今回は、2022年に【紅はるか】という品種のさつまいもが《さつまいも・オブ・ザ・イヤー》を獲得した茨城県の会社、『照沼』Hidden Story

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茨城県 那珂郡にある株式会社 照沼は1962 、干しいもやスイカの卸問屋として創業。その後、自社で干しいもの生産をスタートし、現在は農薬や化学肥料を使わずにサツマイモを栽培。それを原料に 干しいもや焼き芋を製造・販売しています。

今回お話を伺ったのは、取締役社長の佐々木貴史さん。以前はゼネコンで会社員として働かれていた佐々木さんが農業の仕事に就こうと思ったきっかけは、あるセミナーで日本の食の課題に触れたことだったそうです。

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食料の問題は、質の問題と量の問題があると思うんです。質の問題で言うと、今の野菜は昔に比べて栄養価が低いって言われているんですが、農薬とか化学費用とかを使って栽培すると見た目はいいものができるんですけど、その中の栄養分とかミネラルとかが昔の野菜に比べては少なくなっているんです。

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量の問題でいうと、食料自給率の問題で。日本は30パーセント、40パーセントと言われてますけども、いま世界で食料危機が迫ってると言ってる中で、日本人が食べる食料ぐらいは日本の中で作れないと日本が大変なことになってしまうという思いがあって。農業が大事だと思ったんですけども、サツマイモというものを選んだっていうのが、サツマイモっていうのは準完全栄養食と言われてまして、戦時中もサツマイモを食べて、戦中・戦後なんとか食を繋いだっていう部分もあって。サツマイモを農薬や化学肥料を使わずに、品質的にも安全安心なものとして作るためには有機栽培がいいだろうということで、有機栽培で大規模にサツマイモを作ってるこの会社に惹かれてこの会社に来ることにしたという感じですね。」

佐々木さんのおっしゃるとおり、日本の食料自給率、昨年度はカロリーベースで38%。世界中で気候変動が起こる中、食料の生産がどうなるのか心配な点もあります。さらに、食の質の面でも有機栽培に取り組みたいということで照沼という会社にやってきたというお話でした。これまで広く行われてきた、農薬や化学肥料を使う〈慣行栽培〉と比べ、有機栽培の難しさは どんな点にあるのでしょうか?

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まず、慣行栽培でやると農薬とか化学肥料だったり殺虫剤・防虫剤を使えるということで、草を抑えたり虫とか病気とかを抑えるっていうのが薬で対応できるんですけれども、有機栽培ですとやっぱりそれは使えない中、土壌の中の微生物であったり、自然環境の中で栽培するものですので。草も人力で 物理的に取らなきゃいけないとか、虫の発生が出ても薬を使えないとかっていうのがあるので。その辺がやっぱりの有機栽培の大変なところにはなりますね。それを大規模にして会社としてやるってなると、やっぱりノウハウというか、作業の効率化も考えると、やはり除草作業が1番大変にはなるんですけど、普通にやると人手がかかって手間もかかるので皆さんあまり出来ないっていうのが本音だと思いますね。かなり大変なことではあるんですけど、うちがこれを成功させれば次に続く人がいてくれたり、そういうのを皆さんに指導したりして広げていくようなことにも繋がるのかなと思ってやってますね。」

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そして、そんな有機栽培で作られたさつまいも【紅はるか】が2022年に《さつまいも・オブ・ザ・イヤー》を獲得しました。

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審査委員の中の審査委員長に山川先生という方がいるんですけど、その方が紅はるかの品種を開発した方で。その方に審査をやっていただいたんですけども、その方が講評の時に、うちのサツマイモが"これぞまさしく紅はるかの味だ"と言っていただきましてですね。慣行栽培で作ると、結構甘く作れたり・太らせたりっていうことはできるんですけど、有機栽培ですと本当に自然のサツマイモを作るという弊社の考えでやってますので。干し芋にした時もそうなんですけども、毎日食べられるような自然な甘さというのを目指していて、アスリートのようなサツマイモを作りたいなという考えでやっていました。それで、それが本当の紅はるかの味だと言っていただけたっていうので、やってたことは間違いじゃなかったなと思った感じですね。」

そして佐々木さん、有機栽培をおこなうことには こんな利点もあると考えています。

今後の食糧危機とか世界の情勢にもよるとは思うんですけども、今まで農薬とか化学肥料っていうのは海外からの輸入にかなり頼ってる部分があってですね、今回のウクライナの戦争等も含めて その資材がかなり高騰しているという事実もあるんですけれどもね。2年前とかに比べると、ものによっては1.5倍とかそれ以上高騰している。米農家さんなんかは、もうかなり大変な状況になってるというかですね。米の買い取り価格も下がってる中、肥料代がどんどん上がって、もうやってけないからやめる。高齢の方なんかは離農するとかっていう方もかなり増えてるって話聞きますので。そんな中で、そういう輸入に頼らないで国内のもので自分たちの食べるもの・野菜を作るとなると、堆肥であったり国産の何かしらの資材を使わざるを得ない。そういうことになってくると、有機農業というものが今後起こりうる食糧危機とか、資材が入ってこないとかっていうリスクに対しては解決策の1つになるんじゃないかなと考えてます。」

株式会社『照沼』 取締役社長 佐々木貴史さんに最後に伺いました。『照沼』の今後のヴィジョンとは?

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「会社として上手くいくことによって、この有機栽培っていうのも世の中に広めていけると思っています。そこはまず実業として会社を成り立たせて利益を出してっていうところと、利益が出た後はその余裕を社会の貢献じゃないですけども、有機栽培・有機農業を広げていく、という活動にも繋げていきたいなと今も思っています」

 照沼