今回は、【最も黒いゲルインクボールペン】としてギネス世界記録に認定された、三菱鉛筆が手掛けるボールペン『ユニボール ワン』のHidden Story

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まずは、『ユニボール ワン』の開発がスタートしたきっかけを三菱鉛筆株式会社 研究開発センター品川の小椋孝介さんに教えていただきました。

「きっかけというか、発案は私個人で出したというところなんですけれども。当時、新しい何か面白いものを作れないかなと考えていた時に、例えば書き味の良し悪しとか、文字の乾く速さなどは比べれば分かるけれども、なかなか伝わりにくい部分もあったりしたので。色に特徴があるもの、色がすごく鮮やかだったり、濃いものを出せれば、お客様にもかなり違いが分かりやすく手に取っていただけるかなと思ったのがきっかけですね。 社内では、通常の業務とは別に、新しいものを何か考えて作り出そうという、半分部活のような活動がありまして。それが1年に1回プレゼンテーションする機会がありまして、その活動の中で発表させていただいて。その年は、ユニボール ワンの元になるものが、社内で1位を取って、実際に業務なったというところですね。」

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ボールペンで色に特徴があるもの、色が濃いものを作ろう。そのために必要だったのは...

「ユニボール ワンの秘密というか、なぜ色が濃いかっていうところの核心に関わる部分なんですけれども。これまで、筆記具に限らないんですが、色を出す成分っていうのは ある程度ものが決まっています。ユニボール ワンにはですね、当社では、ビーズパック顔料という風に呼んでいるんですけれども、その色を出す材料そのものから開発するということをしています。」

色を出す材料自体を開発されたということ。ビーズパック顔料と呼ばれるその成分、どんな経緯で思いつき、どのように開発が進んだのでしょうか?

「もともと私自身が思いついたきっかけは、例えば、紙に文字を書くとノートの裏側にもインクが染み込んでしまいますよね。あれってもったいないなと思って、その染み込んでしまう部分が全部表側に残ったら、ものすごく濃いんじゃないか?と。そういう風に考えたのがきっかけでした。では、染み込まないようにするためにどうしたらいいんだろう?というのを、研究所内で色々試行錯誤して。1つは、やはり紙は繊維でできてるので、繊維の中に入り込まないように、色を出す成分自体を紙の繊維の網よりも大きく作るということがありました。やはり実際にはなかなか難しい部分もああって、ただ単にその成分を大きくするだけだと書き心地が悪くなったり、あと、ボールペンのペン先ってすごく精密で目では見えないぐらい細い隙間を縫ってインクが出てるので、そこで詰まってしまったりという問題がやっぱり出てくるんですね。ただ単に大きくするだけではダメという部分があって、色々工夫もあって、大きいんだけれどもスムーズにインクが出るように色の成分の形だったり、その大きさをできるだけ均一に整えるだったりといった工夫がなされています。」

このプロジェクトを発案し、主導してきた小椋さん。いま振り返って大変だったこと伺いました。

「私が1つ大きいことをあげるとしたら、ビーズパック顔料自体を作る設備というか、工場すらない状態だったので。私は研究開発センターに所属しているんですが、開発中は半分近くの時間を工場に通い詰めてやってたというところがあります。開発の初めの2年間ぐらいですね。ビーズパック顔料を作る工場自体を作るっていうところからやった、というようなところです。ラーメンを作ろうと思ったら小麦を作るための畑から作ったみたいな、そこからの苦労があったというのが大きかったなと思います。」

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そして、デザイン面でも『ユニボール ワン』は特徴があります。普通のボールペンは、手で持つ部分が透明で、中のインクが見える状態になっていますが、『ユニボール ワン』は中のインクが見えません。このデザインについて、商品開発部の古場涼太さんに教えていただきました。

「すごく微妙なところではあるんですけど、インクが見えないっていうことは、今回我々のデザインで結構大きいチャレンジでした。それまでそういう100円から150円ぐらいのボールペンって、軸が透明でインクの中身が見えるというのが非常に特徴的だったんですね。それで、やっぱり社内でもデザインを作るにあたって、インクがしっかり見えることは必須条件だろうというのが割と上層部の中でもあったんですね。 ただ、そこに対して我々は違うものを作るとなった時に、インクの中身が見えなくてもお客さんは本当に欲しいデザインであれば買いたくなるんじゃないかというところに仮説を立てて調査を重ねてった結果、今のように全くインクが見えないんですけれども、お客様に使っていただいてる商品になってるのかなというのは思っています。軸のデザインも、それまでデザインが上部の方と先端の方と少し切れ目が入っていたり、もしくはグリップのゴムが材質が違うので切れ目が違って見えちゃうということがあったんですけれども、今回のユニボール ワンに関してはシンプルに見せたいっていうところがあったので。グリップにゴムはついているながらもしっかりと、そこの部分はシンプルに見えるような色合いに調整しています。」

三菱鉛筆の古場涼太さん、小椋孝介さんに最後に伺いました。ものづくりに携わる中で、大切にしているのはどんなことなのでしょうか?

「古場:使い方が限定されることがないアナログなツールだからこそ、使う人それぞれの個性が結構出るのかなと思っています。そういった個性を大事にするためにも、私が意識してるのは、やっぱりお客様の声を第一に聞くっていうところです。

小椋:ちょっとオーバーかもしれないんですけれども、性別・年齢問わず、ほぼ全人類に使っていただけるようなものだと思います、筆器具というのは。ですので、やはりその品質の部分を最高の状態に持っていくという責任はもちろんですし、あと商品の魅力・ユニークさというのが できるだけ伝わるように、面白いものを作るぞというところは いつも心に留めながら開発をしています。筆記具の使い方は人それぞれかなと思います。勉強で使ったり、音楽を作詞作曲する時に使ったりとか、誰かに手紙みたいな形で想いを伝えるために使ったりとか。そういったいろんな人の人生の、色んなページに寄り添えるというのは、すごく幸せなことだなと思いますし、それ自体、開発の情熱にも繋がることになると思って努めて参りたいと思います。」

ユニボールワン