今回注目したのは、農業を営む方が農業の方法を工夫して温室効果ガスを削減することによって収入を増やすことができる。そんな仕組みを農家のみなさんが利用することをサポートしている会社『フェイガー』。株式会社フェイガーの代表 石崎貴紘さんにお話を伺いました。

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農家さんの脱炭素を支援させていただいて、その脱炭素の成果 削減できたCO2の何トン分というところをJクレジットあるいは海外の認証機関に認証を受けて、それで認証を受けるとそれが売買可能になるんですね。そこの生成から販売までを一気通貫で支援している会社になります。」

Jクレジット】というのは、企業や自治体などが温室効果ガスを削減した量を【クレジット】として認証し、それを売買できる制度のこと。この【Jクレジット】、フェイガー創業のタイミングである2022年には農業を対象にしたものがほとんど無い状態だったそうです。

「創業時は無かったんですよ。なので、海外の仕組みを使おうと思っていたんですけれども、創業して半年ぐらいで たまたまJクレジットという日本の国がやっている制度に農業の分野で1つ新しい手法が認められたので、本当にこれはラッキーなんですけれども、 このおかげで日本の制度の上にものせることができるようになっているというのが現状です。Jクレジット制度そのものは昔からあったんですけれども、その中で農業を対象にしたものが非常に限定的で。それで我々がメインで取り組んでいる水田の手法は今までありませんでした。水田を対象にした手法は2023年3月に導入が発表されたというようなものになります。」

農業の方法を工夫して温室効果ガスを削減し、それをクレジットとして売り、収入にする。この手法を先行して取り入れてきたアメリカでは、こんな例もあるそうです。

「調べる中で分かったんですけれども、アメリカのある農家さんだと脱炭素だけでも年収数千万円を稼ぐとかいったレベルで収益化しているような事例もあって。それはアメリカの農家なので大規模なケースなんですけれども、それぐらい農家が脱炭素を進めるというのは1つの収入源になっている、というのが進んでいる国の状況ですね。」

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温室効果ガスの削減量を取引するJクレジット】という仕組み。その農業の分野で、"水田にまつわる手法が導入された"というお話がありました。その手法とは、どんなものなのでしょうか?

「水田というのがメタンの発生源になっています。水田は水を張っているという時期が長いんですけれども、そこに水を張っている状態で嫌気性細菌が土壌の有機物を分解する。その過程でメタンを発生させます。メタンはCO225倍の温室効果があるので、1トンのメタンを出すと25トンの二酸化炭素を出しているのに等しい状態になるんですけれども、ここに対して〈中干し〉と呼ばれる工程がありまして、それを延長することによってこの作用を抑えられるというのが仕組みになります。 中干しというのは、一定期間水を抜く工程なんですけれども、一般的にも3日から1週間程度やられていることも多いんですが、これをプラス7日間行うことによって先ほどの嫌気性細菌が死滅して分解の作用が抑えられることによって、結果的にメタンの発生が減る。これが脱炭素に繋がるというような仕組みになります。」

水田がメタンの発生源になっている。そういう事実があるんです。しかし、田んぼに張った水を 一定期間 抜くことを〈中干し〉というそうですが、これによってメタンの発生がおさえられるということ。

「農家さんと話していると、どちらかというと農家さんって環境に良いことをやっているとご自身も思われてますし、周りからもそういう風な目で見られている中で、突然CO2の排出源になっていると言われて悪者にされつつあると。こういったところに対して、農家さんとしてはもちろんそんなつもりはないので少し驚きもあるっていうところがある一方で、農家さんって気候変動に1番最前線で接している方なので、例えばちょっと今年は雨が降らなくてとか、作るものが変わってくるとか、そういったところに対してダイレクトにこう影響を受けている方々なんですけれども。そこでこういったことによって脱炭素に貢献できるっていうところをお伝えすると、"貢献できるならぜひやりたい"と言っていただけることも多くて。数字で言うと世界の10パーセントの温室効果ガスは農業が出しているんですけれども、それは裏を返すと削減ポテンシャルが10パーセント分あるということで。かつ、それをお金をもらいながら進められる。ボランティアではなく、そういう風に進めたことによって収益化できるというところは、持続可能な取り組みになりますので、そういったところで農家さんにもお金という面でも喜んでいただけますし、自分たちが脱炭素というところに貢献できるっていうところでも すごくやりがいを持ってやっていただけるケースが多々あります。」

世界の温室効果ガス、10%は農業に由来している。ただ、石崎さんがおっしゃるように、逆に言えば それだけ削減のポテンシャルがあるということになります。ただ、ご紹介しているJクレジットの仕組み。これまで広がっていなかった背景には、手続きの複雑さがあったようです。

手続きは正直めんどくさくて、国の制度でドキュメンテーションワークがかなり発生したりとか。あるいは、中干しを延長したというところで言うと、その証拠となるデータを提出していただく必要などがあって。かつ、資料見ると結構数式とかが書いてあったりするので、ちょっと一見すると分かりにくかったりするんですけれども、そういったところを各農家さんがご自身で紐解いて国に申請を上げて、というところは かなりハードルがあるなというのが正直なところです。あと、農家さんからすると、それでクレジットを手に入れたとしてもクレジット自体はお金ではないので、これを販売しなきゃいけない。ここも自分で申請し自分でクレジットを手に入れると販売までやらないと最終的にはお金にならないので、そこまでを1農家さんがやりきるというのは基本的には難しいというかですね。農家さんも脱炭素のために農業やられてるわけではないので。そういった時に我々のようなサービスを使っていただくことによって、この中干しだったら、中干しの取り組み自体は農家さんにやっていただく必要があるんですけれども、その後の申請とか販売とかは我々が全部お受けすることによって、農家さんの負担を軽減しているというような状況になります。」

●お米農家の方、より詳しくは、フェイガーのウェブサイトをご覧ください。今回、石崎さんにお話をうかがう中で、フェイガーが日本のみならず《世界を見据えた壮大なヴィジョン》を持ってらっしゃることがわかりました。次回は、そのお話を引き続きお送りします。

フェイガー