今回は、前回に続いて、およそ20年ぶりに オリジナル・メンバーによって制作された、くるりのニューアルバム『感覚は道標』Hidden Story収録された曲のことを中心にヴォーカル、ギターの岸田繁さんにお話をうかがいました。

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まず伺ったのは、アルバムの1曲目【ハッピーターン】。この曲は 、〈くしゃみ〉から始まります。

「インパクトみたいなものと共に始まりたいなっていう感じがあって。なんていうんかな、ぼやんとしたこと歌ってる歌でもあるんで、ちょっと注意を引きつけたいっていうか。くしゃみって面白いんですよね。人がくしゃみしてるのって、なんかちょっと気が抜けるというか。なんていうんかな、えーっ、みたいな感じになるというか。例えば昔、エアロスミスとかゲップの声が入ってる曲とかありましたけど、ゲップはちょっと、やっぱりあんまり聞きたくないなと思って、くしゃみぐらいやったらいいかなって感じで。なんかこう、噂されてるとかね。あとは、花粉症の人...大変やなとか。まあコロナの時代ですから、飛沫飛ばすことに対してすごく自制心もあるじゃないですか。でもCDに入ってるぐらいだと、ちょっとね、いいかなと思って(笑)。くしゃみもね、逆回転にしてみたりとかしたんですけど。逆再生にすると、なんかイマイチで。やっぱ、くしゃみはくしゃみがいいなっていうね。」

アルバムの3曲目に収録された【朝顔】。

この曲は くるりのヒット曲【ばらの花】へ、いわばセルフ・オマージュを捧げたような1曲なんだとか。

「これも少し実験というか。【ばらの花】って、くるりの代表曲のように言われてますけども、すごいリズムのパターンとかが変わっていて。シンプルに聞こえるんですけど、実は構造が結構変わった曲なんですよね。だから実はやってみると、普通じゃないみたいな。高校の教科書に【ばらの花】の楽譜が今載ってるらしいんですけど、演奏できないんじゃないかなと思うぐらいに実はちょっと不思議なことになってて。でも、それっぽいことをやってみたら、みんなが"あ、そういうの来たか"と思ってパッと始まって。やっぱり【ばらの花】的なパターンって言うんですかね、そういうのが得意な人たちなんだなっていう、もっくんと佐藤さんとやると。ずっと【ばらの花】ってライブで僕ら演奏していて、他のドラマーとやったりとかもしてるんですけど、オリジナルの感じにならないんですよね。 オリジナルの【ばらの花】のアンサンブルみたいなのって、この3人の独自の何かなんだなっていうことを、今回ちょっと【ばらの花】的なことやったら "あ、そうなんや"と思って、驚きもありましたけど。」

主に、伊豆スタジオでのセッションによって作曲・アレンジがおこなわれたこのアルバム。例えば、こんな曲も。

「6曲目の【LV69】という曲は、バッと録って、そのあと結構ポストプロダクション的に色んな楽器を入れたりとかしてたんです。冒頭ちょっとバグパイプみたいな音がサンプルが鳴るとこがあるんですけど、裏でベースの佐藤さんがスタジオにたまたまあった、おもちゃの笙みたいな楽器があって、笙を入れてみようかみたいな感じで。ま、悪ノリ的にね、彼が吹いたん初めてやと思うんですけど。吹いてみたら、たまたまキーが一緒で。しかもどうやって吹くんか彼もよく分かってないから、とりあえずリズムに合わせてババババババババって吹いてたんですけど、多分あんなにリズミックに笙を吹いたんは彼が最初かもしれないですね。あの曲ではババババババババって吹いてます。」

笙は雅楽で使われる楽器で、音をのばして鳴らすもの。それを、ババババっと吹いている!こういうアイディアも、セッションならではなんでしょうね。そして、セッションの中でサンバのようなラテンのビートを取り入れたのが【お化けのピーナッツ】。

ピーナッツには悪いんですけど、なんかピーナッツってちょっと僕の中では残念な感じでもあるんですよ。落花生美味しいから好きなんですけど、ミックスナッツの中だとちょっと立場がなんか悪いじゃないですか。もっとクワッ!ていうのいっぱい入ってるでしょ?柿ピーも柿の方が主役やから、柿の種のおかきの方が。ずっとピーナッツ残念みたいな感じもあったりとか勝手に思っちゃってるんですよね。偏見ですけど。それで僕、小学校6年生の時に下級生からピーナッツ男って呼ばれてたんすよ。小さかったからなんですけど。そういうのもあって、なんかちょっとピーナッツで悔しいみたいな。なんとなく自分の中の比喩的な、のび太くん的な感じっていうんですかね。そういうキャラクターです。」

こうした作詞について、岸田さんは映画《くるりのえいが》の中で、"思いついた瞬間が、最も説得力がある"とコメントされています。

タイミングとかはすごく大事。やっぱり芸人さんとかでも、思いついたことをぱっと言う人って面白いやないですか。でもちょっとどうかなと思って言う人って、タイミング逃しているみたいな。思いつきながらって言うのって、未整理なこともあるんですけど、やっぱり説得力出ますよね。なんか新鮮っていうか、言葉に火が付いてるっていうんですかね。言葉がまだ生もの感じがするっていうか。」

最後に伺いました。今回、オリジナル・メンバー3人が集まって制作したことについて岸田さんはどんな感想をお持ちなのでしょうか?

「もしこういう風に曲を作ってたりとかしたら、僕ら3人以外誰も知らなくても、これは面白かったんやろうなって思うんですよ。CDにして出しますけども(笑)。もし、誰にも聞かれなかったとしても、"あ、おもろかった"って思いそうっていうか。それぐらい、それぞれの出そうとしてる音の世界だったりとか、混じり方が自分たち自身に向いてるもんでもありますし。楽しいって感じかな。うん、曲作りから楽しかったかな。録音もすごく楽しかったですね。普段も楽しいんですけど。結構、楽しかったかな。うん。」

くるり

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