのがやっぱりすごく良くて。それでまたああでもないこうでもないっていう、1年ぐらい直しに入るわけですよ。なので2年間作って1年修正したっていう感じかな。」

キャストといえば、ミュージカルの上演に先がけアンジェラさんがリリースしたアルバム〔アンジェラ・アキ sings 『この世界の片隅に』〕。こちらには、主人公すずさんが結婚した[周作さん]という役を演じる、海宝直人さんとアンジェラさんのデュエットが収められています。

「もう海宝さんの歌は本当に最高。私、今までデュエットっていうのをしたことがなかったから。初デュエットが本当に海宝君でよかったなって思うぐらいすごくいい声で、倍音がもう癒しなんですよね。彼の声って出てる周波数がいいというか。ミュージカルはダブルキャストで村井さんという、もう1人すごい素敵な彼もいるので、2人とも美味しく、両方美味しく楽しめる舞台にはなってますけど。私は今回アルバムでは海宝君とのデュエットをさせてもらいましたけど、本当に楽しかったです。」

最後にもう1曲、【自由の色】というナンバーについても伺いました。

「原作の漫画を読んでても、本当に私が1番ぐっとくる1位か2位が、お姉さんとすずの、最後の山なんですよね。 自分の居場所ってどこだろう?って迷ってる主人公に、ネタバレはしたくないですけども色んな辛いことがあったお姉さんが"あんたの居場所はここよ"って言ってあげる。この、なんていうんですかね、この許しというか。本当に深い愛、家族の愛っていうのがどのようにしたら歌で捉えられるんだろうって思ってね、いろいろ試行錯誤して出来上がったこの楽曲はすごく素敵だと思っていて。先日お稽古中に音月桂さんが径子役をやってくれるんですけど、音月さんの歌う【自由の色】で、もう我を忘れて号泣しちゃいました。もう震えるぐらい泣いちゃって。で、もう恥ずかしいと見上げたら周り全員泣いてたからよかったです(笑)。なので、初めて自分の作った歌を客観的に聞いて泣きました。 それぐらいパワフルなシーンになってるし、これはもうね、舞台を楽しみにしてて。私の"自由の色がいい"と思ったら100倍いいです、舞台を見たら。」

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ミュージカル『この世界の片隅に』。5月9日から30日まで、日比谷の日生劇場で上演。その後、全国各地で上演予定です。物語の舞台である 広島の呉での公演も予定されています。詳しくは、オフィシャルサイト、ご覧ください。

ミュージカル『この世界の片隅に』

アンジェラ・アキ