今回は、くるりのニューアルバム『感覚は道標』Hidden Story

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ヴォーカル、ギターの岸田繁さんにお話をうかがいました。くるりは、1996年に京都の立命館大学の音楽サークルで出会った、岸田繁さんとベースの佐藤征史さん・ドラムの森信行さんによって結成されたバンドです。森さんが2002年に脱退。それ以降は岸田さんと佐藤さんが中心になり、様々なミュージシャンをメンバーに加えて音楽活動を続けてきました。

そんなくるりですが、今回のアルバムは、岸田さん、佐藤さん、森さんというオリジナルメンバーによって制作されました。まずは、オリジナルメンバーでアルバムを作ろうと思った理由を教えていただきました。

私はバンドのメインのソングライターなんですけれども、最近バンドに曲持っていこうっていう時は、自分で作って、デモって言うんですかね?それをある程度ちゃんと形作ってから持っていくっていうことが多くなったんですけど。

そもそもくるりっていうバンドは、バンド3人でスタジオに入ってゼロからアイデアを出して、その場でセッションしながら作っていく、っていう方法が僕たちの作り方の最初だったんですよね。

その作り方をまた試したいなということは常々思っていたんですけれども、今回、映画になるということで。なんかきっかけがあるとね、そういうのもやりやすいんで。とりあえずやってみようかということで、オリジナルのメンバーで集結しました。」

アルバム制作現場に密着した、くるり初のドキュメンタリー映画《くるりのえいが》。1013日から劇場公開、同時に配信もスタートしています。そのアルバム制作現場。今回、レコーディングの地に選ばれたのは、伊豆スタジオ。

どんな良い曲であっても、どういう状況であっても、あるいはそれぞれの演奏であっても、どこでやるかってすごい大事なんですよね。

特に今回は映画も同時に撮るということなんで。スタジオって全部似ているので、最初はスタジオではないとこで撮りましょうかっていう話もしたんですよ。旅館とか、廃校になった学校とか。

でも、やっぱりちょっと現実的じゃないというか。そんな中で、都内のスタジオじゃないところ、あるいは僕が住んでいる京都のスタジオじゃないところのどこかがいいなっていうことになって。それで、伊豆スタジオは以前も行ったことあるんですけど、環境的にも機材の感じとかも含めて良いんじゃないかということで選びました。」

"機材の感じも良い"というこのポイント、さらに突っ込んで聞きました。

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「伊豆スタジオならではのスタジオの特徴っていうのがいくつかありまして。まず、メインコンソール。僕らは卓って呼ぶんですけど。エンジニアの人がフェーダーに音を立ち上げたりとか、EQしたりとかをする機械があって。卓を使われる方もいらっしゃるんですけど、今はほとんどパソコンの中で完結しちゃうことなんで、古いやり方なんですけど。

ちょっとこれもマニアックな話なんですが、ほとんどの商用スタジオ・都内のスタジオだと、SSLっていうメーカーの卓が多いんですよね。それで、SSLは割と音がキラッとしててクリアで綺麗な音がするんですけれども、伊豆スタジオのメインコンソールはNEVEっていうメーカーのもので。NEVEは割と音が太めで、ちょっと潰れた感じの音がするんですかね、なんとなくザラついた音っていうか。生演奏でちょっとヴィンテージ感のあるロックを録る時とかは、NEVEはやっぱりすごく馴染みが良くて。あとは、リバーブでしょうかね。

ほとんどの場合は、もうソフトウェアにシミュレーションリバーブっていうのが最近はあって、例えばカーネギーホールの響きみたいなのもデジタルでシミュレーションできるんですよね。それがかなり使い良いんで、僕はそういうの普段使ってたりとかもするんですけれども。

伊豆スタジオの場合はスタジオの2階部分に何もない部屋があって、そこに音を流し込んで響かせて、それを集音するっていう。昔ながらのやり方ですけど、リバーブルームがあるんですよね。やっぱり、それで録音すると、なんか気持ちいい音がするというか...凄くいいんですよね。」

そんな伊豆スタジオでセッションをおこない、その中で作曲されたナンバー。最初に形になった曲は、【世界はこのまま変わらない】。 

「どういう動機のソングライティングにしようか、みたいな話もバンドでしていたんですけど。まあバンドとエンジニア氏でそういう話になって、昨今の日本の音楽事情についての話なんかも色々しました。

まあ、あんまり、おじさんがやってるロックって、怒ってないじゃないですか。でも、ちょっと怒ってもいいんじゃないかなみたいな話はしてて。ただ、なんていうんかな、あんまり若いバンクバンドが何かにイライラしててヒリヒリしながら何かに怒ってるみたいなんとか、かっこいいと思うんですけど、おじさんが怒りを"アーッ"ってやってたら、なんかちょっとみっともないっていうかね、そういう感じもするんで。

ただ、普段生きてて、これはおかしいやろって思うことはたくさんあるわけですから、"おこですよ"ぐらいの感じがいいんじゃないかなみたいな。色んな人たちの色んな不条理なものに対する怒りとか、その人の自分勝手な怒りとか、そういうものをランダムに散りばめて全部にカギかっこをつけるっていうか。それで、結局1番は何を伝えたいのかなっていうことだけ。

サビのとこで、このタイトルになってる〈世界はこのまま変わらない。君がいなければ〉っていうところを書いて。」

くるり