今回は、日本を代表する温泉地の1つである大分県別府市で、温泉によって体調を整える《湯治の文化》を多くの人へ伝えたい!と活動されている、菅野静さんの Hidden Story

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現在は、湯治ぐらし株式会社の代表を務める菅野さん。ご出身は大阪で、大学卒業後は、大阪・中国の上海・東京で広告会社に、さらに 地方創生のコンサルティング会社に勤務されました。別府へ移住するきっかけは、家族旅行で別府を訪ねたこと。

「自分もサラリーマンを辞めて子育てにまい進している最中だったんですけれども、やっぱり仕事もしたいなと思っていましたし。あと自分の趣味として温泉があったんですが、なかなか子供を持ちながら温泉に行くっていうのは、旅行としては難しいということも感じていました。その頃に家族旅行でたまたま別府の方に旅をした時にですね、鉄輪温泉というエリアに初めて行くことになったんです。鉄輪温泉はとにかく湯けむりがもうもうと上がるマジックにかかったような町なんですけど、湯治宿を経営されている女将さんたちが町に出てきて、すごく生き生き働いておられるんですよね。で、その湯治宿の女将さんっていうのは、その湯治宿がお家なんですよ。自ら女将さんが住みながら、子育てしながら、お客様を迎えているというところが、私もこういうことをやってみたいなとすごく思えたんです。それで、ここだったら私が全部諦めずに全てを叶えることができるんじゃないかということをビビビって感じてしまって。ビビビっと来ちゃったんで、その足で市役所に行って保育園の状況とか、あと市民が何人ぐらいいてどんな生業を皆さんがしててみたいなのを聞いて。元々マーケティング上がりだったんで、そんな話をばーっと聞いたら、これは何か温泉でお仕事できそうだなっていうことも想像がついて。もうすぐに、ここだったらいけるなっていう感じで。本当に気軽にポンと決めてしまいました。」

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別府に移住した菅野さん、住む場所を探している時に、ある一戸建ての物件と出会います。自宅としてはマンションを選びますが、その一戸建ての物件も契約することに。

「そうですね、すごく惚れちゃって。風の通りが良かったり、日当たりが良かったり。あと、その空き家になったお家、たくさんのお布団とか本とか食器とか残されたままだったんですけども、お聞きすると関西の方が別荘として鉄輪温泉に一戸建てを買ったっていうお話も聞いてまして。湯治をされにここに来られてたんだな、というストーリーもばーっとその場で浮かんでしまってですね。そういった文化を絶やさずに私が伝えていけたらいいなっていうことも片やで思った時に、そのお家のスペック表みたいなのをいただくんですけれども、そこに7LDKのお家だったんで、"シェアハウスとか寄宿舎にどうですか"って書いてあったんです。その一言で事業が生まれたっていう感じですね。そうか、湯治のそういうシェアハウスをしてみたらいいんじゃないかな、と思いついちゃって。 それで、湯治と暮らしを掛け算するようなおうちにしてみようかなと思いついてしまって、【湯治ぐらし】と屋号をつけて事業がスタートしてしまいました。」

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また、シェアハウスを運営しようと思った理由の1つは別府にはいくつかの大学があり、学生が多いこと。若い人たちに、湯治について伝えたいと考えました。

「もともと湯治というのは、湯で治すと書く通り、よそから旅としてやってきて1週間とか1ヶ月とか長逗留をしながら温泉の力を借りながら体を立てなおしていくというスタイルなんですけども、別府では当たり前のように温泉があるので、暮らしながら温泉を日常の中に取り入れているというのが別府の方々の暮らし方なんですね。で、よそから来た私のようなものから見ると、それこそが素晴らしいものだと思っていたので、学生たち...特に湯治なんか知らないような学生たちや若い人たちに向けて、この暮らし方って素敵じゃない?って言いたいなと思いました。そういう湯治の翻訳家になりたいなと思って、お家化して、そのお家で暮らしながら自分の体とか心を見つめ直せるような時間を持ってもらいたいなと思って。」

若い人たちに、温泉に暮らしながら、自分の心と体を見つめなおしてもらいたい。では、そのスタイルは若い世代にどう受け止められたのでしょうか?

「鉄輪にいた学生たちに声をかけて、こんなこと考えてるんだけどどう思う?ってインタビューをしたんですね。そしたら、1人手伝ってくれることになって。その学生が頑張ってくれて大学のお友達10人ぐらい連れてきてくれてインタビューをまたさせてもらったら、10人中8人がここに住みたいと言ってくれたんですよ。じゃあもうこれ事業化行けるな、という感じで。事業化した後に、その学生の中から大学で授業してみたらどうですか?と言ってもらって、大学の先生をご紹介いただいたら、もう来週にでも授業してくれ、となって。そして、その授業をしていたらあっという間に入居者が埋まっちゃったっていう。そういう感じで、結局、募集広告を出さずに満室化してしまいました。」

20202月にスタートしたシェアハウスは、現在3軒に拡大。また、シェアハウス事業のほか、〈温泉ワーケーション〉のプログラム。さらに、ひとりひとりにあった温泉の泉質・入り方などを伝える温泉カウンセリング〔みんなの保健室〕も イベント的に開催しています。

「入居者さんのことを見てると、皆さんは温泉マニアじゃないんですよね。ただただ鉄輪の暮らしが良いなっていう感じでやってきてくれた子たちで。でも本当はひとりひとりにあった温泉の泉質とか入り方とかロケーションの選び方ってあるのになと思ってたことを、もっとサービス化・プログラム化しても良いかもと思いついて、カウンセリング形式で提供してるプログラムになります。具体的には、血圧を測ったりとか、ストレス度合いをチェックするなどバイタルチェックをして、そのあと簡単な心理テストをやるんですけれども。これで体と心の状態を把握できるということで、この方に適した温泉と泉質を導き出すということをやってます。」

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湯治ぐらし株式会社の代表、菅野静さんに最後に伺いました。温泉の魅力、そして今後やってみたいのは どんなことなのでしょうか?

温泉ってすごく奥深いなって。ただ温泉にちゃぽんと入って、ほへっ~と気持ちいいなと思っていただけの人間が温泉の色ってなんでこんなにちゃうんかなとか、そういう疑問から始まって。それで、また入る温泉だけじゃない魅力とか、数字化することで見えてくる温泉とか、それから科学とか物理学とか地質学とか歴史学とか、色んな見方で温泉を切ることができて、本当に魅力が満載だなっていうことを改めて感じてるんですね。で、この温泉を活用して、私たちの暮らしがどういう風に変わっていくだろうってことにすごくワクワクしてて、あの手この手で温泉と湯治のこの魅力を伝えられることをやっていきたいと改めて思ってます。どんどんやりたいことが温泉のように湧き出てしまって困ってます。」

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⚫︎〈温泉ワーケーション〉は、今年6月、7月頃から本格的に湯治カウンセリング付きの1週間の滞在プログラムとして提供していく予定。詳しくは、【湯治ぐらし】の活動について、菅野さんがnoteの記事にまとめられていますので興味をお持ちになった方は、そちらをご覧ください。