今回は、10年ぶりに日本での音楽活動を再開した、アンジェラ・アキさんのHidden Story

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20148月の日本武道館公演を最後に、シンガー・ソングライターとしての活動を休止。ミュージカルの音楽作家を目指して渡米したアンジェラ・アキさん。まずは、この時のことを振り返っていただきました。

もともとアメリカンミュージカルというスタイルのミュージカルが大好きで。90年代、高校時代に本場のブロードウェイに初めて行った時に見たミュージカルにも圧倒されて、元々好きだったんですね。だけど、まさか自分で作ってみようという発想にはまだいかなかったんだけど、2009年ぐらいかな?小説家の方からこのミュージカル一緒に作ってみない?っていうお話をいただいた時に、初めて、じゃあやってみようって思って。でも2、3年作ってて、やっぱり今の自分の技量だとこれは良いものにはならない、もうこれはダメだと思って。シンガーソングライターとして曲を作っていくのと、ミュージカルの楽曲制作をするっていうのはとっても違うもので。変な話、シンガーソングライターというのは、スリーコードですごい曲を作ったりとかできるんだけれども、やっぱりスリーコードではミュージカルっていうものはできないし。2時間半の1つのストーリーをどういう風に展開していって、登場人物の感情に寄り添っていけるかというのは、はっきり言ってもうすごい技術が必要なんですね。だから音楽大学に入って、作曲家の勉強を本当に1からし直さないといけないということを痛感して、このまま日本の音楽大学に入ろうかなとも思ったんですけど、日本の音大に行ってシンガーソングライターがこんなとこに来て、周りの人たちもなんか勉強しづらい環境になったら嫌やし、先生も教えづらい環境だったらすごく迷惑かけるなと思ったので、本当に自分のことを誰も知らない場所に行って勉強しようという風に決断しました。だからアメリカの音楽大学に入学して、もう日本のキャリアをとりあえず1回休止、ストップしようと思いました。」

ちなみに、当時、アンジェラさんのハートをつかんだのは『オペラ座の怪人』、『ミス・サイゴン」といったミュージカルの代表的な作品、そして...

「あの当時RENTがすごい流行ってて。革命的なミュージカルで、初めてRENTが出てから、ミュージカルとポップスの境目・溝がぐっと縮まって。それで、そこからどんどん20年、30年かけて、そのギャップっていうのはほとんどないっていうか。ブロードウェイのキャストアルバムをリリースしてもビルボードで全然1位になったりするから、本当にかっこいいものだっていう認識はどんどんみんな思うようになってきてる。だから私も日本で自分の周りにあんまりミュージカルが好きっていう友達がいないから、"え?なんでミュージカルなん?"とか、よく聞かれるんですよ。最後にMステに出た時も、タモリさんに"えっ、なんでミュージカルで辞めるん?"ってすごい言われて(笑)。いや、ミュージカルってこんな風にもなるんだよ、っていうミュージカルを日本でも聞いてもらいたいなと思って。いつか必ずそういうミュージカルを日本でも作れたらいいな、という風に思って飛び立った次第なんですけど。」

ミュージカルのアルバムと言えば『ハミルトン』なども大人気でしたし、ポップス、ロック、ヒップホップなど、ポップミュージックとのクロスオーバーは進んでいます。そんなミュージカルのことを学ぶべく、アメリカに渡ったアンジェラさん。南カリフォルニア大学 音楽学校に入学します。この学校を選んだ理由は...

「これもJ-WAVEだから、この話が面白いって思ってくれる人はきっといると思うんですけど。当時すごく仲良くしてもらってたグレン・バラードというプロデューサー、アラニス・モリセットの最初のアルバムを作られた方で。他にもデイブ・マシューズ・バンドだったり、マイケル・ジャクソンの〈スリラー〉にも関わってるような名プロデューサーなんですけど、グレンと知り合うきっかけがあって。それで、彼に自分の悩みというか、今こういう風なことをしたいんだけどって。彼がちょうど映画になった『ゴースト』のブロードウェイのミュージカル・ヴァージョンを作ってて、"いや、だったらもう、本当にこの大学で勉強しな"って。"僕もその大学と関わりがあるから、ここに行くときっとこういう色んな勉強ができて、4年で学べることを多分2年に凝縮しても勉強できるから"っていう風に引っ張ってもらったんですよ。しかもロスのホテルに泊まってて、グレン・バラードが車で迎えに来てくれて、一緒に大学に行ったっていう。ずっとアラニスのアルバム【Jagged Little Pill】の裏話をいっぱい聞きながら。あと、昔エルトン・ジョンの電話番をしてたっていう話をしてて、その話とか聞かせてもらったりして。私、なんてすごい特別なことをしてもらってるんだろう今、っていう認識はあったけど、グレンに背中押してもらったからか、すごい気合が入って。1年目から全部最前列で、自分で学費払うとなったらもう大至急元を取る気持ちでいっぱいで、先生に質問しまくるし。周りの学生たちはもうなんなんこいつ?みたいな感じだったですけど、本当に楽しかったです。」

その音楽大学で2年。その後、バークリー音楽大学のオンライン授業を受けるなど、5年ほどは、とにかく学ぶ日々でした。

「5年ぐらい経ってから、もしかしたらブロードウェイに繋がるかもしれない大きなお仕事のオファーが舞い降りてきて。本当にこれはもうすごいチャンスだと思って、ぜひやらせてくださいって。その仕事を受けて、その作曲を始めたんですね。それで、アメリカのエージェントもつけて、ちゃんとそっちでマネージメントもしてもらえるように。でも、そこから2年ぐらい制作してたらコロナになっちゃって。それでその予定が全部後ろに倒れてしまって。その間に日本のミュージカルのオファーもいただいて、それが『この世界の片隅に』なんですけど。結局、形としては日本の方が先にオープンすることになったんだけど、ブロードウェイの方は上手くいってれば、まさに今年ぐらいだったはずだったんですけど。でもまだ現在進行形で同時進行でこっちのプロジェクトも、だからニューヨークへの夢はまだ諦めずに頑張って同時進行でやってます。この作品たちに没頭するのが4、5年でしたね、その勉強の後は。」

今、名前が挙がった『この世界の片隅に』。こうの史代さんによる漫画で、2016年にはアニメ映画としても大ヒットしました。そんな作品のミュージカル。今回は、上田一豪さんが脚本・演出を担当されています。

「上田一豪さんという脚本を書いてくださる方と、彼は演出もされるんですが、彼の第1稿の原稿を読んだ時に、『この世界の片隅に』という原作をどのように脚色したのかというのを初めて目の当たりにして、これは素晴らしいって感じて。映画もあるし、ドラマもあるし、じゃあなんで舞台化するの?これがちゃんと答えられなかったら、やる意味ないなと思っていたんですけど、彼の原稿を読んだ時に、これは舞台化する意味は本当にこの原稿の中に詰まってるし、彼の脚本を読んだ時に目を閉じただけでも舞台が見えて。どのように演出されていくかという想像も勝手にできたし、彼の活字が歌っていたし、踊ってたんですよ。初めて活字が歌って踊る、っていうのを体験して。これだったら私は全身全霊込めてこの脚本に音楽をつけたい、っていう気持ちになったんですね。」

アンジェラ・アキ

アルバム「アンジェラ・アキ sings 『この世界の片隅に』」 4/24リリース

ミュージカル『この世界の片隅に』日生劇場で5月に上演